自動ドアと聞くと、たいていの人が「電動で開閉するドア」を思い浮かべます。しかし、実は自動ドアの中には電気を使わずに開閉するタイプもあり、それぞれの特性に応じて、適した設置場所や対策方法が異なります。

冬場になると特に問題になるのが「自動ドアの凍結」。その対策として知られているのが「レールヒーター」です。しかし、レールヒーターは万能の対策ではありません。むしろ、設置する場所や建物の性質によって「必要な場合」と「不要な場合」がはっきり分かれます。

この記事では、レールヒーターの基本的な仕組みから、設置が必要な条件、電気代や後付けの可否、さらには他の凍結対策の選択肢まで、検討段階のユーザーが“後悔しない選択”ができるように、あらゆる情報を整理してお伝えします。


レールヒーターとは、自動ドアの下部に設置される加熱装置のことを指します。主な目的は、冬場に生じる霜や雪、結露などによってレール部分が凍結し、ドアの開閉ができなくなるのを防ぐことです。

仕組みとしては、レールの下や側面に細い電熱線やPTC(Positive Temperature Coefficient)型のヒーターを取り付け、電気で熱を発生させて凍結を防止します。PTCヒーターは自己制御型と呼ばれ、一定の温度に達すると自動で出力を下げる特性があるため、安全性や省エネ性の面でも注目されています。

多くの場合、これらのヒーターは温度センサーと連動しており、外気温が設定値を下回ると自動的に電源が入り、加熱が始まります。逆に気温が上がれば電源が切れる仕組みのため、無駄な電力消費を抑えることができます。

ただし、このように聞くと「とにかく付ければ安心」と思いがちですが、実際には“どこにでも必要なもの”ではありません。次の章では、レールヒーターが必要になる条件と、そうでない場合の判断軸を見ていきましょう。



レールヒーターの設置が必要になるかどうかは、「寒い地域だから必要」という単純なものではありません。実は、気候条件に加えて、建物の種類や自動ドアの設置環境も大きな要因となります。

例えば、以下のようなケースではレールヒーターの設置が強く推奨されます。

  1. 積雪地域にある公共施設や商業施設
    • 駅・病院・スーパーなど、不特定多数の人が出入りする場所
    • ドアの開閉回数が多く、レールへの水分や雪の侵入リスクが高い
  2. 北向きのエントランスや風通しの悪い場所
    • 日が当たりにくく、霜や結露が溶けにくい
    • 氷点下の日が続くと、レール内部で氷が固まりやすい
  3. 庇やひさしがないエントランス
    • 雨や雪が直接レール部に落ちるため、凍結リスクが高い

これらの条件を満たす場合には、レールヒーターの設置は“安心のための備え”として効果的です。一方で、以下のようなケースでは必ずしも必要ではありません。

  • 気候が温暖で、冬でもほとんど氷点下にならない地域
  • 建物の構造的にレール部が完全に屋内にあり、風雪が入り込まない設計
  • 電気不要の荷重式自動ドアを採用している(結露・凍結の影響を受けにくい構造)

こうした要素を踏まえると、「凍結=レールヒーター導入」ではなく、「その場所に必要かどうか」を条件ごとに判断することが大切です。



レールヒーターには大きく分けて2つの方式があります。それぞれに特徴があり、設置環境や目的に応じて選び方が変わってきます。

電熱線式ヒーター

もっとも一般的なタイプで、細い電熱線をレールに沿って埋め込む方式です。通電すると電熱線が加熱し、レール周辺の温度を一定に保ちます。

特徴:

  • 発熱が早く、短時間でレール部を温める
  • 比較的コストが安く、施工もシンプル
  • 長時間の連続使用が前提のため、過剰な使用で消耗が早まる可能性も

デメリット:

  • 一定温度以上になっても発熱を続けるため、サーモスタットとの併用がほぼ必須
  • 自動制御なしでは電気代がかさむリスク

PTCヒーター(自己温度制御型)

