目次(このページの内容)
- 0.1 そもそも「自動ドアの図面表記」ってなぜ難しいの?
- 0.2 よく使われる略語・記号一覧
- 0.3 「SD」と「AD」は使い分けが必要
- 0.4 JISに基づく表記ルールと、その限界
- 0.5 記号と実際の製品名の対応に注意
- 0.6 記号と注記の組み合わせ例
- 0.7 専門家からのアドバイス
- 0.8 1. 平面図で表すべきこと
- 0.9 2. 立面図・断面図で表すべきこと
- 0.10 3. 詳細図で表すべきこと
- 0.11 ケース別トラブルと解決策
- 0.12 記載の工夫:注記と凡例の活用
- 0.13 建具表に記載される基本情報
- 0.14 自動ドアで“足りない”情報とは?
- 0.15 建具表での記載例(自動ドア)
- 0.16 建具表+凡例+注記の組み合わせで“伝わる”
- 0.17 設計実務でのよくあるミスと対策
- 0.18 記載の工夫:Newtonドアなど「荷重式」の場合
- 0.19 なぜ「非電源型の表記」が難しいのか?
- 0.20 非電源型(荷重式)の特性を反映する表記方法
- 0.21 電動式と荷重式の違いを図面でどう表すか?
- 0.22 書き忘れによるトラブル事例(実際にあったケース)
- 0.23 対策:Newtonドアのような荷重式製品の場合
- 0.24 よくあるトラブル事例とその原因
- 0.25 施工トラブルを防ぐ5つの記載ルール
- 0.26 設計者ができる“最後のひと手間”が未来を救う
- 0.27 最終チェックリスト:自動ドアの図面記載で確認すべきポイント
- 1 【適ドア適所】にそった「まとめ」
そもそも「自動ドアの図面表記」ってなぜ難しいの?
Q:なぜ自動ドアの図面表記は混乱しやすいのか?
A:ドアそのものに加え、「電源」「センサー」「動作方式」など、複数の要素を同時に記述する必要があるからです。
建築図面における「自動ドアの表記」は、設計者にとってしばしば悩みのタネです。
一見、通常の引戸や開き戸と同じように思えても、自動ドアは建具でありながら設備でもあるという側面を持ち合わせており、単なるドア記号の挿入だけでは不十分になるケースが多くあります。
たとえば…
- 開閉方式(引き戸、両引き戸、片引き戸など)
- 駆動方式(電動式、エアー式、荷重式など)
- 動力源の有無(電源が必要かどうか)
- センサーの有無と位置
- 非接触スイッチなどの制御装置
- 非常時の開閉対応(停電時開放/閉鎖など)
これらの要素をすべて「伝わる形」で図面に反映しようとすると、単に建具図記号だけでは不十分であることに気づかされます。
設計者に求められる“伝える”責任
建築設計図は、意図を他者に正確に伝えるための“言語”です。
その受け手には、施工業者・設備業者・監督員・クライアントなどさまざまな関係者が含まれます。
このような多様な読み手に向けて、
- 図面上の記号や略語
- 建具表の記載内容
- 凡例や注釈での補足
を通じて、**「このドアはどのように動作するのか」**を明確に伝える必要があるのです。
とりわけ自動ドアの場合、次のような“認識のズレ”がトラブルにつながることがあります。
| 設計図に書いたつもりでも… | 現場ではこう誤解される |
|---|---|
| 電動式の両引き自動ドア | 引戸と誤認され、手動で準備される |
| 荷重式で電源不要と注記しなかった | 電気配線工事が準備されてしまう |
| センサー位置未記載 | 感知範囲が不明確で、現場判断になる |
このような誤解を未然に防ぐためにも、図面での表記をどこまで丁寧に描くかが問われるのです。
平面図・立面図・建具表で“伝えるべきこと”が異なる
自動ドアを表記する場合、主に以下の3つの図面に関与します。
- 平面図
→ 建具の種類・開閉方向・センサー位置・壁内機器スペースなど - 立面図/断面図
→ 開閉の高さ、ドア本体寸法、ガラス仕様、防火区画との関係 - 建具表
→ 建具番号、寸法、仕様、素材、動作方式、備考(注記)
この3種は、それぞれが「役割分担」をしており、どれか1つでも欠けると情報の齟齬が起こりやすくなります。
特に「建具表に書いたからOK」と思い込んでしまい、平面図に反映されていない…という事例が多く報告されています。
結論:図面表記には“設計の視点+現場の視点”の両方が必要
設計者としては、機能性と美観を満たすプランを作成することが役割ですが、図面はその意図を「他者に正確に伝える」ためのものです。
そのためには、自動ドアにおける以下のような要素を、図面内でバランスよく配置する必要があります:
- 建具記号で「種類」を示す(引戸・両引・片引など)
- 略語で「自動ドア」であることを示す(AD、SDなど)
- 注記や凡例で「駆動方式」「センサーの位置」「電源有無」などを補足
次章からは、こうした「伝わる図面」のために欠かせない要素を1つずつ解説していきます。
【第2章】自動ドアの記号・略語にはどんな種類がある?
