自動ドアといえば「電動式」のイメージが強いかもしれませんが、最近では電気を使わずに開閉する「荷重式」の自動ドアも登場しています。どちらのタイプであっても、設計図面を描く段階で「何を、どこまで、どのように描けばよいのか?」という疑問は、多くの設計担当者に共通する悩みです。

この記事では、自動ドアの図面に関して「なぜ迷うのか」からはじまり、具体的な作図の基本、伝わる図面を描くための実践ポイント、そして電気を使わない荷重式自動ドアまで含めた、現場で本当に役立つ図面の描き方を解説します。

設計初心者の方にも、現場で苦労してきた中堅設計者にも納得していただける、実務目線の内容となっています。図面づくりで不安や疑問を感じている方は、ぜひ最後までご覧ください。


自動ドアの図面、なぜこんなに迷う?

自動ドアの図面は、なぜこんなにも分かりづらいのでしょうか?その理由は、大きく分けて3つあります。

まず1つ目は、「構成部材が多く、複数の専門領域にまたがる」こと。一般的な開き戸や引き戸に比べ、自動ドアには戸袋、センサー、モーター、制御盤、開閉装置、非常開放装置など、多くの部材が関係します。これらは建築(意匠)だけでなく、電気設備、機械設備、メーカー独自部品と、複数の担当領域にまたがっているため、「どこまで設計側で描くべきか」が曖昧になりがちです。

2つ目は、「読み手の数が多く、図面の“伝え先”が定まらない」こと。意匠図を見るのは設計者だけではありません。現場監督、施工業者(大工・内装・サッシ・設備・電気)、製品メーカー、そして時にはクライアントまでもがその図面を見ます。全員が同じレベルで図面を読み取れるとは限らず、読み手ごとに必要な情報も異なります。

3つ目は、「図面の表現方法に正解がない」こと。たとえば、開閉方向をどう示すか、戸袋の寸法をどこまで記すか、センサーの範囲や位置をどう示すか――これらには法的な厳格なルールがあるわけではなく、事務所や個人の“慣例”に任されているケースも多く、初心者には判断がつきづらいのです。

こうした背景から、「図面が描けない」わけではなく、「正しく描けているかが分からない」ことが、自動ドア図面における最大のストレスになっているといえるでしょう。


意匠図・施工図・詳細図…それぞれ何を描く?図面の種類と実務での役割

図面が分かりづらくなる原因の1つに、「図面の種類とその役割の違い」があります。ここでは、自動ドアに関わる図面を大きく5つに分けて、それぞれの目的と描くべき情報を整理しておきましょう。

  1. 意匠図(平面図・立面図)
    建築設計者が最初に作成する基本的な図面で、自動ドアの位置、開口サイズ、開閉方向、戸袋の有無など、空間全体とのバランスを考えて記載されます。ここでは主に「建具記号」や「矢印による開閉方向」、「凡例による注記」が使われます。
  2. 詳細図
    自動ドア部分だけを拡大し、部材の構成や寸法、納まりなどを細かく記す図面です。戸袋の奥行きや高さ、ガイドレールの取付位置、ガラス厚、框寸法などが含まれます。
  3. 電気図(電源図・配線図)
    自動ドアのモーターやセンサーに電源を供給するための回路図。コンセント位置や電圧、配線ルートなどを明示します。特に後述の荷重式自動ドアでは、この図面が不要となることもあります。
  4. 施工図
    施工業者やメーカーが製作・施工のために作成する図面。実際に施工する上での最終的な図面で、部品寸法や配置、取付方法などが正確に反映されます。
  5. 凡例図(記号・注記)
    上記すべての図面に共通する基礎情報として、記号や注記の意味、開閉方法や仕様番号などを示す凡例を作成する場合もあります。特に“誰でも読める”図面を意識するなら、凡例の明確化は重要です。

設計初期の段階では意匠図だけで済ませがちですが、実務では詳細図や配線図までを含めて考える必要があります。逆に、意匠図に描き込みすぎると、他部署との境界が不明確になり、責任の所在が曖昧になることもあります。各図面の役割をしっかり把握した上で、「誰が、いつ、どの図面を使うのか」を明確に意識することが、設計ミスを防ぐ第一歩です。


自動ドア図面に欠かせない“基本要素”とは?

自動ドアを図面に描く際、どんな情報が「絶対に欠かせない」のか。まずはこの問いにしっかり答える必要があります。

結論から言えば、以下の6つの要素が最低限必要です:

  1. 開閉方向
  2. ドア寸法(開口寸法・ドアパネル寸法)
  3. 戸袋の有無と寸法
  4. センサーの設置位置と種類
  5. 電源位置(AC100Vまたは200V)と配線ルート(電動式の場合)
  6. 非常開放装置やストッパーなど安全機構の有無