PTCとは“Positive Temperature Coefficient”の略で、温度が上がると電気抵抗が増し、発熱が自動的に抑えられるという特性があります。つまり、「必要な時だけ温める」ことが可能な賢いヒーターです。

特徴:

  • 自動的に温度を調整するため、電力を節約できる
  • 安全性が高く、長寿命
  • 結露や霜が発生する一瞬のタイミングにのみ加熱し、常時稼働する必要がない

デメリット:

  • イニシャルコストが高め
  • 製品によっては施工に専門知識が必要な場合も

比較表:電熱線式 vs PTC式

項目電熱線式ヒーターPTCヒーター(自己制御型)
発熱速度早いやや緩やか
電力消費高め(制御次第)低め(自己制御)
安全性サーモスタット併用で向上高い(過熱リスクが低い)
価格安い高め
寿命使用頻度により変動比較的長寿命
工事のしやすさ比較的容易製品ごとに差がある

選定の際は、単に「安いから電熱線式」と決めるのではなく、

  • 積雪・凍結の頻度
  • 電源設備の容量
  • 管理者の運用負担(手動でON/OFFするか、自動で制御できるか)
    などを総合的に考慮することが重要です。

「うちはすでに自動ドアが設置済みだけど、レールヒーターを後から取り付けられるの?」
この問いは、多くの施設管理者や建築担当者から寄せられる疑問です。答えとしては、**「後付け可能なケースも多いが、条件次第」**です。

手順:後付け設置の基本的な流れ

  1. 現地調査: 既存の自動ドアのレール構造、周辺の電源設備、防水環境などを確認
  2. 製品選定: ヒーターの種類(電熱線式/PTC式)と出力、設置方法を選定
  3. 電源工事: レール部近くに電源がない場合は、新たに専用回路を引く必要あり(漏電ブレーカー推奨)
  4. 施工: レール部に沿ってヒーターを設置し、センサーや制御装置と接続
  5. テスト稼働: 実際の凍結条件を想定した通電テストと制御確認

注意点:後付け時に確認すべき3つのポイント

① ドアタイプの制約

  • スライド式や片引き戸タイプでは比較的設置しやすい
  • 両開きや折戸タイプなど、レール構造が複雑な場合はカスタマイズが必要になるケースあり

② 防水・結露対策

  • 電気機器である以上、水の侵入は致命的
  • 屋外設置や庇がないエントランスでは防水ボックス・防滴ヒーターを選定する必要がある

③ 電源容量と安全管理

  • 施設の電気容量に余裕があるか事前確認を(特に電熱線式はW数が高め)
  • タイマー制御やサーモスタットでの自動制御設計がないと、無駄な電力コストが増える

豆知識:導入実例(病院・学校など)

  • 某病院では、既存の自動ドアにPTCヒーターを後付けし、サーモスタットで自動制御したことで、夜間の凍結事故をゼロに
  • 小学校のエントランスでは、朝の通学時間帯だけタイマーで稼働させ、節電と安全の両立に成功


レールヒーターを導入する際、意外と見落とされがちなのが電気代の見積もりです。特に電熱線式の場合、制御を行わず常時通電すると、想定以上のランニングコストになることがあります。

要点:レールヒーターの電気代を決める3つの要素

  1. 出力(W数)
    • 一般的には200W〜300W/m(メートル)程度
    • 両開きドアで片側2mのレールがあれば、単純計算で約800W
  2. 通電時間
    • 24時間稼働の場合と、センサー・タイマー制御による数時間稼働では大きく差が出る
  3. 電気料金単価
    • 商用電源の場合は22〜30円/kWh程度が目安(契約内容や地域で変動)

実例:電気代の目安(月額)

稼働時間/日使用電力量/日(800W)月の電気代(@27円/kWh)
24時間稼働約19.2kWh約15,552円
6時間稼働約4.8kWh約3,888円
センサー制御(2〜4時間想定)約2.5〜3.5kWh約2,000〜3,000円

