自動ドアというと、私たちはどうしても「電動式でスムーズに開閉してくれる便利なドア」というイメージを抱きがちです。しかし、バリアフリーの現場においては、その自動ドア自体が「バリア」になってしまうというケースが少なくありません。特に、見落とされがちなのが「床にあるレール」です。

本記事では、「バリアフリーに配慮したつもりが、かえって危険を生んでいた…」という事態を避けるために、**なぜレールが問題になりやすいのか?どうすれば段差ゼロを実現できるのか?**をわかりやすく解説していきます。

施設の管理者や設計に関わる方が、本当に安全で、使いやすい自動ドアを選ぶための判断軸を持てるよう、専門的な知見と現場の視点を織り交ぜながらお届けします。


目次(このページの内容)

バリアフリーのはずが…「自動ドアのレール」がバリアになっていませんか?

Q:バリアフリー対応の自動ドアでも、レールが段差になってしまうことはある?
A:はい。多くの自動ドアは床にレールを設置する構造のため、数ミリ〜数センチの段差が生じ、それがバリアになってしまうケースがあります。


手前にあるのは“配慮”か、それとも“つまずき”か?

施設のバリアフリー改修や新築計画で「自動ドアを導入する=バリアフリーになる」と考えるのは自然な流れです。自動ドアは、高齢者や障害のある方でも手を使わずに通行できるため、「バリアを取り除く装置」として広く認識されています。

しかし、現場で実際に問題になっているのが「床面のレール」です。自動ドアの多くは、開閉するドアの下部に「ガイドレール」と呼ばれる金属製の溝やバーが床に埋め込まれており、この部分が物理的な段差を生み出します。

たとえば、以下のような現象が報告されています:

  • 杖歩行の高齢者が、レールのわずかな段差に引っかかってしまう
  • 車椅子の前輪がレールに取られて進行が止まる
  • 視覚障害者が杖でレールの存在を感知しにくく、方向感覚を失う

こうした問題は、設計段階では「想定していなかったバリア」として、後から発覚することが多いのが実情です。


「段差のないレール」は実現できるのか?

ここでの本質的な問いは、「そもそも段差ゼロでレール付きの自動ドアは作れないのか?」ということです。

結論から言うと、設計と施工次第でほぼ段差を感じさせないレール設置は可能です。ただしそのためには、以下のような設計・工法が求められます:

  • レールを床面に完全に埋め込む設計
  • スロープやフラットフロアとの一体的な納まり
  • 排水処理やゴミ詰まり対策も含めた維持管理設計

ここが、一般的な市販ドアやテンプレ設計との大きな違いです。つまり「バリアフリー対応です」と書かれていても、その実態は設計の細部次第というわけです。


現場からの実例:福祉施設での“見た目フラット”の落とし穴

とある福祉施設では、車椅子利用者への配慮として、建物入口にスライド式自動ドアを導入していました。外観からはレールが見えず「フラット設計」と思われていたのですが、実際には床面に浅く金属レールが走っており、雨天時に濡れると滑りやすく、視認性も低いため転倒事故が発生。

この事例の教訓は、「見た目がバリアフリーに見えても、安全とは限らない」ということです。


なぜレールが必要?自動ドアの基本構造とバリアフリー対応の矛盾

Q:なぜ自動ドアには床にレールがあるの?
A:自動ドアの開閉の安定性と安全性を保つために、扉の動きを誘導する「ガイドレール」が必要になるケースが多いためです。


構造を知らずに選ぶと“逆効果”になることも

自動ドアの導入にあたり、つい「便利さ」や「デザイン」だけを重視してしまいがちですが、実は自動ドアの開閉構造にはいくつかのタイプがあり、その中でも「床レールの有無」はバリアフリー設計において大きな分かれ道になります。

一般的に、建物の出入口に使われるスライド式自動ドアは、「吊り下げ式(上部のみレール)」か「床レール併用型」に分けられます。特に後者の場合は、下部に設けられたガイドレールがドアの走行を安定させる役割を持っています。

しかし、この構造が「バリア」となりうる要因も孕んでいるのです。


ガイドレールの役割と必要性

自動ドアのレールは、以下のような役割を果たしています:

  • ドアがまっすぐ正確に開閉するように誘導する
  • 強風時や揺れに対してドアの動きを安定させる
  • 上部レールだけでは支えきれない大型ガラス扉の荷重を分散

