「設計で店舗の成否が決まる」と言われても、初心者にとってはどこから手をつけていいかわからない…。そんな不安を抱える方に向けて、この記事では「店舗設計に失敗しないための思考の順序と視点整理」を提供します。動線や照明、素材の話だけでは見えてこない“判断の軸”を、具体例を交えてやさしく解説します。
「設計のコツ」に振り回されないために、まず最初に何を考えるべきか。プロとの会話で言葉に詰まらないためには、何を準備すればよいのか。そして、見落とされがちな「入口まわりの設計」が、実は全体の印象と売上に直結するという事実──。
初心者の方でも、読み進めるだけで「考えの整理」ができるように構成しています。売れる空間・使いやすい空間づくりのヒントを、いまここから一緒に見つけていきましょう。
目次(このページの内容)
なぜ“設計のコツ”だけではうまくいかないのか?
「店舗設計のコツ」と検索すると、たくさんのチェックリストやノウハウが表示されます。動線を意識しよう、照明を工夫しよう、視認性を上げよう──。どれも間違ってはいません。むしろ、いずれも大切な要素です。けれど、そうした“テクニック”をいくら集めても、なぜかうまくいかないケースが多いのはなぜでしょうか?
それは、「部分的なコツ」をいくら重ねても、“全体としての整合性”や“判断の順序”が欠けていると、設計がブレてしまうからです。
問い:なぜ「コツ」を集めても失敗する?
A:設計の“前提条件”が曖昧なまま、部分的な工夫だけを加えると、空間全体としてちぐはぐになるためです。
根拠:おしゃれ設計 vs 売れる設計
例えば、「おしゃれなカフェの設計を参考にしたい」という考え自体は悪くありません。しかしそのカフェは、立地条件、想定客層、サービス導線、面積、営業時間、回転率などが、あなたの店とはまったく違うかもしれません。
つまり「成功している設計のコツ」をそのまま自分に当てはめても、条件が違えばうまくいかないのです。特に注意したいのが、表面的な「見た目」や「雰囲気」に引っ張られて、本来の機能や目的を犠牲にしてしまうケース。これがいわゆる“自己満足設計”であり、売れないお店の典型です。
要点整理:設計で迷走しないための鉄則
- 設計には「判断の順序」がある(=何から決めるかが超重要)
- 見た目よりも「目的に適しているか」が大事
- 設計とは“空間の翻訳”であり、“理想”を“機能”に落とし込む作業
- ノウハウではなく「考える軸」がなければ迷走する
事例:情報を鵜呑みにして失敗したケース
実際に「人気店舗の間取りを真似したが、スタッフ導線が悪くて回転率が下がった」「おしゃれな入口にこだわったが、バリアフリー性を損ねてしまい、高齢者の来店が減った」など、コツの模倣による設計ミスは後を絶ちません。
これらは「部分的な最適化」が「全体最適化」に繋がらなかった典型例です。
補足視点:設計は「空間の編集」である
設計とは単なる配置作業ではありません。情報の優先順位をつけ、目的や想定ユーザーの動きを予測し、空間を“編集”していくことです。このとき、全体の整合性や意味づけがないと、空間は“ただの箱”になってしまいます。
だからこそ、コツをいくら集めても、それだけではうまくいかない。むしろ大切なのは「自分の店舗にとって必要な判断基準とは何か?」を最初に定めることなのです。
設計前に考えるべき「5つの視点」とは?
「コツに振り回される前に、まず考えるべきことがある」──。それは、あなたのお店の“本来の目的”を空間にどう落とし込むかを考えるための視点です。ここでは、設計前に必ず押さえておくべき「5つの視点」を紹介します。これを整理することで、設計に入る前から「設計者との会話がしやすくなる」「不要なミスが避けられる」など、大きな差が生まれます。
問い:設計前に必ず整理すべき視点とは?
