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そもそも「設計契約」ってなに?施工契約とはどう違う?

Q: 設計契約と施工契約は、どう違うの?
A: 設計契約は「設計図を描く」ことに関する契約、施工契約は「工事をする」ことに関する契約です。


要点:

設計契約と施工契約は混同されがちですが、目的も責任の所在もまったく異なります。設計契約は、店舗の完成形をイメージし、図面や仕様を確定するためのもの。一方、施工契約は、その設計図に基づいて実際に工事を行うためのものです。


解説:

店舗を出店する流れの中で、最初に結ぶことが多いのが「設計契約」です。これは、店舗の間取りや内装、設備配置、照明、配線など、あらゆる仕様を設計者(設計事務所や建築士)とすり合わせて、図面という形にまとめていく作業に関する契約です。

その後、完成した図面に基づいて、施工業者と「施工契約(工事請負契約)」を結び、実際に工事を進めていくのが一般的な流れになります。

ここで大事なのは、設計契約と施工契約は、完全に“別物”であるということ。設計と施工を別々の会社に発注することもあれば、同一の会社(設計施工一括)に頼むこともありますが、契約上の内容は明確に分けられるべきです。


手順:

  1. 設計契約では「図面が完成するまで」がスコープとなる。
  2. 施工契約では「工事完了と引き渡しまで」がスコープとなる。
  3. 設計ミスや施工ミスが発生した場合、どちらの契約に起因するかで責任の所在が異なる。

注意点:

・設計と施工を別会社に依頼する場合、両者の連携が不十分だと、施工中のトラブルに発展しやすいです。
・設計者が作成した図面に不備があっても、それをもとに施工した会社がすべて責任を負うわけではありません。
・契約書の中で、どこまでを「設計者の責任」とし、どこからが「施工会社の責任」かを明記しておくことが重要です。


店舗設計の契約書とは?何のために必要?

Q: 店舗設計に契約書って、本当に必要なの?
A: 必要です。契約書は、トラブルを防ぎ、責任を明確にするための「安全装置」です。


要点:

契約書は、設計者と依頼主(施主)との間で合意した「約束事」を明文化するものです。どの範囲の業務を、どんな条件で、いつまでに、いくらで行うのか——この基本情報を明確にすることで、後々の誤解や対立を防ぐ役割を果たします。


解説:

店舗の設計業務では、初期の要望ヒアリングから始まり、基本設計、実施設計、法的確認、工事見積支援、施工図チェックなど、段階的に業務が進行します。これらの業務のうち、どこまでを誰が担当し、どの範囲までが契約の対象になるのかを明確にしておかないと、「そこまでは契約に入っていない」「聞いていない」「費用が別でかかる」などの認識違いが発生します。

特に注意したいのが、設計と施工が別会社に分かれるケースです。この場合、設計者が作成した図面に基づき、まったく別の施工会社が工事を行うため、仮に問題が発生した際に「図面通りにやっただけなのに」という責任の押し付け合いが起こりやすくなります。

こうしたトラブルを防ぐためにも、「設計契約書」で以下の点をしっかり明記しておく必要があります:

  • 設計の対象となる業務範囲(基本設計/実施設計まで など)
  • 契約金額と支払い条件
  • 納品物(設計図・仕様書など)の内容
  • 納期とスケジュール
  • 追加・変更時の対応方法と費用負担
  • 設計内容に問題があった場合の責任範囲(瑕疵担保)

手順:

  1. 契約書のドラフト(案)を受け取ったら、設計者に確認しつつ、自身でも1つずつ理解する。
  2. 「何が含まれていて、何が含まれていないか」を線引きする視点で読む。
  3. 疑問点や曖昧な記載は必ず事前に質問し、追記や修正を求める。

注意点:

・口頭で合意したことが契約書に書かれていない場合、その内容は基本的に「契約外」とされる可能性があります。
・「設計だけでなく、現場監理や施主代行も含めてほしい」などの追加要望がある場合、それも明文化する必要があります。
・逆に、業務外の責任(例えば、近隣対応や消防協議など)まで自然に依頼されがちなので、その線引きも契約でクリアにしておきましょう。


契約書に必ず含まれる基本項目とは?