Q:自動ドアを図面上で示すとき、どんな記号や略語を使うべき?
A:代表的なのは「AD(Automatic Door)」「SD(Sliding Door)」などですが、開閉方式や動力方式に応じて使い分けが必要です。
図面での表記において、略語や記号は「共通言語」としての役割を持っています。
しかし自動ドアの場合、動作方式や仕様の多様性から、単純に“SD”や“AD”と書くだけでは足りない場面が増えています。
この章では、図面上で一般的に用いられている略語・記号とその意味、加えて、曖昧になりがちな表記の違いについて整理します。
よく使われる略語・記号一覧
以下は、建築設計の現場でよく使われる自動ドア関連の略語と記号です。
| 略語 | 意味 | 用途例 |
|---|---|---|
| AD | Automatic Door(自動ドア) | 平面図や建具表で「電動自動ドア」を示す |
| SD | Sliding Door(引戸) | 手動引戸/自動引戸どちらも使われるため注意が必要 |
| D | Door(ドア) | 一般的なドア全般を指す |
| PD | Pair Door(両開き戸) | 両開きの扉 |
| O/H | Overhead(上吊り) | モーターが上部にあるタイプなど |
「SD」と「AD」は使い分けが必要
ここで注意したいのは、SDは「自動ドア」とは限らないという点です。
SDはあくまで「引戸」を指し、動作が手動か自動かを明確には示しません。
- SDだけ:自動なのか手動なのか不明
- ADとSD併記:自動引戸であることが明示される
- AD表記のみ:開閉方式が不明になる(開き戸か引戸か)
そのため、可能であれば**「開閉方式(SD)+自動(AD)」の併記**が推奨されます。
JISに基づく表記ルールと、その限界
日本産業規格(JIS)では、建築図面における建具の略号について一定のルールが定められています。
JIS A 0171「建築設計図における建具の記号」などが代表です。
たとえば以下のような記載があります。
- 引戸:SD
- 両引戸:SDD
- 自動ドアの略号は明示されていないが、「備考」欄での注記を推奨
つまり、JISでは「自動ドア」を記号だけで明示する規定はなく、別途注記することが前提になっています。
記号と実際の製品名の対応に注意
設計図面では略語で記載していても、実際の発注や施工段階では製品名ベースでの認識が必要になります。
たとえば…
- SD(自動両引戸) → NABCO製のDSシリーズなど
- AD(自動ドア) → Teraoka製やLIXIL製の汎用品
- 非電源型の自動ドア → Newtonドア(荷重式)など
図面上で略号が「AD」と書いてあっても、実際に電源が必要なのか、どう開くのか、までは読み取れません。
したがって、記号だけでなく注記を組み合わせることで誤解を防ぐ必要があります。
記号と注記の組み合わせ例
| 略号 | 表示例 | 備考欄(注記) |
|---|---|---|
| AD | AD(自動両引戸) | 電動式・センサー付・停電時開放対応 |
| AD | AD(自動片引戸) | 荷重式、電源不要、停電時手動開放 |
| SD | SD | 手動引戸、使用頻度少 |
このように、略号だけで表現できない要素は、注記で補うことが最も現実的な対応です。
専門家からのアドバイス
- 「AD」と書いたからといって安心しないこと
- JIS準拠であっても、図面を読むのは人間。補足説明を怠らない
- 電源が不要な荷重式の場合は、「非電源」などの注記が誤認を防ぐカギになる
【第3章】平面図・立面図・詳細図での表記例と注意点
Q:図面の種類ごとに、自動ドアは何をどう描けばいい?