これらの要素が図面に欠けていると、現場での施工時に迷いやトラブルの原因となります。以下、それぞれの要素について詳しく見ていきましょう。


手順:図面に記載すべき6つの要素

  1. 開閉方向
    自動ドアは通常、片引き・引分け・2枚引分けなどのバリエーションがあります。開閉方向を明確に示す矢印や記号を用いることが重要です。例えば「←自動」や「自動→」といった注記を加えるだけでも、誤解を防げます。
  2. ドア寸法(開口寸法・ドアパネル寸法)
    開口部の幅と高さ、ドアパネルの枚数や1枚あたりの寸法を記載しましょう。製品カタログに合わせてmm単位で記載することが望ましく、設計図とメーカー仕様の整合性をとる上でも重要です。
  3. 戸袋の有無と寸法
    引き戸タイプの自動ドアには、開いた扉を収納する「戸袋」が必要です。これを意匠図に反映していないと、壁の納まりや内装計画に大きな影響が出ます。奥行き、内寸、干渉物の有無なども考慮しましょう。
  4. センサーの設置位置と種類
    天井取付型・上枠一体型・側面取付型など、センサーの位置はメーカーや建物用途によって異なります。誤認防止のため、設計段階でセンサーの検出範囲を図示したり、注記で仕様を示すのが理想的です。
  5. 電源位置と配線ルート(電動式の場合)
    モーターや制御装置への電源供給は、天井裏や壁内からの配線となるケースが多いため、配線の引き込み位置・ルート・必要容量(AC100V/200V)を図面内に明記しておきましょう。
  6. 非常開放装置、安全機構
    災害時や停電時に備え、非常時に手動で開けられる仕組み(フリースライド・非常開放レバーなど)の有無を記載する必要があります。特に病院や公共施設では法的要件に関わるため注意が必要です。

注意点:これが抜けると現場でトラブルになる

現場で最も多いトラブルの1つが、「センサーと天井の取合いミス」です。設計段階で「センサーの厚み」や「モールの出っ張り」を見落とし、天井と干渉してしまうという例は少なくありません。

また、戸袋寸法を「壁厚」と混同し、建具が完全に収納できない事例もあります。このようなミスは「描き忘れ」ではなく、「描き足りなかった」ことによるトラブルです。

つまり、図面とは単なる“作図”ではなく、“現場に伝える設計の意図”であることを意識する必要があります。次章ではこの視点をさらに深めていきます。


誰に、何を伝える図面か?──伝わる図面の描き方

図面に“正解”がないと感じるのは、設計の視点が「作図者」にとどまっていて、「図面を読む人」のことが意識されていないからです。では、図面を描くとき、誰に何を伝えるべきなのでしょうか?

答えは、「読み手ごとに、必要な情報は異なる」ということです。


要点:読み手(施工者・電気屋・メーカー)ごとに異なる情報ニーズ

  • 施工業者は、「寸法」「取付位置」「必要クリアランス」が明確であることを重視します。特に戸袋の深さや配線位置が曖昧だと、現場での加工が必要になり、ミスや手戻りの原因になります。
  • 電気設備業者は、「どこに何Vの電源が必要か」「スイッチ・センサーの結線方法」を知りたいと思っています。電源図が別紙で用意されていない場合、意匠図に最低限の情報を補っておく必要があります。
  • メーカー(自動ドア業者)は、「枠寸法」「開口サイズ」「戸袋の構造」などを図面から読み取り、製品選定や納まり図を作成します。図面に不備があると、最終製作に支障が出るため、非常に重要な読み手です。

根拠:実務で発生する「読み違い」「責任の押し付け合い」リスク

ある病院の新築工事では、設計図に電源位置が明記されていなかったため、設備業者が“いつもの場所”に電源を引いたところ、設計者が意図していた「目立たないセンサー配置」が実現できず、後から修正を余儀なくされました。

このように、読み手ごとの期待値に応じた図面記載がなされていないと、「誰が悪いのか分からない」トラブルに発展しがちです。つまり、図面は責任の明確化ツールとしても機能するという認識が必要です。


推奨:注記や凡例の書き方、図面のレイヤー分けの工夫

「誰に何を伝えるか」を整理するために、以下の3つの工夫をおすすめします。

  1. 注記の徹底
    例えば「電源位置(AC100V)を壁内配線とする」「センサーは天井一体型を使用予定」など、読み手に誤解がないように注記を活用しましょう。書きすぎると図面がごちゃごちゃする場合は、凡例にまとめてもOKです。
  2. 凡例の明確化
    建具記号や開閉方向記号だけでなく、自動ドア特有の記号(センサー、モーター、非常開放機構)も明確に定義した凡例を作成し、図面の左下などに記載しておくと、誰が見ても安心です。
  3. レイヤー分け(CAD活用)
    建築意匠/電気設備/自動ドアメーカー向けといった形でレイヤーを分けることで、相手に合わせた図面の出し分けが可能になります。情報過多による混乱を避けながら、必要な情報だけを提示できます。

荷重式など非電源型の自動ドアを図面で扱うには?

自動ドアといえば「電源ありき」の前提で設計するのが一般的ですが、近年、停電時でも動作する「荷重式(非電源型)」の自動ドアが注目されています。Newtonドアに代表されるこのタイプは、電気を使わず、人が乗るとドアが開く仕組みです。

では、電気を使わないこのドアを設計図に描く場合、どのような点に注意すべきでしょうか?


