自動ドアというと、多くの人は「電気で動くドア」を思い浮かべます。しかし、今では電源を必要としない荷重式(じゅうりょうしき)自動ドアなど、さまざまな種類のドアが存在します。そして、どんな自動ドアであっても「一見するとそこにドアがあると気づきにくい」という共通の特徴があります。

特に、透明ガラスや静音タイプの自動ドアは、視認性の低さが原因で事故や接触トラブルを引き起こすことも。そこで重要になってくるのが、**「矢印ステッカー」**と呼ばれる視覚的サインです。

この記事では、矢印ステッカーの意味、種類、正しい貼り方、選び方、そして法的な位置づけまで、徹底的に解説します。「とりあえず貼る」から「意味が伝わる安全な貼り方」へ。今日から役立つ知識をまとめました。


目次(このページの内容)

なぜ自動ドアに矢印ステッカーが必要なのか?

結論:安全性・視認性・誘導性を担保する「見えないけれど不可欠な配慮」です。

近年、公共施設や高齢者施設、商業ビルなどで「ガラス扉に人がぶつかる」という事例が増えています。これらの事故の多くは、扉が存在していること自体に気づかない、あるいは開く方向が分からないことに起因しています。

根拠:ぶつかり事故の現実とバリアフリーの課題

  • 透明ガラスゆえの事故:特に高齢者や子どもは、ガラス扉が開いているのか閉まっているのか判断しにくく、接触リスクが高まります。
  • 聴覚・視覚障がい者への配慮:音がしないタイプの自動ドアや荷重式自動ドアでは、「音」に頼らず視覚に訴える工夫が不可欠です。
  • 施設側の法的リスク:事故が起きた際、「適切な注意喚起をしていなかった」として、施設管理責任を問われる可能性もあります。

荷重式など静音・目立たないドアこそ注意

特に、電気を使わない荷重式ドア(例:Newtonドアなど)は、静音で自然開閉するため、一見ドアと気づかれにくい特徴があります。だからこそ、視認性を補う矢印ステッカーの役割は、非常に重要です。


矢印ステッカーの意味とは?右矢印・左矢印・両方向の違い

結論:矢印の方向は「扉の開く向き」や「通行の方向」を示し、利用者を安全に誘導するサインです。

「なんとなく貼っている」だけでは、その意味が伝わらず、安全性を逆に損ねてしまうことがあります。正しく意味を理解し、適切な向きで貼ることが求められます。

方向別の意味

矢印の種類意味主な使用シーン
→(右矢印)右側に開く/右に通行右側通行誘導・開口右側の扉
←(左矢印)左側に開く/左に通行左側通行誘導・開口左側の扉
↔(両矢印)双方向に開閉する扉/通行可能両引き自動ドアや共用部の誘導

注意点:誤解を招く貼り方

  • 内開き・外開きの混同:開く方向が視覚と逆になる場合、矢印の意味が直感的でなくなる
  • 貼る位置がズレている:左右の位置が合っていないと、矢印の意味が伝わりづらい
  • 両矢印の乱用:本来は両引きドアや複数通行可能な場所でのみ使用すべき

どこにどう貼るのが正解?貼る位置と高さの基準

結論:目線の高さ・中央寄りに、ドアの動きと一致する向きで貼るのが基本です。

どこにどの向きで貼るかによって、ステッカーの「伝わる力」は大きく変わります。

基本の貼り方ルール

  1. 高さの目安:床から約1,200〜1,500mm(成人の目線の高さ)
  2. 位置:扉の開く方向の前面/中央寄り
  3. 向き:扉の動きに一致するように貼る(例:右開きなら→を右側に)

シーン別ガイドライン

施設種別推奨貼付位置注意点
医療施設利用者の導線上、車椅子の高さも考慮混雑時の視認性が低下しないように
商業施設両開き中央に両矢印、もしくは左右に矢印店内外どちらからも見えるように両面貼り
学校施設小学生の目線にあわせ、少し低めでも可色味を目立たせることで識別性UP

法的義務はある?バリアフリー法や建築基準法との関係

結論:矢印ステッカーそのものは義務ではないが、事故防止やバリアフリー対応の一環として「推奨されるケース」が多いです。

法的観点からの整理

  • バリアフリー法:施設設計の中で「視覚的誘導」が求められる場面では、矢印ステッカーが有効とされる
  • 建築基準法・条例:明確に「ステッカー貼付」を義務とはしていないが、建築審査の際の安全配慮事項として評価対象になる場合あり

管理者が押さえるべき視点

  • 訴訟リスクの回避:「表示がなかったこと」による過失責任を避けるための備え
  • 行政指導:市町村や消防署からの「安全配慮の改善指導」でステッカー貼付が推奨されることもある