A:平面図では「位置と開閉方向」、立面図では「高さと納まり」、詳細図では「モーター・センサー・寸法」など、それぞれ役割が異なります。
自動ドアの仕様を正しく伝えるためには、図面内の「どこに何を記載するか」が非常に重要です。
1つの図面ですべてをカバーするのではなく、平面図・立面図・詳細図のそれぞれで果たすべき役割を理解し、情報を分担させることがポイントになります。
この章では、図面ごとの表記ルールや注意点、トラブルを防ぐための工夫を紹介します。
1. 平面図で表すべきこと
目的:位置・開閉方向・感知領域を正確に伝える
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 建具記号 | 例:AD(自動両引戸)、SD(手動片引戸)など |
| 開閉方向 | 両引/片引の矢印や線で示す |
| 感知エリア | センサーの検知範囲を円やハッチングで示す |
| 壁納まり | 引き込みスペースや壁厚などとの関係性 |
注意点:
センサーやスイッチの位置を明示しないと、設備工事で“現場判断”になることが多く、誤設置の原因になります。
記号例(平面図)
AD(自動両引戸)→ ←
※センサーはドア正面外側に設置(感知範囲Φ1000)
このように、開閉方向の矢印と一緒に注記を加えることで、読み手にとって明確になります。
2. 立面図・断面図で表すべきこと
目的:高さ・構造・仕上げのディテールを伝える
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| 有効開口高さ | 天井高との関係、梁とのクリアランス |
| ガラス仕様 | 強化ガラス・複層ガラスなどの表示 |
| レール・上吊り部 | モーター部のスペース、点検口の必要性 |
| 停電時開放/閉鎖機構 | 非常時の動作に関する記述(必要に応じて) |
注意点:
特にガラスドアの場合は、安全ガラスの明記が重要です。記載がなければ設計ミスと見なされることもあります。
3. 詳細図で表すべきこと
目的:設備との連携・納まり・施工条件の伝達
| 項目 | 記載内容 |
|---|---|
| センサー位置・型番 | 赤外線・マイクロ波、型式まで明記できるとベター |
| 電源配線ルート | 上部/床下、コンセント位置、必要容量 |
| モーター寸法 | ボックス寸法、メンテナンススペース |
| 断熱・防火仕様 | 取り合いでの干渉防止策、空気層など |
注意点:
詳細図は特に「施工業者が見る図面」です。省略しすぎると現場の誤判断につながりやすくなります。
ケース別トラブルと解決策
| ケース | トラブル | 対応策 |
|---|---|---|
| 感知センサーが未記載 | 設置位置が現場判断に | 感知範囲と設置高さを注記で明記 |
| モーター寸法の省略 | 天井裏納まりに干渉 | 製品ごとの機器寸法を入れておく |
| 電源不要なドアに電源工事 | 誤った設備準備が発生 | 「非電源」と注記、建具表にも記載 |
記載の工夫:注記と凡例の活用
図面の中で「全体に共通するルール」を示すには、**凡例(Legend)**が有効です。
たとえば:
凡例:
AD:Automatic Door(自動ドア)
●:赤外線センサー(感知範囲Φ1000)
▲:非常開放スイッチ
※荷重式は「非電源式(電源工事不要)」と記載
こうした工夫を加えることで、図面の読み手全員に情報を統一して伝えることができます。
【第4章】建具表で「自動ドアらしさ」をどう伝える?