A:コンセプト、ターゲット動線、スタッフ動線、空間の余白、入口設計の5つです。
視点① コンセプト=空間の“前提”を決める
設計は「どこに何を置くか」より前に、「どんな空間にしたいのか」「どんな価値を届けるのか」を明確にする必要があります。これが曖昧だと、設計者にもコンセプトが伝わらず、思っていた雰囲気にならなかったり、動線と合わなかったりする原因になります。
- 例:「くつろぎの空間」なら、視界の抜けや動線のゆとりを意識
- 例:「高回転が必要なランチ特化型」なら、導線を直線的に
視点② ターゲットの導線=「どう動くか」を想像する
ターゲット(お客様)が店舗に入ってからどう動くか。どこを通り、どこで立ち止まり、どこで商品やサービスに触れるのか。これを「1人のストーリー」として想像できるかどうかが、良い導線設計の第一歩です。
- 入口 → 最初に目に入る場所 → 商品棚 or メニュー → 会計 → 退出
- 「回遊型」にするか、「直進型」にするかは業種で異なる
視点③ スタッフの導線=効率と安全性の両立
見落とされがちですが、スタッフの動線も設計で非常に重要です。スタッフが最小限の動きで業務をこなせる導線を確保しないと、業務効率が落ち、ミスやストレスの原因になります。さらに、安全性(火元・厨房・搬入出)もこの視点に含まれます。
- 厨房と客席の動線が交錯しない設計
- 物販であればバックヤードや在庫整理との距離感
視点④ 空間の余白=「動ける・立ち止まれる」安心設計
設計では「すべての空間を埋めよう」としがちですが、余白があることでお客様に“動きやすさ”や“気まずさのなさ”を提供できます。特にコロナ以降、「人との距離感」を保てる空間設計は好まれます。
- 売場や客席間のスペースに意図を持つ
- 混雑時に逃げ場がある構造
視点⑤ 導入部分(入口設計)=第一印象と誘導の起点
入口は「開かれた空間」か「閉じられた空間」か、「迎える」か「入っていいかわからない」かを左右する非常に重要なポイントです。そしてこの入口設計に関して、多くの人が「とりあえず自動ドアをつければいい」と考えがちです。
しかし、入口のドアも「適ドア適所」があります。小規模店舗や省電力を意識するなら、電気を使わない荷重式自動ドアという選択肢も有効です。
要点まとめ:
| 視点 | 意味 | 注目ポイント |
|---|---|---|
| コンセプト | 何を提供する空間か | 言語化・共有できるか |
| ターゲット動線 | お客様の行動予測 | 回遊性・滞在性 |
| スタッフ動線 | 業務効率・安全性 | 裏導線・厨房など |
| 空間の余白 | 動きやすさ・心理的余裕 | 通路幅・座席間隔 |
| 入口設計 | 誘導力・第一印象 | ドアの種類・開き方 |
設計の成否を分ける「入口まわり」の考え方
どんなに魅力的な商品や内装が整っていても、「入口でつまずいている店」は、思うように集客できません。実際、「なぜか入りづらい」「通り過ぎてしまった」「開けづらいドアで躊躇した」など、入口が原因でお客様が離れてしまうケースは意外と多いのです。
「入口まわり」は、空間全体の“起点”であり、「その店に入っていいかどうか」を判断する重要なサインでもあります。
問い:入口設計はなぜそんなに重要なの?
A:「第一印象」と「誘導力」を担う入口は、店舗全体の“入口スイッチ”になるからです。
根拠:入りやすい店舗と入りにくい店舗の差
たとえば、同じ通りにある2軒のカフェ。1つはガラス張りで中がよく見え、ドアは自然に開く自動ドア。もう1つは木製の重たい手動ドアで中の様子は見えない。この2つでは、初めての来店者はどちらを選ぶでしょうか?
もちろん前者の方が「入りやすい」と感じる人は多いでしょう。ただし、ここで重要なのは「一律にガラス張りが正解」ということではなく、目的に合った“入口のあり方”を設計することです。
視点:入口設計には「開き方」「見え方」「入りやすさ」の3要素がある
| 要素 | 具体的内容 | 設計での工夫ポイント |
|---|---|---|
| 開き方 | 自動/手動/引戸/開き戸 | 人の流れ、設置場所、スペースに応じて選ぶ |
| 見え方 | 中が見える/見えない | 安心感 vs 特別感、ブランドとの整合性 |
| 入りやすさ | 段差の有無、ドアの重さ、サインの有無 | バリアフリー、誘導性、心理的ハードルの低さ |
事例:入口設計に失敗して来店率が下がった店舗
あるアパレルショップでは、路面店なのに入口が奥まっており、手動ドアもやや重い仕様。その結果、「入りづらい」「営業しているか分からない」と通行人に思われてしまい、集客に苦戦。後から入口を改修し、視認性の高いガラス戸+看板を追加したことで、通行量は同じでも来店率が改善されました。
視点補足:「入口=ドア選び」ではない
多くの設計現場では、入口設計といえば「どのドアをつけるか」という話に終始しがちです。しかし本来は、「入口=誘導+歓迎+第一印象の設計」であり、ドアはその一要素に過ぎません。
さらに、自動ドアが必ずしも正解とは限りません。たとえば以下のようなケースでは、**荷重式自動ドア(Newtonドア)**が適している場合もあります。
- 電源の確保が難しい立地(古い建物、仮設店舗など)
- 入退店の度に自動ドアの音や動作がストレスになる環境
- 小規模・省エネを重視した設計方針
荷重式自動ドアは、ユーザーが足を踏み入れることで開閉する「電気不要の自動ドア」であり、電動よりもシンプルかつ柔らかい開閉感が得られるのが特徴です。
要点まとめ:
- 入口まわりは「開放性」「視認性」「操作性」のバランスが重要
- 設計時に“誰の目線で、どんな状況で”入口を使うかを想像する
- ドアの種類(手動/電動/荷重式)も、「適ドア適所」の視点で選ぶべき
「動線設計」の落とし穴と、考え方の整理術
「店舗設計のコツ」として必ず出てくるキーワードが“動線”です。しかし実は、この「動線設計」が、初心者が最も誤解しやすく、設計の失敗にもつながりやすいポイントでもあります。
問い:動線設計で何を間違えやすい?