要点:電気配線が不要な構造に対応した記載法が必要

荷重式の自動ドアには、以下のような特徴があります:

  • 電源不要(電気図不要)
  • モーター、制御盤が存在しない
  • センサーが存在しない(人感検知でなく、物理的な加重による作動)
  • 停電対応が標準構造で備わっている
  • メンテナンスが簡易

このため、図面には従来型の電動式自動ドアと異なる考慮点が発生します。単に「自動ドア」と記載するだけでは、読み手に誤解を与える可能性があるため、構造の違いを意識した図面記載が求められます。


注意点:開閉方向の記載、センサーの要不要、設置条件など

荷重式ドアを図面に落とし込む場合、次の点に注意してください。

  1. 開閉方向の記載
    荷重式の開閉は「足下の荷重プレートを踏む→ドアが開く→離れると閉まる」という動作になるため、通常の自動ドアのように“常時開”や“センサー保持開”の概念はありません。開閉方向は必ず記載し、使用方法が一般の自動ドアと異なる旨を注記しましょう。
  2. センサーの要否
    設計上、センサーは不要です。そのため、センサー記号や配線は一切不要となります。これを図面上で「センサーなし」「非電源型」と明記しておくと、施工側の誤解が防げます。
  3. 設置条件(床荷重)
    床に荷重プレートを設置する関係上、床仕上材や構造体の荷重分布、排水条件(濡れてもよいか)など、物理的な設置条件への配慮が必要です。図面で「床仕上」や「下地補強の要否」に言及すると、施工側との調整がスムーズになります。
  4. 非常開放装置の表記
    荷重式は基本的に電源を使用しないため、災害時の対応が構造的に備わっていますが、自治体や施設の要求により、非常レバーの記載を求められることもあります。必要に応じて「非常開放レバー付き」と注記します。

比較:電動式自動ドアとの図面上の違い(表形式)

項目電動式自動ドア荷重式自動ドア(Newtonドアなど)
電源供給必要(AC100V or 200V)不要(完全非電源)
センサー記載必要(位置・種類・配線)不要(記載しない)
モーター・制御装置必要不要
非常開放装置任意(別途機構を追加)標準装備(構造的に対応)
設置条件の記載通常の壁/床構造で問題なし床下地/荷重プレートの施工条件に配慮
注記で伝えるべき要素電源位置、センサー範囲など構造の違い、開閉方向の注意、床荷重条件等

荷重式を図面に反映するには、“電動ではないこと”を明示的に伝える表現が何より大切です。現場では「自動ドア=電気が必要」という先入観が根強いため、曖昧な表現は混乱を生む原因になります。


最終チェック:図面で“現場を迷わせない”ために

ここまで、図面の構成、記載すべき情報、構造別の違いをみてきました。では最後に、実務で「伝わる図面」かどうかをチェックするための視点を整理しておきましょう。


要点:図面の目的は「意図を正確に伝えること」

忘れてはならないのは、図面は“芸術作品”ではなく、“施工指示書”であるということです。どれだけ見た目が整っていても、現場が読み取れなければ意味がありません。逆に、手書きでも、注記が明確で読みやすければ、設計の意図は十分に伝わります。


チェックリスト:記号の凡例、寸法の記載、注記の明確さ、読み手への配慮

  1. 記号・凡例はあるか?
     自動ドア特有の記号が入っている場合、それを解説する凡例が図面内または別紙にあるかを確認。
  2. 開閉方向が明確か?
     片引き、両引き、荷重式かなど、開閉パターンが見ただけで分かるようになっているか。
  3. 寸法の記載は具体的か?
     ドア寸法、戸袋寸法、センサー高さ、取付位置など、施工者が判断できる寸法が記載されているか。
  4. 注記で設計意図が伝わっているか?
     特別な構造(荷重式、自動復帰式、電源不要など)の場合、それを補足する注記が入っているか。
  5. 誰に向けた図面かが明確か?
     施工業者用/電気業者用/メーカー確認用など、想定される読み手に応じた情報量・表現になっているか。
  6. 余計な情報で混乱を生んでいないか?
     必要な情報に絞り、読み手が迷わないように配慮されているか。CADならレイヤー分けも有効です。

このチェックリストを最後に確認することで、図面の「伝達品質」は大きく変わります。何度も描き直すより、「伝わる図面」を一発で描くほうが、現場の信頼も高まり、自分の業務もスムーズになります。


【適ドア適所】にそった「まとめ」

本記事では、「自動ドアの図面をどう描けばいいのか?」というテーマを通じて、描き方そのものだけでなく、「誰に、何を、どこまで伝えるか」という視点で実務をサポートする内容をお届けしました。

そして、従来の電動式だけでなく、荷重式(非電源型)という新たな選択肢があること、それに伴って図面の描き方にも変化があることを明確にしました。

自動ドアは「選ぶこと」だけでなく、「伝えること」もまた、設計者の大切な仕事です。
「適ドア適所」――建物の用途、利用者、環境、そして施工現場の視点までを踏まえて、最適なドアと最適な伝え方を選ぶことが、トラブルのない図面と信頼される設計者への第一歩です。

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