Q:建具表だけで、自動ドアの仕様って伝えられるの?
A:基本的な寸法や開閉方式は表現できますが、動作仕様や電源の有無、特殊機能などは「備考」や「注記」での補足が不可欠です。
建築図面における「建具表」は、ドアや窓といった開口部の仕様を一覧で整理する非常に重要なパートです。
設計者の多くが、ドアに関する情報をこの建具表で完結させようとしますが、自動ドアに限ってはそれだけでは情報が足りない場面がしばしば発生します。
この章では、「建具表に書くべき情報」と「書いても伝わらない情報」、そしてそれらをどう補完するかを解説します。
建具表に記載される基本情報
以下は、一般的な建具表でよく見られる項目です:
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建具番号 | D-101など、図面中での識別子 |
| 開口寸法 | 幅×高さ(例:900×2100) |
| 開閉方式 | 引戸、片開戸、両引戸など |
| 枠材・扉材 | アルミ、スチール、ガラスなど |
| ガラス種別 | 網入り、強化、Low-Eなど |
| 金物仕様 | ハンドル、ドアクローザーなど |
| 備考欄 | その他仕様や注意点を補足 |
ここまでが、「手動ドア」であれば十分な情報です。
自動ドアで“足りない”情報とは?
自動ドアの場合、建具表に載らないが施工上非常に重要な情報が複数あります:
| 足りない情報 | 施工への影響 |
|---|---|
| 動力方式(電動/荷重式) | 電源工事や配線有無が決まる |
| センサーの有無/種類 | 天井や壁への設置要否が変わる |
| 開閉動作の詳細 | 両引/片引、開放方向などが曖昧に |
| 非常時対応(停電時) | 防災設計との整合性に影響 |
これらは、備考欄や注記で必ず補足しておくべきです。
建具表での記載例(自動ドア)
以下に、電動式と荷重式の建具表記載例を比較します:
| 建具番号 | 開口寸法 | 方式 | 枠材 | ガラス | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|
| D-101 | 1600×2100 | 両引戸(AD) | アルミ | 強化 | 電動式、センサー付、停電時開放 |
| D-102 | 900×2100 | 片引戸(AD) | アルミ | 透明 | 荷重式、非電源、停電時手動開放可 |
ポイント:
- 略語「AD」だけでは、動力の有無が伝わらない
- 「電動式」or「非電源」と明示することで、誤施工防止につながる
- 停電時の動作についても記載することで、防災計画にも整合が取れる
建具表+凡例+注記の組み合わせで“伝わる”
伝達力を高めるためには、以下のように組み合わせて使うのが理想です:
- 建具表 → 基本スペックを一覧化
- 凡例 → 記号の意味や仕様分類を統一
- 注記 → 建具番号ごとの注意点を詳細に記載
例:
凡例:
AD:自動ドア(Automatic Door)
※AD表記の中に、電動式と荷重式を含む。詳細は備考欄参照
注記:
D-102は荷重式(電源不要)、停電時手動で開放可
設計実務でのよくあるミスと対策
| ミス | 原因 | 対策 |
|---|---|---|
| ADと書いてあるが電源有無が不明 | 建具表が簡略化されている | 備考欄で明示、「非電源」などの注記 |
| 荷重式なのに「電源用配線」が指示されている | 設備図と整合が取れていない | 建具表と電気設備図の連携チェック |
| センサーが施工段階で抜けている | 図面上に感知装置の記載なし | 平面図や詳細図でセンサー位置を示す |
記載の工夫:Newtonドアなど「荷重式」の場合
荷重式自動ドア(Newtonドアなど)の場合、最大の特徴は「電源が不要」であることです。
この点は必ず図面に明記すべきであり、以下のような記載が推奨されます:
- 「非電源式自動ドア(荷重式)」と備考欄に明記
- 電気設備図に「このドアは電源供給不要」と注記
- 停電時の動作についても明確に(例:手動開放可)
【第5章】非電源型や荷重式自動ドアはどう表記すればいい?