※PTCヒーターなど自動制御式であれば、さらに低く抑えられます


節電の工夫:自動制御と設計の最適化

  • 温度センサー制御: 気温が氷点下になったときだけ通電
  • タイマー設定: 出入りが多い朝夕にのみ稼働させることで、電力消費を削減
  • ゾーンごとの通電: 必要な場所だけにヒーターを配置し、不要な部分はカット

結論:

単にヒーターを取り付けるだけではなく、「いつ・どれだけ・どう制御するか」が非常に重要です。コスト面の負担を最小限にしつつ、必要な時に最大限の効果を得るには、「設計段階での最適化」が不可欠です。


ここまでレールヒーターの仕組みや選び方、電気代について詳しく見てきましたが、実は「ヒーターに頼らない」という選択肢もあります。特に、電源が確保しづらい場所や、そもそも凍結リスクを構造的に回避したい場合には、以下のような代替策が有効です。


選択肢①:荷重式自動ドア(電気不要)

電源を使わず、人の体重や動きをトリガーにして開閉する荷重式(機械式)自動ドアは、レール部分に電気を通す必要がなく、レールヒーターそのものが不要になります。

メリット:

  • 電気を使わないため、凍結による誤作動の心配がない
  • 停電時にも通常通り使用できる
  • 電気代・メンテナンスコストゼロ

注意点:

  • 自動開閉のタイミングが「人が乗ってから」になるため、慣れが必要
  • ドアのサイズや重さに制限がある場合もある(要設計時の確認)

Newtonドアのように「押す・引く動作の自然な延長で開く」方式のドアは、そもそも“凍らない構造”とも言え、ヒーター不要というメリットが最大限に活きます。


選択肢②:開閉方式の工夫

凍結対策としては、ドアそのものの開閉方法を工夫することで、レール部分への負担を減らすことが可能です。

  • 内引き込み式: ドアが屋内側へ引き込まれる構造なら、レールが寒気に晒されにくくなる
  • スライド式・折れ戸式の組み合わせ: レール不要構造や最小限の可動範囲に抑える設計も可能

選択肢③:建築的対策(レール周辺の環境改善)

  • 庇(ひさし)の設置: レール部分に雪や雨が直接かからないだけで、凍結リスクは大幅に低下
  • 排水設計: レールの周辺に排水溝や傾斜を設けることで、水たまりによる凍結を防ぐ
  • 風除室の設置: 二重ドア構造によって、冷気の流入を抑制

このように、ヒーターを使う前提ではなく、「凍らないように設計する」ことで根本的な対策を行うことも可能です。


【適ドア適所】にそった「まとめ」

レールヒーターは、自動ドアの凍結対策として確かに効果的な手段です。しかし、それは「どの場所でも必要なわけではない」という事実を見落としてはなりません。

必要なのは、「凍結する可能性のある場所」に「ヒーターという熱源を加える」ことではなく、なぜ凍るのか、どうすれば凍らないかを設計から見直すという視点です。


要点を整理すると:

  • 必要な条件が整っている場所では、レールヒーターは有効
    • ただし、種類(電熱線/PTC)や制御方式によってコストや安全性が大きく異なる
  • 電気代や施工条件を無視した導入は、後々のトラブルのもと
    • 後付け可否や防水設計は、導入前の調査と設計がカギ
  • すべてのケースで“電気的加熱”が正解とは限らない
    • 荷重式ドアや建築的な工夫によって「凍らない構造」を実現するという選択肢もある

つまり、凍結問題に対する最適なアプローチは、「とにかくヒーター」ではなく、その場所に本当に必要な方法=適ドア適所の選択なのです。

自動ドアは、電気で動くものという常識から少し離れて、もう一歩深く「その施設に合ったドアのかたち」を見つけていくことで、より安心・安全で持続可能な環境をつくることができます。

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