こうした構造的理由により、「床にレールを設置すること」が、特に大型や高頻度使用の施設においては一般的な選択肢とされてきました。


ところが「バリアフリー化」とは真逆の存在に…

レールの機能的な価値は理解できても、それが**車椅子や白杖歩行にとっては「引っかかる原因」**になるのが、バリアフリーとの大きな矛盾です。

ここで問題なのは、「利便性・安全性のための設計」が、「身体的配慮においては障害物」となる点です。

例えるなら、車の安全装置が高齢者の使い方には逆に危険になるようなイメージです。


認識のズレが「危ないバリアフリー」を生む

  • 設計者側:「構造的に必要なレールだから当然ある」
  • 利用者側:「段差がある時点で危ない。見落としていた」

このように、設計と実使用の間にある“認識のギャップ”が、バリアフリー施設でのトラブルや不信感につながってしまうのです。


「段差ゼロ」は実現できる?埋め込み式とノンレール式の仕組みと選び方

Q:自動ドアのレールをなくすことはできるの?
A:はい、段差ゼロを実現するための2つの方法「埋め込み式」と「ノンレール式」があり、それぞれの特徴を踏まえて選ぶことが重要です。


選択肢はある。「レールは絶対必要」ではない

従来の自動ドアでは「レールがあるのが当たり前」という設計が主流でしたが、バリアフリーの考え方が浸透した近年では、段差をなくすための選択肢も確実に広がっています。

自動ドアで「段差ゼロ」を実現する方法は、主に以下の2種類です:

  1. 埋め込み式レールタイプ(=床とツライチ)
  2. ノンレール(無レール)タイプ(=床に何も設置しない)

【方式1】埋め込み式レールとは

要点:

  • レール自体は存在するが、床に完全に埋め込んでフラットにする方式
  • 外見上の段差はほぼゼロ
  • 建築段階での設計・施工対応が必要

特徴とメリット:

  • 扉の走行安定性はそのまま確保できる
  • 強風や重い扉でもしっかり誘導できる
  • 見た目にもスッキリし、誤認の危険性が低い

注意点:

  • 床を掘る必要があり、新築または大規模改修向き
  • 埋設部分の排水・ゴミ詰まり対応が必要(メンテナンス設計が必須)

【方式2】ノンレール(無レール)式とは

要点:

  • 完全にレールを設けない自動ドア構造
  • ドアのガイドは上部や内蔵センサーで行う方式
  • 荷重式などの構造も選択肢に含まれる

特徴とメリット:

  • 完全な段差ゼロが実現できる
  • 車椅子・ベビーカー・白杖でも安心
  • 床の美観や清掃性にも優れる

注意点:

  • 扉の安定性にやや不安がある場合も(とくに大型ドア)
  • 風圧や使用頻度に制限あり(要選定)
  • 建物の形状によっては取り付けできないケースも

比較表:埋め込みレール vs ノンレール

項目埋め込み式レールノンレール式
段差の有無ほぼゼロ(レールあり)完全ゼロ
扉の安定性高い中〜やや低
メンテナンス性排水・清掃が必要比較的ラク
設置条件床の施工が必要条件により後付けも可能
向いている施設病院・公共施設・高頻度利用エリア小規模施設・静音・転倒リスク重視施設

どちらを選ぶべきか?判断のポイントは「人」と「使われ方」

ここで重要なのが、「どちらが優れているか」ではなく、どの施設で・誰が・どう使うのかという「適ドア適所」の視点です。

  • 車椅子利用者の比率が高い介護施設: → ノンレール式がベター
  • 大規模施設で風圧が強い病院エントランス: → 埋め込み式レールの方が安心
  • 子どもが多く走り回る保育施設: → ノンレールで安全性を優先

このように、利用者の特性と施設の使用環境によって、最適な構造は変わります。



実際の施設ではどう使い分けている?「適ドア適所」で考える自動ドア選び
を執筆していきます。

実際の施設ではどう使い分けている?「適ドア適所」で考える自動ドア選び

Q:どの施設にどんな自動ドアを選べばいいの?
A:利用者の特性・施設の規模・環境条件に応じて、最適な自動ドアの方式(レール付き・ノンレール)を使い分ける必要があります。


自動ドアは「汎用品」ではない

よくある誤解に、「バリアフリー対応って書いてあればどこでも同じように使えるでしょ?」というものがあります。しかし実際には、施設ごとに利用者の属性や動線、設置環境がまったく異なるため、「どこでも同じ自動ドアが正解」ということはありません。

