京都で店舗を構える際、外観のデザインや内装のおしゃれさだけでなく、**「地域との調和」や「京都ならではの制約」**を踏まえた設計が求められます。
この記事では、京都での店舗設計を検討し始めたばかりの方に向けて、「何を基準に設計者を選ぶべきか」「何を事前に理解すべきか」という視点から、失敗しないための考え方と判断軸をお伝えします。
目次（このページの内容）
京都での店舗設計は、なぜ難しい？
京都での店舗設計は、他地域と比較して「一筋縄ではいかない」と言われることがよくあります。その理由は、単に建築的なルールがあるからだけではなく、歴史や文化、そして住民感覚という“見えない要素”が大きく影響するためです。ここではまず、京都ならではの事情と、それが設計にどのような影響を与えるかを整理してみましょう。
地区によって異なる「景観条例」と「建築制限」
京都市内の多くのエリアでは、景観地区や高度地区といった法的な区分が設けられており、これらは店舗設計に直接的な影響を与えます。
たとえば「景観地区」に該当するエリアでは、建物の高さ制限や屋根の勾配、外壁の色彩、さらには看板のサイズやデザインにまで細かな規制があります。これに加えて、地区によっては「伝統的建造物群保存地区」や「美観地区」といった、より厳しい制限が課されている場所もあり、設計の自由度が大きく制限されるのです。
京都らしさへの「無言の期待」と美意識
法的な制限以上に、設計者が苦労するのが地域住民や周囲の店舗との調和感です。京都は古くからの町並みが残る街であり、地域住民の多くは“京都らしさ”という曖昧だけれど強い価値観を持っています。無理に「現代的な建築」で目立とうとすれば、周囲との調和を乱すとして反感を買う可能性もあります。
また、観光客も多い京都では、「和風であること」を期待されることが多い反面、それを表層的に真似ただけでは“なんちゃって感”が出てしまい、ブランドイメージを損ねるリスクもあります。
土地の形状・立地の制約も独特
京都市内では、昔ながらの狭小地（間口が狭く奥に長い「うなぎの寝床」型の敷地）が多く存在します。そのため、建物の配置や動線設計に高度な工夫が求められます。
また、路地や町家が密集する地域では、工事車両の搬入が制限される、近隣との境界があいまい、といった物理的なハードルも少なくありません。
観光地としての側面と、地域住民としての顔
さらに京都という都市は、観光地としての顔と、日常生活の場所としての顔を併せ持っています。観光客に魅力的に映るデザインが、地元住民には“派手すぎる”と受け止められることもあり、バランスの取り方がとても繊細です。
要点まとめ
Q: 京都での店舗設計が難しいのはなぜ？
A: 法規制・景観条例だけでなく、住民の美意識や土地の特性、観光地としての性格など、見えない条件が多く存在するため。
京都の店舗設計で重視すべき５つの判断軸
京都で店舗を設計する際、単に「どんな設計事務所に依頼するか」ではなく、「どんな視点で設計を進めていくべきか」という判断軸を持つことが非常に重要です。ここでは、事業者が設計者を選ぶ前に知っておきたい、5つの主要な判断軸を紹介します。
1. 機能性とデザイン性のバランス
「デザイン重視にしすぎて、実際には使いづらい店になってしまった」
これは実際に多く聞かれる失敗例です。京都の店舗設計では、“京都らしい”和の雰囲気を追い求めるあまり、機能性が犠牲になるケースもあります。
理想的なのは、業種に適した導線や収納、作業効率を第一に考えた上で、それを包む空間としてデザインを設計すること。たとえば、飲食店であれば厨房の配置やスタッフの動線、美容室であればセット面の間隔と鏡の高さなどが該当します。
2. 法規対応（景観条例・用途地域）
先述した通り、京都市には厳格な景観条例があり、設計者が条例に精通しているかどうかが設計の成否を左右します。
設計事務所選びの際は、必ず「その地域での設計実績があるか」を確認しましょう。たとえ建築スキルが高くても、京都特有の法規や景観規制を知らなければ、プランが通らずにやり直しになる可能性すらあります。
3. 店舗の「動線設計」：顧客とスタッフの導線最適化
動線設計とは、来店者がどう動くか、スタッフがどう動くかを考えて、ストレスなく目的を達成できる空間配置をつくることです。
京都のように敷地が限られていたり、歴史ある建物を活用する場面では、通常よりも工夫が必要になります。たとえば、入り口からレジ・座席・トイレまでの導線、スタッフの補充ルートやバックヤードの配置など、設計段階で緻密に考える必要があります。