どんな素材・サイズを選べばいい?選び方の基本と応用

結論:環境・目的に応じた「素材×サイズ×デザイン」の組み合わせが、安全性と長期運用のカギです。

「なんとなく安いもので済ませる」と、視認性が悪かったり、すぐに劣化したりすることもあります。素材や仕様にも、目的に応じた適切な選択があります。

素材・仕様別 比較表

素材特徴屋内/屋外耐久性コメント
PETフィルム安価で柔軟、貼り直しが容易屋内向け定期交換前提なら◎
アクリル製高耐久・透明感が高い屋内外両用商業施設・公共施設向け
PVC(塩ビ)厚手でしっかり貼れる屋外向け風雨にもある程度強い
再剥離タイプ剥がしても跡が残らない屋内向け仮設設置や短期イベントに◎

サイズと視認性

  • 標準サイズ:直径150〜200mm程度(目立つが大きすぎない)
  • 小型サイズ:直径100mm以下(装飾的に見えるため注意)
  • 大型サイズ:300mm以上(高視認性/大空間向け)

デザイン選びの注意点

  • ピクトグラム付き:外国人・子ども・高齢者にもわかりやすい
  • 色のコントラスト:背景との対比が重要(例:透明ガラスに白や黄)
  • 文字ありorなし:視認性を重視する場合は「自動ドア」等の表記入りが有効

ステッカーの貼り方と運用のチェックリスト

結論:正しく貼っても、運用で剥がれたり、意味が伝わらなくなることも。定期的な点検と貼り直しが必要です。

手順:ステッカーの正しい貼り方

  1. 位置の確認:開閉方向と目線の高さをチェック
  2. 清掃:ガラス表面の汚れ・油分をしっかり拭き取る
  3. 仮止め:マスキングテープ等で仮固定し、角度と位置を確認
  4. 貼り付け:中央から外に向けて空気を押し出しながら貼る
  5. 仕上げ確認:視認性・意味の明瞭さ・曲がりの有無をチェック

運用上のチェックポイント

チェック項目チェック内容
剥がれ・浮き端が浮いてきていないか?落下リスクは?
色あせ・劣化屋外設置の場合、直射日光や雨風による退色は?
意味の伝達性利用者が見たときに「方向が伝わる」か?
環境変化ドアの開閉方式が変わったのにステッカーは旧表示のまま?
清掃状態ステッカーの上に汚れが付着していないか?

FAQ:よくある質問とその答え

Q: 矢印ステッカーは右向き・左向きをどう使い分けるの?
A: ドアが開く方向、または利用者の通行を促す方向に合わせます。右開きドアなら右矢印が基本です。

Q: ステッカーはどこに貼るのが効果的?
A: 目線の高さ(約1,200〜1,500mm)で、扉の中央寄りに貼るのが基本です。

Q: 法律で貼る義務はありますか?
A: 明確な法的義務はありませんが、バリアフリー法などにおける「誘導表示」の一環として推奨されるケースがあります。

Q: ステッカーのサイズに基準はあるの?
A: 基準はないものの、直径150〜200mmが一般的で、遠くからでも見えるサイズが推奨されます。

Q: 両方向矢印ってどんなときに使うの?
A: 両引き戸や、どちら側からも通行可能な共用スペースなどで使います。

Q: 高齢者施設で配慮する点は?
A: 目立つ色・大きめサイズ・ピクトグラム付きが望ましく、貼る高さもやや低めを検討してください。


【適ドア適所】にそった「まとめ」

矢印ステッカーは単なる飾りではなく、「安全」「誘導」「視認性」といった複合的な目的を果たす大切なサインです。

特に、電気を使わない荷重式の自動ドア(例:Newtonドア)などは、静音・シンプル設計であるぶん、「そこにドアがある」と気づかれにくいことがあります。こうした設計思想に合った**「適切な表示」**こそが、利用者との自然な接点を生むのです。

  • 表示がなければ気づかれず、事故につながる
  • 間違った表示は、逆に混乱を生む
  • 貼る場所・高さ・素材によって、安全性は大きく変わる

だからこそ、「適ドア適所」=そのドアに本当に必要な表示を、その場所に適切に配置することが、何よりも重要です。


【出典・参考資料】

  • 国土交通省「バリアフリー法関連資料」
  • 自治体福祉施設設計ガイドライン
  • 石井マーク製作所「自動ドアサインステッカー」商品案内
  • JIA関東甲信越支部「ナブコセフティドア設計事例」
  • Newtonプラス社「Newtonドア概要資料」(社内資料)

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