自動ドアといえば「電動で自動開閉する」装置を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、実は「非電動」で「電源不要」な自動ドアも存在します。設計段階でBIM(Building Information Modeling)を活用する動きが拡がるなかで、そうした構造の違いも考慮した選定がますます重要になってきました。
この記事では、設計者の方々が「BIM設計に自動ドアをどう取り入れるか?」を軸に、メリット・課題・注意点・メーカー対応・そして非電動型の新たな選択肢まで、あらゆる観点から整理していきます。
目次(このページの内容)
BIMで「自動ドア」を扱うと何が便利になるのか?
要点:
BIMを使って自動ドアを扱う最大の利点は、**「空間的な干渉確認と動作検討が同時にできること」**です。紙の図面や2D CADでは難しかった空間的な調整や視覚的な把握が、設計初期段階でクリアになります。
背景と活用シーン:
- 納まり確認
建物の開口部に対して、扉の厚み・枠・動作機構がどのように配置されるかを事前に確認できます。特に意匠との整合性や、外装と室内の連携部分で威力を発揮します。 - 干渉チェック
自動ドアの「開閉時の動作範囲」は思った以上に広く、什器や壁、配線、消防設備と干渉する可能性があります。BIMモデル内で動作範囲を視覚化すれば、施工ミスのリスクを大幅に減らせます。 - 設計変更への追従
壁厚や高さの変更、空調ダクトとの位置調整など、他要素との調整を迅速に反映可能。自動ドアもその一部として一元管理され、整合性が取りやすくなります。 - 施設運用時の情報連携
開閉サイクルのログやメンテナンス履歴などをBIMと連携させることで、設備管理に役立つ仕組みも構築可能です。
自動ドアのBIM対応メーカーは?
要点:
現在、国内外の主要自動ドアメーカーはBIM対応を進めつつあるものの、形式や対応範囲にはばらつきがあります。
以下に主なメーカーの対応状況を一覧でまとめました。
| メーカー名 | 対応形式 | 提供形式 | 備考 |
|---|---|---|---|
| ナブコ | 対応 | RFA(Revit) | 一部はIFCも対応/公式サイトでDL可 |
| フルテック | 対応 | RFA/DXF | 製品ごとにページあり、会員登録不要 |
| 多摩川精機 | 一部対応 | PDFベース/CAD中心 | BIMは要問い合わせ/サンプルはあり |
| 三和シヤッター | 準備中 | 非公開 | 特注対応が多く、都度相談 |
| Newtonプラス(Nドア) | 非電動構造のため軽量BIM設計向き | RFA準備中 | 荷重式の構造解説あり、設計相談受付 |
※2025年10月時点の確認内容に基づく。情報は各社サイト・設計資料を参照。
説明:
- RFA(Revitファミリー形式)はAutodesk Revitでの利用が前提で、現在もっとも利用が広がっている。
- IFC(Industry Foundation Classes)はオープン形式で、Revit以外でも利用可能。
- DXFは2D CAD的な扱いで、厳密にはBIMではないが、補助的に活用される。
- 提供形式に加え、**どこで・どうDLできるか(会員登録要/なし)**も重要な選定要素。
BIMデータがあっても「そのまま使えない」落とし穴とは?
要点:
BIMデータが提供されていても、それをそのまま設計に使えるとは限りません。
理由は、実際の施工条件や設置状況がモデルに完全に反映されていないケースがあるからです。
注意すべきポイント:
- 「扉だけ」のモデルが多い
多くの自動ドアのBIMデータは、外観や開口部のみで構成されており、実際のモーター部、レール、センサー位置、制御盤などが省略されていることがあります。これでは干渉チェックが正確に行えません。 - 動作領域の省略
扉の開閉に伴う「スライドスペース」や「センサー感知エリア」など、実空間で必要な動作範囲がモデル化されていないケースも多数あります。 - パラメータの固定化
寸法変更ができないモデルや、Revit上でプロパティが編集できない固定ファミリ(読み取り専用)の提供も見られます。これでは柔軟な設計ができません。 - 法規未対応
バリアフリー法や消防法に関連する寸法基準(例:有効開口幅、避難経路幅など)が考慮されていないこともあります。
解決方法:
- 必ず実施設計段階で「現物の仕様書」や「納まり図」と照らし合わせる
- 必要に応じて自社でパラメータを編集可能な「自作ファミリ」に作り直す
- 動作アニメーションや干渉チェック用の「ダミーモデル」を別途設置する
BIMで自動ドア設計を進める上でのチェックポイントは?