4. 地域に馴染む素材選定と照明計画
京都では「木材」「和紙」「漆喰」「石材」など、自然素材をうまく活かした空間が好まれる傾向があります。とはいえ、素材選びを誤ると「なんちゃって和風」になりがちです。
また照明も重要な要素です。店内が暗すぎても入りづらく、明るすぎても京都の街並みにそぐわない。光の色温度・配置・照度にまで配慮することで、自然と京都の雰囲気に馴染む店づくりが可能になります。
5. 維持管理・運用面までを含む設計思想
設計は“完成がゴール”ではありません。むしろ、開店後に発生する「清掃のしやすさ」「修繕のしやすさ」「空調の効き方」など、運用面の視点が組み込まれているかが非常に重要です。
たとえば壁材や床材の選定、エアコンや照明の配置、什器の移動のしやすさなど、長く店舗を維持するための工夫がなされているかどうかで、数年後の快適さと維持コストが変わります。
要点まとめ
Q: 京都での店舗設計では、どんな視点を持って進めるべき？
A: 景観や地域性に配慮しつつ、機能性・法規対応・動線・素材・維持管理といった実務的観点からバランスよく判断すべき。
次は「H2-3：京都らしさをどう活かす？安易な和風化に注意」に進みます。
京都らしさをどう活かす？安易な「和風化」に注意
「京都で店舗を出すなら、やっぱり和風のデザインにしないとダメですよね？」
そんな声をよく耳にしますが、それは本当でしょうか？ここでは、京都らしさを“どう演出するか”という問いについて、和風＝正解ではないという前提から考えていきます。
「京都らしさ」＝「和風」ではないという視点
京都といえば古民家・町家・和風建築…というイメージを多くの人が持っています。観光客もそうですし、事業者側も“京都らしさ”を出そうとして、和の要素を多く取り入れようとしがちです。
しかし、実際には**「京都らしさ」＝「和風」ではありません**。
たとえば、以下のような事例があります：
- 現代的なミニマルデザインのカフェが、町家の骨格を活かして“静けさ”を表現している
- 素材や色合いだけで京都の自然との調和を生み出しているセレクトショップ
- 和風建築ではないが、照明のトーンや植栽の使い方で“京都らしさ”を演出している美容室
つまり、“京都らしさ”とは見た目の話ではなく、**空間全体からにじみ出る「佇まい」「静けさ」「控えめな美」**のような感覚的要素なのです。
地元住民と観光客、どちらを主対象にするかで変わる
もう一つ重要なのは、**「誰に向けた店舗なのか」**を明確にすることです。
- 地元の常連客をターゲットにするなら、あえて“和風すぎない”方が落ち着ける
- 観光客が主なターゲットなら、ある程度「わかりやすい和」の演出が効果的
ここを誤ると、「観光客にはうけるが、地元には浮く店」あるいは「地元には馴染むが観光客が気づかない店」になってしまいます。
京都らしさの演出方法：素材・色味・サイン・植栽の活用
“京都らしさ”を演出するには、和風の外観に頼らずとも、繊細な素材や光の使い方で表現する方法があります。
- 素材：無垢材、和紙、土壁など自然素材の組み合わせ
- 色味：朱色や藍色、黒・墨色など、日本の伝統色をアクセントとして使用
- サイン：木製看板や行灯風の照明、控えめなロゴ配置
- 植栽：坪庭や玄関先の苔・竹・南天など、日本的な植物の使い方
こうした要素を部分的に取り入れることで、過剰にならずに京都らしさを伝えることが可能です。
「和風」過剰演出の落とし穴
安易に「とりあえず格子をつければ京都っぽいだろう」といった発想で設計すると、むしろ“チープな観光地のコピー”のようになり、京都という土地の持つ繊細な感性に反してしまうリスクがあります。
京都では「いかにも」ではなく、「さりげなさ」「控えめさ」が評価されます。設計の段階で“引き算の美学”を理解している設計者かどうかが、差を生みます。
要点まとめ
Q: 京都らしい店舗デザインって、和風にすればいいの？
A: 和風にしすぎると“作られた感”が出る。素材・照明・植栽などで「佇まい」と「控えめな演出」を意識することが、真の京都らしさにつながる。
設計〜施工までの流れと期間の目安
「設計にどれくらい時間がかかるのか？」「依頼してから開店までのスケジュールは？」
これは京都に限らず、すべての出店予定者にとって気になるポイントです。このセクションでは、店舗設計から施工までの一般的な流れと、それぞれの段階での注意点を解説します。
全体の流れ（フェーズごとに区分）
一般的な店舗設計〜施工の流れは、以下の5つのフェーズに分かれます：