Q: 店舗設計の契約書には、どんな項目が必ず必要なの?
A: 業務範囲、報酬、納期、納品物、責任範囲などの“5大項目”は最低限必要です。


要点:

契約書は、形式ではなく“内容”が命。特に店舗設計では、将来のトラブルを未然に防ぐためにも、次のような基本項目は必ず押さえておく必要があります。


解説:

  1. 契約の目的・業務範囲
    • この契約が何のためのもので、設計者がどこまで関与するのかを定義します。
    • 例:「本契約は、○○市○○町のテナントビル1階に新設するカフェの内装設計業務一式を対象とする。」
  2. 報酬(設計料)とその支払い条件
    • 設計費用の金額だけでなく、「いつ・どの段階で・どのように」支払うのかが重要です。
    • 一般的には「着手時30%、基本設計完了時30%、実施設計完了時40%」など段階分割型。
  3. 納品物とその形式
    • 図面一式(PDF・CADデータ)、仕上表、仕様書、パースなど。
    • デジタル納品か紙納品か、部数なども記載すること。
  4. スケジュール・納期
    • 設計開始日、各段階の目標納期、最終納品予定日。
    • スケジュールがズレた場合の対応や、天候・承認待ちなどのリスク想定も含める。
  5. 責任範囲と瑕疵担保責任
    • 設計に瑕疵(ミス・不備)があった場合の修正義務と、その範囲。
    • 施工トラブルに発展した場合の責任の所在も整理しておく。

要素の追加:見落とされがちな項目

  • 著作権・使用権の扱い
    • 設計図面の著作権は設計者に帰属するのが一般的。
    • ただし、第三者施工による使用が可能かどうかを明記しておくこと。
  • 再設計・変更対応の条件
    • 発注者都合で設計変更が発生した場合の費用負担。
    • 「◯回まで無料、それ以降は追加費用」など条件を設定しておくと明確。

チェックリスト:

  •  契約の目的と対象が明記されているか
  •  設計範囲が具体的に記載されているか
  •  設計料の金額と支払スケジュールが明示されているか
  •  納期と各ステージのスケジュールが設定されているか
  •  納品物のリストと形式が定義されているか
  •  瑕疵担保責任の範囲が規定されているか
  •  著作権・再利用に関する記述があるか

トラブルになりやすいポイントとその回避法

Q: 店舗設計の契約で、どんなトラブルが起こりがち?
A: 「設計のズレ」「追加費用」「納期遅れ」の3つが代表的です。


要点:

設計契約で多いトラブルは、「認識のズレ」によるものが中心です。契約書で具体的に取り決めておけば防げたものも少なくありません。この章では、実際によくあるトラブルと、それを回避する契約書の書き方を解説します。


トラブル事例1:希望と違う設計が上がってきた

背景:
オーナーは「高級感のある内装」をイメージしていたが、提案されたデザインがシンプルすぎた。設計者は予算を重視して設計したつもりだったが、方向性が一致していなかった。

なぜ起きる?
「雰囲気」や「イメージ」の言語化・図示が曖昧なまま進んだため。

どう防ぐ?

  • 契約書とは別に、デザインの方向性(コンセプトシート)を添付して合意を形成しておく。
  • 「イメージのブレは設計者の責任ではない」ことも契約書に明記すると、過度な責任追及を防げる。

トラブル事例2:仕様変更で追加費用が発生

背景:
設計途中に「やっぱり壁をガラスにしたい」とオーナーが要望。対応したが、後から追加費用を請求されてトラブルに。

なぜ起きる?
「変更に関する費用の取り決め」が契約書に明記されていなかった。

どう防ぐ?

  • 「軽微な変更は費用に含む」「大幅な変更は都度見積もりと同意が必要」などの条件を契約書に明記。
  • 仕様変更依頼は書面(メールなど)で履歴が残る形で行うことを習慣化。

トラブル事例3:納期が遅れたのに責任の所在が不明

背景:
建築確認申請に時間がかかり、工事の開始が遅れた。設計者は「施主側の書類提出が遅れたから」と主張。

なぜ起きる?
遅延要因が多岐に渡るなかで、「どの遅れが誰の責任か」が契約上明確でなかった。

どう防ぐ?

  • 契約書に「納期に影響を及ぼす外部要因(承認待ち・天候等)については責任を問わない」旨を記載。
  • 各タスクの「役割分担と期限」を事前に整理し、双方で合意しておく。

回避法のまとめ:

トラブルの種類主な原因契約書での対策
設計のズレイメージ共有不足コンセプトシート添付・責任の明文化
追加費用仕様変更時の条件未記載変更ルールの明記・記録の徹底
納期遅れ責任分担の不明確さリスク要因の免責条項・役割分担表

設計と施工が別会社になるときの注意点

Q: 設計会社と施工会社が別のとき、どんな問題が起こりやすい?
A: 設計ミスと施工ミスの“責任の境界”が曖昧になる点が最大のリスクです。


要点:

設計と施工が分離している場合、現場でトラブルが起きたときに「どちらの責任か」を巡る争いになりやすいです。責任の押し付け合いを避けるためにも、契約書には「責任の線引き」が必要です。


解説:

設計施工一括方式(いわゆるデザインビルド)では、窓口が一本化されているため、トラブルの責任を問いやすい傾向にあります。

一方、設計会社と施工会社が別々になる「分離発注方式」では、役割分担が明確な反面、「責任の所在がグレーゾーンになりやすい」という落とし穴があります。


よくあるケース:

