自動ドアと聞くと、多くの人が電動式のスライドドアを思い浮かべるように、「設計」と聞くとただ図面を引く仕事というイメージが先行しがちです。しかし、店舗設計という分野においては、その役割はそれだけにとどまりません。この記事では、「店舗設計の仕事内容」を入り口に、設計者がどのように事業主のビジネス成功を支援しているのかを明らかにしていきます。
読み進める中であなたは、「ただの空間づくり」ではなく、「売れる仕組みを設計する」ことの奥深さを知ることになるでしょう。そして、依頼する立場であれ、設計の道を目指す立場であれ、店舗設計という仕事の本質を掴むヒントが得られるはずです。
目次(このページの内容)
店舗設計とは?どんな人がこの仕事をしている?
要点: 店舗設計とは、単なる「空間をデザインする人」ではなく、経営とデザインの橋渡しをする専門職です。関わる職種には建築士、インテリアデザイナー、空間デザイナーなどがあり、それぞれ得意領域や法的役割が異なります。
手順:店舗設計の基本的な立ち位置
- 建築士(1級・2級):建築確認申請が必要な大規模な店舗で設計業務を担当。構造や法規への対応力が高く、設計責任者になるケースも多い。
- インテリアデザイナー:主に内装全般(素材、色、照明、装飾など)の企画・提案を担い、店舗の「雰囲気づくり」に長ける。
- 空間デザイナー:業種業態に応じた空間全体の演出を設計し、「体験の設計」に重きを置く。
- 施工会社の設計担当者:設計から施工までワンストップで行う形態では、施工会社側の設計者が担当。
注意点:資格の有無と業務範囲
- 建築士は国家資格が必要ですが、インテリアデザイナーや空間デザイナーに法的な資格要件はなく、誰でも名乗ることは可能です。
- しかし、**「構造に関わる設計」や「建築申請が必要な改修」**には建築士の監修が不可欠であるため、プロジェクトの内容によって求められる設計者の範囲は変わります。
視点:設計者は「空間の翻訳者」
店舗設計者は、依頼者が持つ抽象的な理想(「オシャレにしたい」「集客したい」など)を、図面や空間で具現化する翻訳者です。
・依頼者の感覚を具体化する力
・経営目線での判断(動線、売上動機、客単価)
・法規・安全・導線の最適化
これらを並行して考えるのが店舗設計という職能の特長です。
店舗設計の仕事内容は?どこからどこまで関わるのか
要点: 店舗設計者の仕事は、空間を美しくデザインすることにとどまりません。事業の目的や業種に応じて、ヒアリングから企画、設計図の作成、施工監理まで多岐にわたります。プロジェクト全体の流れの中で、どの段階にどのように関わるかを理解することが重要です。
手順:店舗設計の仕事の流れ(フェーズ別)
- ヒアリング・コンセプト策定
- 店舗の立地、業種、ターゲット層、事業ビジョンなどをヒアリング
- コンセプトシートや店舗イメージを共有
- 企画・ゾーニング・基本設計
- レイアウト(動線・席数・厨房位置など)の設計
- 必要機能の整理(収納、バックヤード、トイレ配置など)
- 詳細設計・図面作成
- 建築・電気・設備など専門図面の作成
- 建築確認申請や消防協議など必要書類の整備
- 見積もり・施工会社選定
- 設計に基づく工事見積もり
- 複数社コンペやコスト調整、VE案検討
- 施工監理・引き渡し
- 設計通りに施工されているか現場チェック
- 中間検査、最終検査、クライアントへの引き渡し
注意点:どこまでを設計者が担うかは契約次第
すべてを担う場合もあれば、「基本設計まで」「監理まで」など契約内容で範囲が分かれることがあります。
根拠:設計者が関わるべき理由
- 誤解されがちですが、「設計=図面だけ」ではなく、目的達成のための計画立案・実行サポートが主軸です。
- 特に初出店・異業種参入の場合、店舗設計者の存在が事業の成功率に直結するケースも多くあります。
「図面を描く人」ではなく「成功を設計する人」
要点: 店舗設計者の仕事は、図面を描くだけではなく、「売れる仕組み」や「通いたくなる空間」を創出する戦略的な仕事です。空間が持つ力を最大化し、事業の成功に導く“設計戦略”が仕事の中核となります。
手順:設計者が考える「成功」の方程式
- 動線計画
- お客様の動き方、回遊性、滞在時間などを分析し「買いたくなる」「居心地が良い」流れを設計
- 業態に応じたレイアウト
- 飲食店では厨房とホールの効率性、アパレルでは試着室の配置、医療施設ではプライバシー配慮など
- コンセプトの視覚化
- 店舗の理念やブランドイメージを、空間で表現する
- 色彩計画、照明設計、マテリアル(素材)選定で世界観を創る
- リピーターを生む仕掛け
- サイン計画(誘導・案内)、季節変化対応、SNS映えの工夫なども設計段階から織り込む
事例:実際の設計がもたらした変化
| 業種 | 設計前の課題 | 設計後の変化 |
|---|---|---|
| カフェ | 客席が少なく回転率が悪い | 動線再設計で席数+20%、回転率向上 |
| 美容室 | 外から入りにくい印象 | エントランスと照明設計を見直し、新規客増加 |
| 小売店 | 滞在時間が短い | 商品導線と什器レイアウト改善で滞在時間+30% |
視点:空間は「無言の営業スタッフ」
- 空間が発する印象・居心地・利便性は、来店者の購買行動に大きく影響します。
- 店舗設計者は、建築と心理、経営の交差点に立つプロフェッショナルです。
依頼者と設計者の視点は、なぜこんなにズレるのか?
