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自動ドアの電気容量が足りない?ブレーカー選定と“容量を気にしない選択肢”
自動ドアを導入・設計する際、見落とされがちなポイントの一つが「電気容量」です。
見た目や開閉スピードに注目しがちですが、実際に現場でトラブルが起きやすいのは「電源まわり」。
ブレーカー容量が足りない、分電盤に余裕がない、非常電源で動かない——こうした問題はすべて“電気容量の設計不足”から始まります。
この記事では、自動ドアの電気容量を基礎から解説し、設計・施工の現場で失敗しないための考え方を整理します。
また、後半では「電気容量をそもそも気にしなくてよい自動ドア(=荷重式 Newtonドア)」という新しい選択肢についても紹介します。
自動ドアの「電気容量」とは何か?
まず、「電気容量」という言葉の正体を整理しておきましょう。
電気容量とは、電源側がどれだけの電力(ワット:W)や電流(アンペア:A)を安全に供給できるかという“余力”を指します。
自動ドアに限らず、照明・空調・防犯カメラなど、建物内のすべての電気設備はこの容量の範囲で動作しています。
消費電力・定格電流・待機電力の違い
自動ドアのカタログには、多くの場合次の3つの値が並んでいます。
| 用語 | 意味 | 目安値(一般的な電動引き戸の場合) |
|---|---|---|
| 消費電力 | 動作中に使う電力量 | 約200〜400W |
| 定格電流 | 安定動作に必要な電流量 | 約3〜5A(100V時) |
| 待機電力 | 開閉していない時に制御盤が使う電力 | 約3〜10W |
つまり、自動ドアは動作時に200〜400Wの電力を一瞬使い、待機中は微弱な電流を流し続けています。
この「動作時のピーク」と「待機時の継続消費」を両方考慮して、分電盤やブレーカーの容量を設計する必要があります。
一般的な電動自動ドアの電気容量と電源仕様
建築図面や電気配線図に「100V」または「200V」と書かれているのを見たことがあると思います。
これは、供給される電圧の違いです。自動ドアでは以下のような使い分けが一般的です。
| 電源区分 | 主な用途 | 特徴 |
|---|---|---|
| 単相100V | 小規模店舗・住宅エントランス | 一般家庭用と同じ電源で扱いやすいが、容量は小さい |
| 単相200V | 商業施設・ビル共用部 | トルクが大きく、大開口・高頻度の開閉に対応 |
| 三相200V | 大型シャッターや重扉 | 工場や物流施設で使用、制御盤も専用設計が多い |
ブレーカー選定の目安と余裕率
電動式自動ドアを新設する際、重要なのがブレーカーの選定です。
一般的には、定格電流の1.2〜1.3倍程度の余裕を持たせるのが推奨されています。
例:定格電流が4Aの場合
→ ブレーカー容量は 5A × 1.3 ≒ 6A以上を目安に設計
この余裕を確保しておかないと、夏場の高温や冬場の重負荷時にブレーカーが頻繁に落ちる原因となります。
設計で起こりやすい電気容量トラブル
分電盤の容量不足による作動不良例
既存建物に後付けで自動ドアを設置する場合、「分電盤の空き回路がない」ケースが多く見られます。
その結果、照明回路などから無理に電源を引くことで、電圧降下が発生。開閉が遅くなったり、途中で止まったりといったトラブルにつながります。
停電時・非常電源時に動かない理由
自動ドアは制御盤とモーターが一体化しているため、停電時には動作しません。
非常電源(UPS)を組み合わせれば短時間の開閉は可能ですが、蓄電池の容量・寿命・安全管理の手間が増えます。
施工後に電源容量を追加する難しさ
建築完了後に容量不足が見つかると、電気配線の増設が必要になります。
共用部を通す場合は管理組合の承認が必要になることもあり、コスト・期間ともに大幅に増大します。
容量不足を解決する3つの現場対応策
電気容量が不足している現場では、次の3つの方法で対処するケースが多く見られます。
- 別回路からの引き込み
照明や空調と独立した回路を確保して、電圧降下を防ぐ。 - ブレーカー容量を上げる
ただし分電盤全体の契約容量を超えない範囲で行う必要があります。 - 開閉回数を制限する・センサー設定を見直す
無駄な開閉を減らすことで、結果的に負荷が下がる。
これらは一時的な対応にすぎず、根本的な“電源依存”を解消するには別のアプローチが必要です。
電気容量を抑える方法はある?