Q:荷重式や非電源型の自動ドアは、図面でどう違いを伝えるべき?
A:電源が不要であること、停電時も作動することなどを「注記と凡例」で明確に示す必要があります。
最近、災害対策やエネルギー効率の観点から注目を集めているのが、「非電源型」「荷重式」といった電気を使わない自動ドアです。
とくにNewtonドアのように、自重と重力を活用して自動で閉まる構造は、公共施設やマンションなどで導入が進んでいます。
しかし、設計図面においてはまだまだ「非電源型の自動ドア」に関する記載が曖昧なケースが多く、誤解や誤施工の原因となっています。
なぜ「非電源型の表記」が難しいのか?
従来の図面設計の多くが、「自動ドア=電動式」という前提で成り立っています。
このため、以下のような齟齬が起きやすくなります。
| 表記が曖昧だと… | 結果 |
|---|---|
| 建具表に「AD」とだけ記載 | 電気式と誤解され、電源工事がされてしまう |
| 電源が不要であることが図面に記載されていない | 電気設備図と整合が取れずトラブルに |
| 「停電時対応型」との区別が不明確 | 防災仕様として認識されない |
つまり、「自動ドア」という一言では、方式や仕様が伝わらないのです。
非電源型(荷重式)の特性を反映する表記方法
以下に、荷重式(Newtonドアなど)に対応するための図面上の記載ポイントを整理します。
1. 建具表への記載
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 開閉方式 | 片引戸(AD) |
| 備考 | 荷重式、非電源、自動閉鎖型、停電時手動開放 |
- AD だけでなく、「荷重式」「非電源」と明記
- 「停電時に機能する」という安全性も併記するのが理想
2. 凡例での明示
凡例:
AD:自動ドア(Automatic Door)
※ADのうち「荷重式」は電源不要・自動閉鎖型
これにより、図面全体で共通認識が持てます。
3. 平面図・詳細図での注記
D-202:荷重式自動片引戸(Newtonドア)
※モーター・電源不要、重力により自動閉鎖
※停電時も作動。配線工事不要。
こういった記載があることで、設備業者や監理者が誤認しなくなります。
電動式と荷重式の違いを図面でどう表すか?
以下は、電動式と荷重式の違いを図面記載項目ごとに整理したものです。
| 項目 | 電動式自動ドア | 荷重式(非電源型) |
|---|---|---|
| 電源 | 必要(AC100V/200V) | 不要 |
| モーター | 内蔵・外付け | 無し |
| センサー | 赤外線/マイクロ波 | 無し(または簡易スイッチ) |
| 停電時 | 非常開放対応モデルあり | 常時使用可(停電影響なし) |
| 表記方法 | AD+備考(電動式) | AD+備考(荷重式/非電源) |
このように、電源・モーター・センサーの有無が、図面での記載の分かれ目になります。
書き忘れによるトラブル事例(実際にあったケース)
- 荷重式を採用したのに「電源準備」がされていた
- → 建具表に「非電源式」と書かれていなかった
- → 結果:電気工事費がムダに発生
- 荷重式が「手動引戸」と認識された
- → 自動閉鎖の仕組みが説明されず、建具の仕様が変更された
- → 結果:居住者から苦情発生
- 停電対応型と誤認され「防災設備」として扱われた
- → 荷重式との違いが説明されていなかったため、機能不備と判断されかけた
対策:Newtonドアのような荷重式製品の場合
- 「荷重式」「非電源」「自動閉鎖型」という3点セットで表記
- 配線が不要であることを明記
- 非常開放や火災時の挙動が問題にならないことも補足
- 型番や製品名(例:Newtonドア)を記載するのも効果的
例:
建具番号:D-103
方式:片引戸(AD)
備考:荷重式(Newtonドア)、非電源、停電時も使用可、電気設備工事不要
【第6章】図面表記ミスが「施工トラブル」につながる事例と対策
Q:図面の書き方1つで、現場にどんなトラブルが起こるの?