要点: 店舗設計の現場では、依頼者と設計者の間で「言葉の解釈」や「優先順位」にズレが生まれやすい。これはお互いの立場や経験の違いによるもので、そのギャップを乗り越えるには「目的の共有」と「視点のすり合わせ」が不可欠です。
根拠:ズレが生まれる3つの理由
- 「いい感じ」の定義が違う
- 依頼者:「とにかくおしゃれにしたい」「高級感を出したい」
- 設計者:「業態に合った導線」「機能と雰囲気の両立」
- 見た目 vs 機能
- 依頼者は見た目を重視しがち(照明・色・素材など)
- 設計者は、メンテナンス性・耐久性・使いやすさも考慮
- 短期視点 vs 長期視点
- 依頼者はオープン時の「映え」を重視
- 設計者は半年後・1年後の運用と費用対効果も見据える
視点:店舗設計とは“共創”である
- 設計者が一方的に提案するのではなく、依頼者の言葉の裏にある「本当の目的」や「理想」を引き出す力が必要です。
- 例:「おしゃれにしたい」→「ターゲット層に刺さる空間にしたい」という翻訳力
注意点:誤解のまま設計が進むと…
- 思っていたのと違う仕上がりになる
- 設計変更・コスト増・納期遅延などにつながる
- 長期的には店舗運営に不都合が生じやすい
解決策:共通言語を持つ
- コンセプトシートや参考事例をもとに「見える言語化」
- 動線やレイアウトの意図を図で説明
- 設計者側が「依頼者の目線」を持ち、必要なら図解や模型も活用
依頼するとき・目指すときに知っておきたいこと
要点: 店舗設計を「依頼したい人」と「職業として目指したい人」では、知っておくべきことが異なります。ここでは両方の視点から、事前に理解しておくべきポイントを整理します。
依頼者側のポイント
- いつ依頼すべきか?
- 物件契約の前、あるいは並行して設計者と相談を始めるのが理想
- 設計を後回しにすると、物理的制約で「理想の形」が難しくなることも
- 費用感と契約の違い
- 設計料の相場は、店舗規模・範囲によるが施工費の10%前後が目安
- 基本設計だけか、監理まで含めるかで契約形態が異なる
- 「相性」が成功のカギ
- センスやスキルも大事だが、もっと重要なのは「考え方のフィット感」
- ヒアリングで、自分の言語に対する理解度・反応を見ることが大切
設計職を目指す側のポイント
- 資格は必要?
- 建築士が必要な場面もあるが、インテリアデザイナーや空間設計は無資格でも活躍できる場が多い
- ただし、実務経験・ポートフォリオが重要視される
- どこに就職する?
- 建築設計事務所、インテリアデザイン事務所、店舗施工会社、商業施設系企業など
- フリーランスで活躍する人も多いが、まずは事務所で経験を積むのが王道
- 向いている人の特徴
- 人と話すのが好き/想像力がある/経営やマーケティングにも興味がある
- 複数の視点(お客・経営者・施工者)で物事を考えられる人
注意点:設計=アーティストではない
- 自己表現よりも、クライアントの成功に貢献する姿勢が問われる職種
- 経営、心理、流通など周辺知識があると活躍の幅が広がる
FAQ|店舗設計にまつわるよくある質問
Q: 店舗設計とインテリアデザインの違いは?
A: 店舗設計は動線や設備、構造など空間全体の計画を含みます。インテリアデザインは主に内装や装飾の意匠設計に重点があります。
Q: 店舗設計の仕事は未経験でもできますか?
A: 無資格でも入門は可能ですが、設計事務所や施工会社での実務経験やポートフォリオが重視されます。専門学校卒やアシスタント経験から始める人も多いです。
Q: どのタイミングで設計者に依頼すればいい?
A: 物件契約前または契約と同時期が理想です。設計の自由度やコスト計画に影響するため、早めの相談が成功のカギです。
Q: 設計と施工は同じ会社に頼んだ方がいい?
A: ワンストップで進める「設計施工一括」もありますが、設計と施工を分けることで第三者の視点で工事を監理できるメリットもあります。
Q: 設計者に伝えるべき情報は?
A: 業態・坪数・ターゲット層・運営方針・好きな雰囲気など。「理想の店」のイメージを言葉や写真で共有すると設計がスムーズになります。
Q: 設計の打ち合わせは何回くらいある?
A: 3〜5回が一般的ですが、プロジェクトの規模や進行によって増減します。都度調整をしながら丁寧に進めていきます。
Q: 店舗設計っていくらかかるの?
A: 設計料の目安は施工費の約8〜15%。内装費とは別に設計の専門性に対しての費用がかかります。
Q: 自分の意見がちゃんと反映されるか不安です…
A: 多くの設計者はヒアリングを重視し、共に創る姿勢を持っています。不安があれば初回面談で確認するのがよいでしょう。
【適ドア適所】にそった「まとめ」
店舗設計とは、単に空間を整えるだけの仕事ではなく、「事業の成功」を空間から支援する戦略職です。ヒアリングからコンセプト設計、動線計画、デザイン、図面作成、施工監理まで一貫して関わることで、理想を超える現実を形にしていきます。
そして、その中で求められるのは、単なる美的センスではなく「事業を見る目」「ユーザーの動きへの洞察」「依頼者の本音を読み解く力」。依頼する側も、目指す側も、この視点を持つことで、店舗設計という仕事とより良く向き合えるはずです。
空間には、そこを訪れる人の心理を変え、行動を変える力があります。設計者はその力を最大限に活かすために、表に出ない数多くの設計判断を積み重ねています。
あなたの店舗が「なんとなくオシャレ」なだけでなく、「結果につながる」場になるかどうか。その鍵は、どんな視点を持った設計者と出会えるかにかかっています。