電動式でも、近年は低消費電力タイプのモーターを採用した製品が増えています。
ただし「電力量の削減」には限界があります。
開閉頻度を制御する
センサーの検知範囲を最適化し、不要な開閉を防ぐことで待機電力とピーク負荷を抑制できます。
モーターの省エネ化
インバータ制御によって、開閉時の加速・減速を滑らかにすることで、電力消費を抑える技術もあります。
とはいえ、停電時に動作しないという根本構造は変わりません。
荷重式(Newtonドア)なら「電気容量の設計が不要」?
ここからは、“電気容量そのものを考えなくていい自動ドア”の話です。
荷重式はどのように動くのか
Newtonドアは、ドア上部に組み込まれた荷重変換機構が、ドアの自重(重力)をエネルギー源として利用します。
人がドアに軽く触れるだけで、その力を利用して開閉が行われる仕組みです。
モーターも制御盤も存在しないため、消費電力=ゼロ。
“容量ゼロ”という安全思想
電源を使わないということは、「停電時でも確実に動作する」ということです。
また、機構がシンプルであるため、電気的な誤作動や経年劣化のリスクもありません。
Newtonプラス社では、JIS規格に基づいた安全検証を実施しており、非常時でも扉が確実に開放されるよう設計されています。
電源工事が不要になる現場の実例
- 自治体庁舎:BCP対策として「停電時も出入口が確保できる」荷重式を採用。
- 集合住宅:共用分電盤の容量が逼迫しているため、電気を使わない自動ドアで新設を実現。
- 山間部施設:電源引き込みコストが高いため、電気不要の自動ドアを選択。
これらの事例に共通するのは、「電源条件に縛られない設計」が求められたことです。
【適ドア適所】容量制約から考える最適なドア選び
最後に、「電気容量」という観点から、どのような現場でどのタイプの自動ドアが適するかを整理します。
| 条件 | 電動式自動ドア | 荷重式(Newtonドア) |
|---|---|---|
| 開閉頻度が高い | ◎ 高速開閉可能 | ○ 人通り少ない箇所向き |
| 大開口・重扉 | ◎ モーター駆動が安定 | △ 重量制約あり |
| 電源確保が容易 | ◎ 商業施設などに最適 | ○ 電源不要でも可 |
| 停電対策を重視 | △ 非常電源が必要 | ◎ 電源不要で常時可動 |
| 分電盤容量に余裕なし | △ 増設が必要 | ◎ 容量設計不要 |
| 設備保守を軽減したい | ○ 定期点検が必要 | ◎ メカ構造のみで簡易 |
このように、「電気容量の有無」は単なる電気設計の話ではなく、「建物の安全性・維持コスト・BCP(事業継続)」にも直結します。
つまり、電源条件を起点に最適な方式を選ぶことこそが「適ドア適所」の基本です。
【適ドア適所】にそった「まとめ」
- 自動ドアの電気容量は、定格電流と余裕率を理解することが基本。
- 電動式では200〜400W程度の電力を要し、ブレーカーは定格の1.2〜1.3倍が目安。
- 停電時は動かないため、非常電源やUPSの設計が必要。
- 容量不足の現場では、引き込み・分電盤増設など追加工事が発生する。
- 電気を使わない荷重式(Newtonドア)なら、容量設計そのものが不要。
- 「電源条件」を軸に、建物ごとに最適な方式を選ぶことが重要。
出典・参考
- 日本工業規格 JIS A 4722: 自動ドア装置
- Newtonプラス株式会社 技術資料
- 建築設備技術者協会「電源容量の設計指針」