- ヒアリング・現地調査（1〜2週間）
クライアントの要望や事業内容、物件の状態を確認。設計者と事業者の意識をすり合わせる重要なフェーズです。 - 基本設計（2〜4週間）
間取り、導線、外観など大まかなレイアウト案を作成し、イメージを共有。ここで方向性をしっかり固めておくことが後々の修正を減らします。 - 実施設計（3〜5週間）
内装・設備・構造などの詳細図面を作成。施工会社との見積もり精度にも関わるため、慎重に進めます。 - 確認申請・届出（0〜4週間）
必要な場合は役所への申請を行う（※京都市は特に景観関連の申請に時間がかかる場合あり）。 - 施工（4〜10週間）
工事の規模や内容によりますが、内装中心で約1〜2ヶ月。古民家改修や町家活用だとさらに長くなることも。
期間の目安：設計〜施工完了まで約3〜6ヶ月
標準的なスケジュールとしては、設計〜完成引き渡しまでで約3〜6ヶ月を見込むのが一般的です。
物件の取得状況、予算、施工内容の複雑さによって変動します。
- シンプルな内装改装 → 約3ヶ月
- 既存物件のスケルトンリノベーション → 約4〜5ヶ月
- 町家改修などの特殊対応 → 6ヶ月以上
設計と施工を「一貫対応」か「分離発注」か
設計事務所によっては、施工まで一括で請け負う場合もあります。一方で、設計は設計者に、施工は施工業者に分けて依頼する「分離発注」の方法もあります。
| 区分 | 一貫対応（設計施工一体） | 分離発注 |
|---|---|---|
| メリット | 窓口が一本で楽。施工内容との整合性がとりやすい | コストが透明。設計と施工のチェック体制が働く |
| デメリット | 価格の透明性が低くなりがち | 窓口が複数になり、調整の負荷が増す |
京都の場合、「景観申請」や「工事の難易度」が高くなりがちなので、一貫対応でスムーズに進めるパターンが多いですが、事業者の知識レベルや時間的余裕によって選び方が変わってきます。
「急ぎすぎ」は失敗のもと
よくある失敗例が「物件の契約を急ぎすぎて、設計に無理が出た」「開業日を決めた後で設計を始めた」というケースです。
設計を始める前に、ある程度のスケジュールと調整余白を見ておくことが、成功への第一歩です。
要点まとめ
Q: 京都での店舗設計は、どれくらいの期間がかかる？
A: 物件の種類や内容によるが、設計〜施工までで3〜6ヶ月が一般的。特に京都では法規対応や物件条件により長期化することもある。
店舗設計の費用相場と、コストを抑える工夫
「京都で店舗を出すには、どれくらいの設計費用がかかるの？」
「できるだけコストは抑えたいけれど、質は落としたくない」
そんな声に応えるべく、このセクションでは設計費用の相場感と、無理なくコストダウンするための考え方を解説します。
設計費用の目安：坪単価と業務内容
京都での店舗設計における一般的な費用感は以下の通りです（目安）：
| 内容 | 坪単価の目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 設計費用（基本設計＋実施設計） | 2万円〜5万円／坪 | 図面・法規対応・打ち合わせ含む |
| 設計＋施工の一括対応 | 10万円〜25万円／坪 | 内装工事費を含む総額目安 |
| 町家・古民家改修 | 20万円〜40万円／坪 | 状況調査・特殊施工・構造補強が必要 |
※金額は目安であり、物件の状況・施工範囲・デザインの複雑さによって大きく変動します。
初期コスト vs 運用コストのバランス
安くつくる＝成功ではありません。
重要なのは、長期的に「無理なく使い続けられる店」を作ることです。
たとえば、
- 安価な床材を使った結果、数年で張り替えが必要に…
- 空調効率を無視して照明計画を立てたため、冷暖房費が高騰…
このように、初期コストを抑えた結果、運用コストがかさむケースは珍しくありません。設計の段階で「数年先の維持コスト」を視野に入れて設計することが、結果として費用対効果を高めます。
コストダウンの考え方と工夫
無理に予算を削るのではなく、メリハリをつけたコスト配分がポイントです。以下のような工夫で、品質を保ちつつコストを抑えることができます。
● 素材の見直し
- 無垢材→突板仕上げにする
- タイル→塗装仕上げやパネル利用に変える
→ 質感は残しつつ、コストを圧縮できます。
● 照明計画の最適化
- ダウンライトの数を適正化
- 間接照明をうまく使うことで器具数を削減
● 家具・什器の再利用