  • 図面には記載がなかったが、現場判断で施工した結果、レイアウトがズレた。
  • 設備の仕様が図面と違ったが、設計側は「施工業者の判断」、施工側は「図面が不十分」と主張。
  • 工期が遅れたが、どの段階で滞ったか分からず責任が不明瞭に。

契約書で整理すべきポイント:

  1. 納品図面の最終責任者を明確にする
    • 「最終図面を設計者が監理し、その内容に施工者が準拠する」旨を記載。
    • 設計者が立ち会う場合と、しない場合の対応も明記。
  2. 設計変更・現場対応時の指示系統を定義
    • 「施工中の変更提案は、必ず設計者を経由して承認を得る」ことをルール化。
    • 書面(メールなど)による記録を義務づける。
  3. 不備発生時の責任分担の基準
    • 「設計図通りに施工されていれば、施工者は免責」などの線引きを契約書に含める。

手順:

  1. 設計者との契約時に「施工会社が別の場合に想定されるリスク」を聞く。
  2. 「誰がどこまで関わるのか」「何をもって完了とするか」を細かく確認。
  3. 責任分担を明記した覚書や別紙を契約書に添付する。

注意点:

・設計者による「工事監理」(図面通りに施工されているかの確認)は任意業務であり、契約に含めなければ実施されないこともあります。
・監理が含まれていないと、設計図の解釈ミスによる施工トラブルが見逃されるリスクが高くなります。


設計事務所とのコミュニケーションで注意すべきこと

Q: 設計事務所とスムーズにやりとりするには?
A: 「やりとりの記録を残すこと」と「言葉の誤解を防ぐ工夫」が大切です。


要点:

多くのトラブルは“言った・言わない”の認識のズレから始まります。契約書だけではカバーしきれない細かなやりとりを、どう記録し、どう共有していくかが、円滑なプロジェクト進行のカギです。


解説:

設計者とのコミュニケーションでは、専門用語・図面表現など“伝わりにくい言葉”が頻出します。

さらに、店舗オーナー側の希望も「雰囲気」「なんとなく広く見せたい」といった抽象的な表現になりがちで、誤解の温床になりやすいのが実情です。

そのため、以下のようなポイントを押さえておくことで、コミュニケーション上のトラブルを未然に防ぐことができます。


実践ポイント:

  1. 言葉ではなく「画像」や「事例」で伝える
    • 「こういう雰囲気の内装にしたい」は、PinterestやInstagramの画像で共有。
    • カフェなら、照明の雰囲気や席配置などもビジュアルで伝えると効果的。
  2. 議事録・メールなどの「記録を残す」
    • 打ち合わせ後は必ず内容をまとめたメールを設計者に送る。
    • 認識合わせだけでなく、「後で言った言わない」を避けるためにも重要。
  3. 要望と優先順位を整理して伝える
    • 「絶対に譲れないこと」と「できれば実現したいこと」を分けて伝える。
    • 予算や物理的制約で、すべての要望が叶わない場合の判断基準を事前に共有。

契約書に反映すべきこと:

  • 「打ち合わせ内容の議事録は、原則クライアントが作成し設計者と共有する」旨を記載してもよい。
  • 「契約書に記載のない要望は、別紙または追記で合意を明文化する」など、対応ルールを明記。

注意点:

・設計者側は「ご希望がなければ、標準仕様で進めます」と判断する場合があります。
・「何も言っていない=満足している」と誤解されるリスクがあるため、要望や懸念は必ず言葉にして残しましょう。


契約前にチェックすべき「抜け漏れ項目」リスト

Q: 契約書でよく見落とされるポイントは?
A: 追加料金の条件、責任範囲、著作権、スケジュール遅延時の扱いなどが“抜け漏れ”になりがちです。


要点:

契約書を読んでも「何が抜けているか」には気づきにくいもの。
以下に示す10のポイントを事前にチェックすれば、多くのトラブルを回避できます。


チェックリスト:契約前に確認すべき10項目

  1. 契約対象の業務範囲が明確か
    • 基本設計、実施設計、確認申請、設計監理など、どこまで含まれるか。
  2. 報酬の総額と支払スケジュールが明記されているか
    • 分割払いのタイミングと、支払い条件(着手/中間/納品など)。
  3. 納品物の内容と形式が明記されているか
    • 図面、仕様書、パースなど。データ形式(PDF、DWG等)も確認。
  4. スケジュールと納期が具体的に記されているか
    • 各ステップの完了日や目安期間、遅延時の扱いも明記。
  5. 設計変更時の条件と費用が明確か
    • 何回まで無料か?追加はどういう条件で?を定義。
  6. 設計者の瑕疵(ミス)への責任が明記されているか
    • ミス発見時の対応方法、費用負担の有無など。
  7. 著作権・再利用に関する記述があるか
    • 施工業者への図面提供に問題がないか。
  8. 設計者の現場監理(設計監理)の有無が明記されているか
    • 含まれない場合、現場での設計意図が反映されないリスクあり。
  9. トラブル時の解決方法(合意解除、仲裁方法など)が定められているか
    • 万一のトラブル時に協議解決の方法が書かれているか。
  10. 打ち合わせ内容・変更履歴の記録方法が合意されているか
  • 言った言わないの防止策。議事録作成やメール記録の扱い。

