自動ドアというと、大型商業施設のガラスのスライドドアを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、実は店舗設計において「ドア」は、単なる出入り口以上の意味を持つ、非常に重要なパーツです。
特に設計の初期段階で「どんなドアを使うのか」をしっかりと考えておかないと、完成後に「こんなはずじゃなかった」と後悔することも少なくありません。
この記事では、店舗設計におけるドア選びのポイントを、「動線」「雰囲気(意匠性)」「コスト」という3つの軸から徹底的に整理します。
さらに、あまり知られていない「電源不要の自動ドア」という選択肢も紹介しながら、店舗に本当に必要なドアとは何かを、設計者目線で一緒に考えていきます。
目次(このページの内容)
自動ドアは「設計」のパーツである
要点: 自動ドアは「建築工事」ではなく「設計判断」の対象。後回しにするほどトラブルになることも多い。
根拠:ドアは後回しにされやすいパーツ
設計打合せの中で、ドアはつい「最後に決める」項目になりがちです。
内装材や照明、什器の位置などが優先され、ドアは「とりあえず入口があればいい」という扱いになってしまうことも。
しかし、実際には以下のような要因で「設計初期」から考えておくべきパーツです。
- 出入口の開閉方式が動線を大きく左右する
- 電源の有無や配線位置が工事スケジュールに影響する
- 自動ドアにする場合は開口幅・高さ・動作方式が建具図に影響する
- 街並みやファサードのデザインに大きく関わる
よくある後悔の声
- 「人の出入りが多くて手動ドアだと回転率が悪くなった」
- 「開閉音が店の雰囲気に合わなかった」
- 「電源の場所を変更できず、希望のドアが設置できなかった」
- 「冬場の冷気が直で入り、空調効率が激落ちした」
こうしたトラブルはすべて、「ドアをもっと早く検討しておけば…」という後悔に集約されます。
設計段階での適切な扱い方とは?
- 店舗設計の初期段階で、「ドアの種類と動作方式」をざっくり仮決定する
- 電源が必要なタイプは、早期に電気設計者と調整する
- 建具図・動線図にドアの開閉方法を反映しておく
このように、ドアを設計全体の「構成パーツ」として捉えることで、完成後に「ドアが原因で設計の自由度が下がった」と感じることが大幅に減ります。
どんな種類の自動ドアがあるのか?【最新分類】
要点: 「自動ドア」と一言でいっても種類は多岐にわたる。選択肢を明確に整理し、電源が不要な方式も含めて理解する。
手動ドアとの違い
まず、混同されやすいのが「手動で開けるがゆっくり閉まるタイプ」など、半自動的な機構のドアです。
ここでは明確に「開ける動作を自ら行う必要がない=完全自動ドア」に分類されるものを中心に取り上げます。
自動ドアの基本分類(動作方式)
| 分類 | 方式 | 概要 |
|---|---|---|
| 電動式(センサー) | モーター駆動+人感センサー | 一般的な商業施設で多く見られるタイプ。開閉がスムーズ。 |
| 電動式(タッチ式) | モーター駆動+押しボタン/非接触スイッチ | 病院・工場などで多い。確実な開閉指示ができる。 |
| 荷重式(電源不要) | ドアに体重をかけると開く | 電気工事不要。災害時の動作・設置場所の制約が少ない。 |
動作形式による分類(開閉のスタイル)
| 分類 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| 引き戸タイプ | 横にスライドして開閉 | 動線がスムーズ。ガラスファサードと相性良。 |
| 開き戸タイプ | 内外に開閉する | 小規模店舗やレトロな雰囲気と相性良。 |
| スイング・回転式 | ドアが回転するように開閉 | 高級ホテルや銀行の出入口などに多い |
注目:電源不要の荷重式自動ドアとは?
「荷重式自動ドア」は、ドアの足元に内蔵された機構が人の体重を感知して動作する、極めてシンプルで機械的な仕組みのドアです。
メリットは以下の通りです:
- 電気配線が一切不要(施工が簡易)
- 停電時でも動作可能
- 雨風にも強く、外気を遮断しやすい
- 店舗改装・仮設店舗などにも最適
この方式を採用した製品のひとつが、「Newtonドア」と呼ばれる国産製品で、バリアフリーや省エネ設計の現場でも注目されています。
ドア選びに迷わないための第一歩
ここで紹介した分類を把握するだけでも、「自動ドアの選択肢はセンサー式だけじゃない」と気づけるはずです。
店舗の目的や客層、設計思想にあわせて最適な方式を選ぶための基礎知識として、この分類を活用してください。
設計段階で迷わない「適材適所」の考え方
要点: ドア選定には「動線・雰囲気・コスト」という3軸があり、設計段階での全体最適が求められる。
1. 来客動線を最優先に
店舗における来客動線は、集客力や滞在時間、回転率に大きな影響を与えます。
ドアの開閉方法が来客の行動に直結する例としては以下のようなものがあります:
- 手動ドアの場合、両手が塞がっていると開けにくく、入店率が下がる
- 自動ドアがあると「開けてもらえる安心感」から、入りやすさが増す
- 開閉の遅いドアは、回転率が重要な飲食店などではデメリットになることも
2. 厨房・スタッフ動線の分離
スタッフ用の出入口においては、以下のような要素を考慮する必要があります:
- 両手が塞がることが多いため、タッチ式・荷重式などの操作不要型が有効