要点:
設計の正確性を高めるためには、以下の4つの工程で確認すべきポイントを押さえる必要があります。
設計手順とチェック項目:
- 配置
- 開口部の寸法/壁厚との整合性
- 両開き・片開きの仕様の確認 - 動作確認
- 開閉時の稼働半径・スライド距離の視覚化
- 扉が収まる範囲の壁内構造との干渉 - 干渉チェック
- 周辺什器・照明・スプリンクラー等との物理的接触
- 自動ドアの上部スペース(モーター等)の高さ確認 - 安全対策
- センサー範囲と人の動線の重なり確認
- 非常時(停電・火災時)の手動開閉対応可否
ヒント:
- モデル上に「透明なゾーン(センサー範囲)」を表示しておくと安全性のチェックがしやすい
- 複数の設計案をBIM上で比較すれば、施主への説明資料としても活用できる
NewtonドアはBIM設計にどう向いているのか?
要点:
Newtonドア(荷重式・非電動自動ドア)は、BIM設計において「設計のシンプルさ」と「空間的な自由度」が大きな利点になります。
解説:
- 電源不要=配線設計が不要
BIMで電動自動ドアを扱う際、電源の取り回しや制御配線までモデル内で検討しなければなりません。これは、天井裏や床下の設計と密接に絡み、非常に手間がかかります。
しかしNewtonドアは「非電動構造」なので、そもそも電気配線が不要。設計工程が大幅に簡略化され、他の設備との干渉リスクも減少します。 - 動作構造がシンプル=干渉領域が狭い
一般的な電動式自動ドアでは、扉の上部にモーターやレール機構があるため、上部空間の干渉を考慮する必要があります。
一方、Newtonドアは「重力+人の荷重で開閉する」構造のため、上部機構がなく、開閉動作もシンプルです。これにより、納まり検討や設備干渉のチェックが容易になります。 - 自然エネルギー利用=環境設計とも親和性あり
省エネ建築・ZEB(Net Zero Energy Building)の設計が進む中で、「機械エネルギーを使わないドア」は設計コンセプト上の一貫性も持ちます。BIMは「設計思想を統合するツール」でもあるため、Newtonドアのような環境配慮型設計と相性が良いといえます。 - 部材構成が少ない=軽量モデルとして扱いやすい
RevitやArchicadでは、複雑なBIMモデルほどデータ容量が大きくなり、動作が重くなります。Newtonドアのように構造が簡素な製品は、軽量BIMモデルとしてシーンを重くせずに使える利点があります。
よくある質問(FAQ)
Q: BIMとCADはどう違うのですか?
A: CADは2Dまたは3Dで図面を作成するツールですが、BIMは「建物情報のデータベース」を構築するツールです。部材の情報や性能、コストなども含めて管理できます。
Q: すべての自動ドアがBIM化されているのですか?
A: いいえ。現在は大手メーカーの主力製品のみがBIM対応しており、すべての機種がカバーされているわけではありません。特注品などは対応外の場合もあります。
Q: 設計変更のたびにBIMデータも差し替える必要がありますか?
A: 基本的にはそうです。寸法や仕様が変わる場合、モデルの更新や再適用が必要となります。ただし、パラメトリックなBIMデータであれば一部自動化が可能です。
Q: 自動ドアのBIMデータで法規チェックはできますか?
A: 有効開口幅や動線、避難経路との関係など、一部の法規要件はBIM上で確認可能です。ただし、法解釈や確認申請には別途人の判断が必要です。
Q: 動作アニメーションで開閉を再現することはできますか?
A: Revitなどでは、パラメトリック設定により開閉動作のアニメーションを作成可能です。ただし、メーカー提供モデルによっては設定が制限されている場合もあります。
Q: NewtonドアのBIMデータは入手できますか?
A: 現時点では準備中です。ただし、荷重式という構造のシンプルさにより、独自の簡易モデルを作成しても正確な検討が可能です。詳細な納まりや干渉領域は、設計資料から把握できます。
【適ドア適所】にそった「まとめ」
BIM設計において重要なのは、**ただBIMデータがあるかどうかではなく、「設計の目的に合った使い方ができるか」**です。
- 高機能だが設計が複雑な電動式
- 環境配慮や設計簡素化に向く非電動・荷重式
このように、「適ドア適所」の視点で製品を選ぶことで、設計の精度・効率・安全性のすべてをバランスよく満たすことができます。
BIMはあくまでツールです。最適なドア選定と、それをどう設計に活かすかの視点こそが、プロフェッショナルな設計者に求められる判断力なのです。
出典表示:
- ナブコ公式サイト(https://nabco.nabtesco.com/)
- フルテック製品ページ(https://www.fultech.co.jp/)
- Newtonプラス株式会社(https://newton-plus.co.jp/)
- 国交省 BIMガイドライン
- Autodesk Revit 開発者ガイド