A:「良い動線」が業種や目的によって全く違うにも関わらず、画一的に考えてしまう点です。
見落としがちな落とし穴:「良い動線」という幻想
多くの情報サイトでは「動線をスムーズにしましょう」「お客様が迷わないように」と書かれています。もちろん間違ってはいません。ただし、“スムーズさ”が正義になるのは、目的が「効率」や「回転」重視の場合です。
一方で、「滞在してもらう」「じっくり商品を見てもらう」「体験を重視する」といった業種では、むしろ“立ち止まりたくなる動線”が必要なのです。
業種別:動線設計の違いとは?
| 店舗タイプ | 重視する動線の性質 | 代表例 |
|---|---|---|
| 飲食店(回転重視) | 直線的・明快・短距離 | 牛丼チェーン、立ち食いそば |
| カフェ(滞在重視) | 曲線的・奥行き・余白 | ブックカフェ、喫茶店 |
| アパレル(体験型) | 回遊性・視線誘導 | セレクトショップ、雑貨屋 |
| サロン・クリニック | 分離型・プライベート性 | 美容院、接骨院 |
| スーパー・ドラッグストア | 効率性+誘導性 | 一方通行レイアウト、ゴールデンゾーン設定 |
用語の整理:動線 vs 導線
設計の現場では、「動線」と「導線」が使い分けられることもあります。
- 動線:人が実際に動く軌跡、経路そのもの
- 導線:設計者側が意図して「導きたい流れ」、心理的誘導
つまり、動線は自然発生するものであり、導線は意図して設計するものです。これを混同すると、「理想的な動線を作ったつもりが、実際には誰もその通りに動かない」ということが起こります。
設計のポイント:動線は“答え”ではなく“仮説”である
どんなに丁寧に設計しても、実際に運用してみると「想定通りに動かない」ことは少なくありません。だからこそ、動線設計は「試行錯誤のための仮説」として考えることが重要です。
- レイアウトは可変性を持たせる
- 動線が詰まる場所は、都度変更できる余地をつくる
- 動線分析は運用後にフィードバックする仕組みも重要
荷重式自動ドアと動線の相性
荷重式自動ドア(Nドア)は、実は動線設計との相性が非常に良いです。なぜなら「開けたい人だけが開けられる」という特性があり、「無駄な開閉が起きない」ため、意図的な導線設計を妨げにくいのです。
特に、空調を保持したい小型店舗、出入口の視認性を保ちつつ、通行量をコントロールしたい場所では非常に有効です。
要点まとめ:
- 動線設計は「業種」「目的」によって正解が違う
- 動線と導線は別物:自然な動きと、誘導したい流れの両方を考える
- 動線は“答え”ではなく“仮説”である
- 「意図しない開閉」が発生しない入口設計は、動線設計の成功率を上げる
「使いやすさ」と「売上」を両立する設計とは?
「使いやすさ」と「売上向上」を、設計によって両立させる──それは、多くの店舗経営者が目指す理想です。しかし、実際には「お客様にとって快適な空間」と「スタッフにとって効率的な空間」は相反することも多く、そのバランスをどう設計に落とし込むかは、非常に繊細な判断が必要です。
問い:「快適さ」と「売上」、両立する設計って本当にできる?