ここで登場する考え方が、Newtonドアでも大切にしている「適ドア適所」です。


「適ドア適所」とは?:人と場所に合わせて最適なドアを選ぶ視点

  • 適ドア:その施設の目的・人の動きに適したドア構造・機能を選ぶ
  • 適所:建物の場所ごとに、風圧・使用頻度・安全性を加味して最適な設置方法を判断

つまり、「誰が」「どのように使うのか」を起点にして自動ドアを選ぶ、という考え方です。


ケース別:こんな施設にはこの方式が向いています

1. 【介護施設・特別養護老人ホーム】

  • 利用者特性:歩行補助器/車椅子/認知症傾向の高齢者
  • 適ドア方式:ノンレールタイプ(完全段差ゼロ、安全最優先)
  • 理由:つまづき・転倒のリスクを極限まで減らす必要がある。音や衝撃に敏感な方が多く、静音性も重要

2. 【病院・医療施設】

  • 利用者特性:車椅子・ストレッチャー・ベビーカー・来訪者多
  • 適ドア方式:埋め込みレール式(高頻度使用・耐久性・強風対策)
  • 理由:屋外と屋内の間口に多く使われるため、風除け・断熱も考慮。レールを見せずに安全性を確保したい

3. 【公共施設(役所・市民ホール等)】

  • 利用者特性:全年齢層・多様な属性・一時的な混雑
  • 適ドア方式:埋め込みレール式 or 荷重式ノンレール(利用頻度で判断)
  • 理由:設計自由度と安全性のバランスが必要。予算や施工条件によって分岐

4. 【保育園・こども園】

  • 利用者特性:幼児・ベビーカー・保護者
  • 適ドア方式:ノンレールタイプ
  • 理由:子どもが走り回って転倒しやすいので段差ゼロが必須。ドア開閉の静かさも重要

5. 【集合住宅の共用部】

  • 利用者特性:高齢者・ベビーカー・日常的な通行
  • 適ドア方式:荷重式ノンレール(手動式も含む)
  • 理由:完全な自動化よりも、シンプルで安全な構造が好まれるケースも。コストとの兼ね合いも大

自動ドアは「単なる設備」ではなく「配慮の表現」

自動ドア選びは、単なる設備選定ではなく「その施設の思想や配慮の表現」にもつながります。

  • 段差がなく、安全で静かに開くドア
  • 誰もが迷わず通れる入口
  • トラブルの少ない構造で、長く安心して使えるもの

その全てが、「この施設は私たちのことをちゃんと考えてくれている」と利用者に伝える、無言のコミュニケーションになるのです。


JIS規格と安全性の観点から見た「段差解消」の重要性とは

Q:バリアフリー設計において段差ゼロは必須条件?
A:はい。JIS規格でも、段差のない床構造はバリアフリー設計の基本とされており、安全性確保の観点からも極めて重要です。


JIS A4722が示す「段差」の定義とその扱い

日本工業規格(JIS)の中で、自動ドアに関連する基準として代表的なのが「JIS A4722:建築用自動ドア装置の安全性に関する要求事項」です。

この規格では、以下のような要件が定められています:

  • 自動ドアの動作が、利用者の安全を脅かすことがないようにする
  • つまずきやすい構造を避けること
  • 杖・車椅子・ベビーカーなどでも安全に通行できるよう、段差を最小限にする設計

つまり、段差が存在する設計自体がリスクであり、可能な限り解消すべきと明示されているのです。


段差がもたらす“身体的・心理的”バリア

段差によるリスクは、単なる「物理的障害」だけにとどまりません。

【身体的リスク】

  • つまずきによる転倒・骨折
  • 車椅子の通行阻害とストレス
  • ストレッチャー等の搬送時の揺れ・停止

【心理的バリア】

  • 「この施設は自分に優しくない」という無意識の疎外感
  • 誘導・声かけが必要になり、利用者の“自立”を妨げる
  • 無意識の不安感が、施設への印象全体を悪化させる

このように、「数ミリの段差」が人の尊厳や安心感に大きく影響することを、設計者・運営者はしっかり理解しておく必要があります。


Newtonドアによる安全性検証データの活用(※中立的紹介)

Newtonドアでは、荷重式自動ドアを中心にJIS A4722に準拠した安全性検証を第三者機関と共に実施しており、その中で「段差のない設計」が心理的にも物理的にも安心感を与えるという結果が報告されています。

たとえば:

  • 床の段差がゼロに近い設計では、杖歩行者の不安が70%以上軽減
  • 視覚障害者がレールの“ない”入口での通行に自信を持てたケースが多数
  • 扉の開閉タイミングと段差の関係が転倒リスクに直結するというデータも

これらのデータは、設計判断をする上での重要な参考情報として活用可能です。


安全性は“コスト”ではなく“信頼”と“安心”の基盤

「安全な設計は高コストだから…」という発想は、もはや過去のものです。現代の施設では、「いかに安全性と使いやすさを両立できるか」が社会的評価に直結する時代です。

  • 事故が起こってからでは遅い
  • 安心して通れる入口があるだけで、施設の印象は大きく変わる
  • 設計の段階で、できるだけ“疑似ユーザー目線”に立つことが重要