解説:

契約書は“あるべき項目”が書かれているだけでなく、“必要な項目が書かれていないこと”もリスクです。
特に、追加費用や責任分担に関する記述はあいまいにされがちですが、ここが曖昧だとトラブルに直結します。


注意点:

・契約書は「専門用語」で書かれていても、内容がわからなければ必ず質問を。
・書いていない項目こそ要注意。「当たり前だから書いてない」というのは危険です。
・「これって含まれてますか?」と質問して、設計者の説明と照らし合わせながら確認するのが確実です。


店舗ならではの設計契約の注意点とは?

Q: 店舗の設計契約って、住宅やオフィスと何が違うの?
A: 業種特有の「規制・機能・運用条件」が多く、見落とすと開業できないこともあります。


要点:

店舗設計には、住宅やオフィスにはない“業種特有の設計条件”が多く存在します。
それに対応できていないと、消防検査で不合格になったり、営業許可が下りなかったりするケースも。
契約時にそのリスクをどうコントロールするかが重要です。


業種別によくある見落とし例

業種見落としがちな設計要件リスク
飲食店厨房の換気・防火仕様、グリストラップ、動線の分離消防法不適合、保健所の営業許可NG
美容室給排水設備の数・位置、作業エリアの明確化保健所審査で指摘、開業遅延
小売店避難経路の確保、通路幅、視認性の確保消防・バリアフリー基準違反
医療・介護バリアフリー対応、診療科目ごとの間仕切り基準建築基準法、医療法との不整合

契約書に盛り込むべきポイント

  1. 関係法令・許可要件への対応責任の所在
    • 設計者がどこまで各種規制(消防、保健所、建築基準など)に対応するのか。
    • 契約書に「営業許可取得に必要な設計条件を考慮する」旨を明記できると安心。
  2. 行政協議・申請対応の範囲
    • 誰が役所や消防と協議を行うのか?同行は必要か?設計者の同行費用は?
  3. 営業開始日から逆算したスケジュール感
    • 契約時に営業開始日が決まっている場合、その日程に間に合うための“逆算工程”を設計者と共有し、契約書に目安として記載。

実践アドバイス:

  • 「設計者が業種の特性を理解しているか」を確認しよう。実績がある場合は安心材料になる。
  • 「前回こういうトラブルがあったので、それが起きないようにしたい」と伝えると、設計者も具体的に対処しやすくなる。

注意点:

・設計者は建築法規には詳しくても、保健所や消防の“実務運用”に詳しいとは限りません。
・業種ごとの要件をすべて網羅してもらいたい場合は、その業種に特化した設計経験があるかを確認し、必要なら行政への同行協議も依頼しておきましょう。


【適ドア適所】にそった「まとめ」

店舗設計の契約書は、ただの形式的な文書ではありません。
それは、開業までの道のりをスムーズに進めるための「地図」であり、「転ばぬ先の杖」です。

店舗設計では、店舗の業種や規模、予算、スケジュールに応じて必要な設計内容がまったく異なります。
にもかかわらず、設計契約書がテンプレート的に作られたり、説明も不十分なままサインを求められるケースも少なくありません。

本記事では、以下の3つの軸を意識して構成しました:

  1. 何が書かれていないとトラブルになるのか?
    • 仕様変更の扱い、納期遅れの責任、施工との連携など、“盲点”になりやすい項目に注目。
  2. 契約前に気づいておくべき視点は?
    • 設計と施工が分かれている場合の責任分担、業種特有の設計要件など、判断の境界線を明確に。
  3. 契約書を読む力=判断軸をもつことが“最適設計”につながる
    • 「誰が、どこまで、何をやるか」を言語化する力が、あとから大きなリスクを防ぎます。

私たちが提唱する「適ドア適所」の思想も、まさにこの「判断軸をもつこと」にあります。

自動ドアにおいても、「すべてを電動にすることが最適」とは限りません。
同じように、店舗設計においても、「全部おまかせ」ではなく、「自分に必要な判断軸」をもつことで、
最も適した形で“自分の店舗”をつくることができると、私たちは考えています。

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