A:センサーの設置ミス、誤った電気工事、非常時対応の誤解など、多くの誤施工や手戻りの原因になります。
設計段階では「伝えたつもり」でも、実際に施工現場で意図が正しく伝わっていないケースは少なくありません。
とくに自動ドアは、建具・電気・設備・防災など複数の分野にまたがる仕様を持つため、図面上での表記ミスや不足が施工トラブルに直結しやすい部材の一つです。
この章では、実際に発生したトラブル事例と、それを回避するための記載の工夫を解説します。
よくあるトラブル事例とその原因
| トラブル内容 | 原因となった図面ミス | 被害・影響 |
|---|---|---|
| センサー設置位置が間違っていた | 平面図に感知範囲が描かれていなかった | 感知漏れ、誤作動による苦情 |
| 荷重式ドアに電源配線が敷設された | 「非電源式」との注記がなかった | 電気工事費がムダに発生 |
| 自動ドアが「手動ドア」として発注された | 建具表に自動ドア記載がなく、凡例も未整備 | 手戻りによる納期遅延 |
| 停電時に開放されないドアが採用された | 「停電時対応」についての記載がなかった | 防災設計との不整合、再設計必要 |
施工トラブルを防ぐ5つの記載ルール
以下の記載ルールを守ることで、誤施工・誤認識のリスクを大きく減らすことができます。
1. 自動ドアの「動力方式」は必ず明記する
- 電動式:AD(電動)+備考欄に「電源必要」
- 荷重式:AD(非電源)+備考に「電源不要」「荷重式」
2. センサー・スイッチの位置は図示する
- 平面図に円または点で表示
- 凡例で意味を定義(例:●:赤外線センサー、Φ1000)
3. 建具表の「備考欄」を有効活用する
- 開閉方式だけでなく、「停電時の挙動」や「自動/非自動」も記載
4. 電気設備図との連携を徹底する
- 荷重式を採用する場合、設備図に「電源供給不要」と注記する
- 電動式の場合は、ブレーカーやコンセント位置も併記
5. 凡例・注記で共通認識を図る
- 略語や記号の意味を図面の凡例で明記
- 建具ごとの補足情報は図面余白や注記欄に明記
設計者ができる“最後のひと手間”が未来を救う
「図面に書いたはずなのに…」という言い訳が通用しないのが実務の世界です。
設計図面は、多くの関係者に“誤解されずに読まれる”必要があります。
設計者にとっては当たり前の知識でも、現場監督や電気業者にとっては初見情報であることもあります。
そのため、もう一歩先まで想像し、図面上に“補足”として書き加えることが、トラブル予防につながります。
最終チェックリスト:自動ドアの図面記載で確認すべきポイント
- 建具表に「自動ドア」である旨を記載しているか
- 「電動式」か「荷重式」かを明確にしているか
- 「電源の要否」が明示されているか
- 平面図に開閉方向、センサー位置が記載されているか
- 詳細図でモーター寸法・納まりが確認できるか
- 停電時の挙動(開放/閉鎖)が記載されているか
- 設備図と記載内容に整合性があるか
- 凡例・注記が読み手に配慮されているか
【適ドア適所】にそった「まとめ」
設計図において最も大切なのは、「この情報で誤解が生まれないか?」という視点です。
とくに自動ドアは、種類・動力・設置方法に多様性があるからこそ、「適ドア適所」の考え方が求められます。
- 電動式が最適な場所:駅や商業施設など大量通行が想定される場所
- 荷重式が最適な場所:停電対策・省エネが求められる公共施設やマンションなど
図面においても、その適材適所が読み手に伝わるような表現と構成が必要です。