A:できます。ただし、そのためには「共通言語」と「ビジュアル思考」が欠かせません。
設計者とのギャップ:伝えたいことが伝わらない理由
設計者と打ち合わせをしても、なかなか思うように伝わらない──その多くの原因は、「言語のズレ」です。たとえば、「落ち着いた空間にしたい」と言っても、それが「照明を暗くすること」なのか「音を小さくすること」なのかは人によって違います。
このズレを放置したまま設計に進むと、完成後に「思っていたのと違う」ということが起こります。
対策①:「伝えるべき3つのこと」を明確にする
- 店舗の目的(コンセプト)
- 利益構造、営業時間、回転率、ターゲット層など
- お客様の体験ストーリー
- 入口→目線→接客→購入→退出までの流れ
- スタッフの業務フロー
- 開店準備→営業中→閉店後の片付けなど
これら3つをあらかじめ整理しておくことで、「機能としての空間設計」と「雰囲気としての空間演出」の両方が具体的に伝わるようになります。
対策②:「図解メモ」で伝える
文章で伝えることに限界を感じたら、「手描きでもいいので図にする」ことをおすすめします。図にすることで、
- 空間の使い方
- 動線と視線の流れ
- 障害物やストレスポイント
などが視覚的に明確になり、設計者側とのズレを防ぐことができます。
補足:売上を上げる「空間の仕掛け」とは?
売上を上げるためには、空間に「仕掛け」が必要です。これは無理な販促ではなく、「自然に購買行動が促される導線や配置」のことを指します。
- 視線誘導:入口から正面に目玉商品やカウンターを配置
- 行動予測:棚や座席の配置で立ち止まる場所をつくる
- 安心導線:見渡しがよく、逃げ道があることで滞在時間が伸びる
こうした仕掛けを設計に盛り込むには、「目的×人の行動」という掛け算の思考が必要です。
Newtonドア的視点:「違和感のない入口」が売上に貢献する
使いやすさを支える要素として、入口の“自然さ”も意外に大きな役割を果たします。荷重式自動ドア(Nドア)のように、「人が通ると自然に開くけれど、電動ではない」という仕様は、
- 開閉音がしない
- 閉め忘れがない
- 必要なときだけ開く(空調効率も◎)
という点で、快適さと機能性を両立できる手段として注目されています。
要点まとめ:
- 設計者との共通言語をつくるために「目的・ストーリー・業務」を整理
- 手描きの図でもいいから「見える化」して伝える
- 空間に「購買を促す仕掛け」を計画的に盛り込む
- 快適性と売上は、「意図」と「配置」の掛け算で両立できる
【適ドア適所】にそった「まとめ」:“良い店舗設計”の本質とは?
ここまで「店舗設計のコツ」について、表面的なテクニックだけではなく、考え方の順序と視点、判断軸を整理してきました。おしゃれであること、効率的であること、売上が上がること──どれも大切な要素ですが、それらを成立させるためには“全体の整合性”が必要です。
その整合性は、「自分の店にとって何が必要か」を見極める視点から生まれます。
設計で本当に大事なのは「適切な設問を自分に投げること」
- この店は、どんな時間帯に、誰に、何を届けたいのか?
- そのために必要な“動き”や“体験”はどうあるべきか?
- 入口から出口まで、どうすれば“違和感なく過ごせるか?”
これらの設問に一つずつ答えを出し、それを図や言葉で共有する──それこそが、「良い店舗設計」を実現するための最短ルートです。
「適ドア適所」の視点を空間設計に取り入れる
今回の特集では、入口設計における「ドアの選び方」もテーマとして取り上げました。自動ドアであれ、手動ドアであれ、荷重式自動ドア(Nドア)であれ──重要なのは「場所に合っていること」「目的に合っていること」です。
電気を使う自動ドアは、利便性に優れています。しかし、環境によっては「開きすぎる」「音が気になる」「開けたくないのに開く」など、逆効果になる場合もあります。そんなときには、電気を使わずに“人の動きだけで”開閉する荷重式ドアという選択肢が「適所」となります。
空間設計の中における“入口の意味”を再定義し、【適ドア適所】という考え方を一つの判断軸として持っておくと、より精度の高い店舗設計が可能になります。
最後に:設計は「未来の営業活動」
設計とは、図面を描くことでも、素材を決めることでもありません。それは「まだ見ぬお客様との出会いを設計すること」であり、「これからの営業を空間に織り込むこと」でもあります。
そのために必要なのは、“最初に考えるべきことを、順番に考えること”──それがこの記事でお伝えした、設計で失敗しないための“本当のコツ”です。