- 以前の店舗や他店舗の什器をリメイクして使用
- リースや中古品の活用も一手
● 一部DIYの活用
- オープン後の装飾やディスプレイを自分たちで行う計画もコスト調整に効果的
補助金・助成金の活用も検討
京都市や商工会などでは、店舗改装や起業支援の補助金制度が用意されていることもあります。特に空き家活用や地域活性型店舗の場合、補助率が高くなる場合もあるため、事前のリサーチが大切です。
要点まとめ
Q: 京都の店舗設計、費用はどれくらいかかる？どうやって抑える？
A: 一般的な設計＋施工で10〜25万円／坪が目安。安易に削るより、「使う場所」「抑える場所」を分けるメリハリ設計が鍵。
京都で信頼できる店舗設計者を選ぶには？
店舗設計で最も大切なのは、やはり「誰に設計を依頼するか」という部分です。特に京都のように地域性・法規・文化などの要素が絡む場所では、設計者の力量と相性が成否を大きく分けることになります。ここでは、事例や見た目だけに惑わされず、信頼できる設計者を見極めるための視点を紹介します。
「実績が多い」だけでは足りない理由
「事例がたくさんあります」「過去に〇〇店舗を手がけました」
たしかに、実績は安心材料の一つではありますが、それだけでは不十分です。
重要なのは、その実績の中に自分の業種や目的に近いものがあるかどうか。たとえば、カフェと美容室では求められる空間の質も動線も異なります。業種特化型の設計実績があるかどうかは、非常に重要な判断軸になります。
設計思想を聞き出す：「どんな視点で設計していますか？」
良い設計者は、必ず「空間の使われ方」や「事業の方向性」を深く理解しようとします。
面談や問い合わせ時に、以下のような質問をしてみましょう：
- この設計で一番大事にした点は何ですか？
- 設計時に重視することを３つ挙げるとしたら？
- 過去に失敗した経験があれば、それはなぜですか？
このような問いに、思想のある言葉で返してくれるかどうかが、良い設計者を見分けるカギになります。
「全部任せてください」は要注意
「設計も施工も全部まるっとお任せください！」
一見、心強く聞こえますが、これは必ずしもメリットだけではありません。
特に以下のようなリスクがあることに注意が必要です：
- 見積もり内訳が不明瞭になりがち（価格の透明性に欠ける）
- 設計と施工のバランスが偏る（見た目重視 or 工事簡略化）
- 施主の意見が反映されづらくなる
こうした点を避けるためにも、「どこまで自分が関与したいか」「どの段階でチェックしたいか」を明確にし、それに応えてくれる設計者を選びましょう。
パートナーとしての“対話力”を重視
設計者は単なる“図面屋”ではありません。むしろ、「一緒に空間をつくるパートナー」として、言葉のやりとりや意思疎通がしっかりできるかが最も大切です。
メールやLINEの対応の早さ、質問への答え方、こちらの曖昧な希望をうまく整理してくれるかなど、コミュニケーションの質をチェックすることを忘れないでください。
要点まとめ
Q: 京都で信頼できる設計者をどう選べばいい？
A: 実績だけでなく「設計思想」「対話力」「業種理解」「費用の透明性」を重視し、“共に考えられるパートナー”かを見極めることが大切。
【適ドア適所】にそったまとめ
京都で店舗を設計するというのは、ただおしゃれな内装をつくることでも、和風テイストにすることでもありません。その場所で、誰に、どんな価値を届けたいのかを空間で表現する——そのための「設計」なのです。
京都という街は、地域性・文化性・法的制約など、他の都市とはまったく異なる文脈があります。そのため、見た目や費用だけで設計を判断すると、「京都らしさ」とズレてしまい、長く続けることが難しくなることもあります。
本記事で紹介した5つの判断軸は、いずれも「適材適所」ならぬ、「適設計適所」の視点に基づいています。これは、Newtonドアが掲げる「適ドア適所」——すなわち、「場所や目的に合わせて、最もふさわしいものを選ぶ」という考え方と同じです。
設計においても同じく、“何が最適か”を導くための視点と情報”が必要です。
誰かの成功事例をそのままなぞるのではなく、自分のお店、自分の想いにふさわしい空間を、自ら選ぶ。
その第一歩として、本記事が「判断の軸」になれば幸いです。
出典表示（参考リンク）
- 京都市 都市計画局「景観条例と景観デザインガイドライン」
- 建築士会・設計士協会「建築設計と施工の役割分担」
- 各種設計事務所公式サイト（費用例、設計事例）
- Newtonドア関連資料（構造特性と用途適合）