このように、段差解消は「単なる技術論」ではなく、「利用者の安心と尊厳を守るための設計判断」として捉えるべきでしょう。


レールが気になるなら、まず知っておくべき「よくある勘違い」とFAQ

Q:レールのない自動ドアって、万能ではないの?
A:いいえ。ノンレールタイプにも条件や注意点があります。誤解や過度な期待を避けるために、よくある勘違いを整理しておきましょう。


「レール=バリア」と決めつけるのはNG

確かに、段差をなくすという点で「ノンレール」は有力な選択肢ですが、必ずしもすべての現場において最適解とは限りません。たとえば、以下のようなケースです:

  • 扉が重くて、ノンレールではガイドが不安定になる
  • 強風が吹き込む場所では、扉の動きがブレやすい
  • 埋め込みレールにすることで、外観も性能も両立できる場合

つまり、「レールの有無」は単なる構造の違いではなく、「設計の意図と現場の条件によって選ぶもの」なのです。


よくある勘違い・FAQ


Q1:バリアフリー対応なら、レールは完全になくすべき?
A:必ずしもそうとは限りません。段差を解消しつつ、レールの安定性も活かした埋め込み式が有効な場面もあります。


Q2:ノンレールタイプの自動ドアは安全性に問題ないの?
A:構造上の安定性は少し劣りますが、軽量ドアや荷重式などで補える場合もあります。施工場所や利用者層で判断が必要です。


Q3:ノンレールって本当に“完全な段差ゼロ”になる?
A:床面にガイドが一切ないため、段差はゼロになりますが、取り付け面や建物構造によっては「つまずきにくい縁の処理」などの工夫が必要なことも。


Q4:ノンレール自動ドアは後付けできる?
A:できる場合もありますが、開口部の大きさや壁の構造次第です。手動ドアを置き換える場合は、構造チェックが必要です。


Q5:床を掘る工事はどれくらい大変?(埋め込みレールの場合)
A:新築であれば設計段階で対応可能ですが、改修では既存床材の撤去や防水処理も必要です。床厚に余裕があるかの確認が重要です。


Q6:雨水やゴミがレールにたまって詰まったりしない?
A:適切に排水設計されていれば問題ありません。点検口を設けることで、清掃性も確保できます。


Q7:耐久性に差はあるの?
A:床にレールがあるタイプは構造的に安定しやすく、耐久性も高いです。ノンレール型は静音性と安全性に優れますが、定期点検がより重要になります。


【適ドア適所】にそった「まとめ」

今回の記事では、「バリアフリー対応の自動ドア」で見落とされがちな「レールの段差問題」にフォーカスし、**段差をなくすための構造的な工夫と、施設ごとの最適な選び方(=適ドア適所)**を解説してきました。

ここでもう一度、重要なポイントを振り返りましょう。


✅ レールが“バリア”になることもある

  • 自動ドアのレールは便利さの一方で、つまづき・車椅子の通行障害となるケースも
  • 見た目のフラットさではなく、実際の“使いやすさ”が本質

✅ 段差ゼロは「埋め込み式」か「ノンレール式」で実現できる

  • 埋め込み式:安定性と安全性のバランス。新築・高頻度施設向き
  • ノンレール式:完全な段差ゼロ。高齢者施設や静音重視施設に最適

✅ 施設ごとに「適ドア適所」の選定が不可欠

  • 利用者層、風環境、設置位置、設計方針によって最適なドア構造は異なる
  • 「一番いい」ではなく「一番合う」ドアを選ぶことが重要

✅ 安全性と信頼性は、見えない配慮の積み重ね

  • JIS規格でも段差解消は明確に求められている
  • 「安心して通れるドア」こそが、施設全体の信頼を高める

自動ドアの構造や設計選定は、専門的な領域に見えますが、ほんの数ミリの段差が「人の安心感」を左右することを考えれば、軽視することはできません。

今回の記事が、「自動ドアの選び方=利用者への配慮のかたち」として、多くの方に伝わるきっかけになれば幸いです。


出典・参考情報一覧(本文で触れた内容)

  • JIS A4722 建築用自動ドア装置の安全性
  • Newtonドアの安全性検証とJIS規格整合性【資料】
  • Nドア導入施設での事例(自治体・福祉施設・マンション等)
  • NドアFAQ集【ノンレール・荷重式の特性】
  • 日本建築学会・福祉住環境整備関連論文 等

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