- スイング式や小型引き戸など、省スペース型の自動ドアが適するケースも
- 厨房から見える位置のドアは、衛生面や遮音性の配慮が必要
3. 店の雰囲気と「入口の印象」
意匠的観点から見ると、入口のドアは店舗全体の「顔」です。
ドアの種類・動き方・材質・音などが、次のような印象形成に影響します:
- ガラス引戸:清潔感と透明性、入りやすさ
- 木製開き戸:クラフト感や温かみ
- 無音の開閉:静かで高級な印象
- ウィーン…と動く自動ドア音:懐かしさや安心感
特にデザイナーとの協業では、「デザイン優先」になりがちですが、そこに「自動ドアとして成立するか?」という設計視点を入れることが重要です。
4. 電源・コスト・管理面からの視点
最後に見落とされがちなポイントが、実務的な制約条件です。
- 電源の引き込みが困難(既設物件など)
- 自動ドアの価格が想定外だった
- 維持費・保守のコスト感
- 故障時の対応スピード
特に「開業後に止まると困る」業態では、シンプル構造のドア(例:荷重式)の選定が長期的なメリットを生むこともあります。
【比較表】タイプ別のメリット・デメリット一覧
要点: 各タイプの自動ドアの特徴を「動線・雰囲気・コスト・施工性」の観点から比較し、選定の判断材料を明確化。
比較表:店舗設計における自動ドアの適材適所(代表例)
| ドアタイプ | 主な特徴 | 向いている店舗・状況 | メリット | デメリット |
|---|---|---|---|---|
| 電動式(センサー) | センサーで自動開閉 | 大型商業施設・薬局・病院 | スムーズな開閉、清潔、非接触、開放感 | 電源必須、工事コスト高、誤作動リスク |
| 電動式(タッチ式) | スイッチで開閉制御 | 飲食店・厨房・オフィス | 意図的な開閉が可能、安全性高、誤作動少ない | 操作の手間、スイッチの設置場所に工夫が必要 |
| 荷重式(非電動) | 踏み込みで開閉(電気不要) | 小規模店舗・仮設店舗・改装現場 | 電源不要、災害時も動作、施工容易、メンテ簡易 | 動きに慣れが必要、デザイン性に制限、広い設置面が必要 |
| 手動ドア | 開閉を自分で行う | コスト優先の店舗・小規模物件 | 初期コストが安い、壊れにくい、デザインの自由度が高い | 両手が塞がると不便、回転率低下、老朽化時の音や重さが課題 |
判断のポイント:何を最優先にするか?
- 動線重視:自動化(センサー or 荷重式)
- 意匠重視:手動 or 開き戸タイプで素材と統一
- コスト重視:手動または荷重式
- 電源が取れない:荷重式一択
- 来客層に高齢者・子どもが多い:非接触型優位
判断ミスのパターン
- 「とりあえず自動ドアにしておけば安心」→用途に合わず、使いにくさが残る
- 「費用を抑えたくて手動にしたが、集客に影響」→来客導線を軽視
- 「かっこよくガラス扉にしたが、夏場暑すぎて閉めっぱなし」→環境設計との不整合
実際にはどんな現場に使われている?
要点: 自動ドアの使い方は業種ごとに異なる。代表的な店舗タイプ別に、設置事例と選定理由を紹介。
飲食店:来客動線と厨房動線の両立が鍵
- 表玄関(お客様用):センサー式 or 荷重式が多い
→ 高頻度の出入りに対応、非接触で清潔感を演出 - 厨房→ホールの出入口:荷重式 or タッチ式
→ 両手が塞がった状態でもスムーズに開閉可能
導入例:
- 小型カフェ:電源が取れず荷重式を採用→店内デザインとも調和
- ラーメン店:開けっ放しを避けたい→タッチ式で開閉コントロール
物販店:通行量と防犯のバランス
- センサー式が基本だが、タッチ式で開閉を制御する店も増加
- 貴金属・時計店などは「開閉が制御できる」タッチ式 or 開き戸を好む
導入例:
- 小規模雑貨店:入口を自動化しつつ、省エネ目的で荷重式を導入
- セレクトショップ:店内演出と統一するため、開閉音の静かな方式を採用
医療・福祉施設:バリアフリーと非接触性が重視
- センサー式が圧倒的に多い
- ただし、非常用として荷重式を併設するケースも
導入例:
- 地域クリニック:メインはセンサー式、裏口に電源不要の荷重式を導入(災害対応)
- デイサービス施設:利用者の動線に合わせた引戸タイプで安全性を確保
仮設・短期利用施設:電源不要が最適解
- イベントスペース、仮設店舗、屋外施設では「荷重式」が主流
- 工事不要・短期設置が可能なため、柔軟な運用に対応できる
設計者・施主が押さえておくべき「後悔しない判断基準」
要点: ドア選びの成否は、設計のごく初期で決まる。判断基準を持って選定に臨むことが重要。
なぜ「ドアは最後に選びがち」なのか?
- 建築図面上では「ただの出入口」に見える
- デザイン・インテリアに比べて目立ちにくい
- 開口部寸法が決まっていれば「何とかなる」と思いがち
しかしこの考え方は、設計の自由度を大きく狭めてしまいます。
ドアは建築・電気・内装すべてにまたがる「調整の核」であり、最初に押さえるほど設計全体がスムーズになります。
設計とドアは「別物」ではなく「一体」
特に以下のような状況では、早期検討が必要です:
- 居抜き物件で既存ドアを流用したい
- **法令対応(バリアフリー等)**が求められる
- 電源工事の制限がある
- 開放感と断熱性を両立させたい
判断基準を持つということ
選定の際には、以下のような軸で検討しましょう:
| 視点 | 質問例 |
|---|---|
| 動線 | このドアは誰がどんな頻度で通るのか? |
| 意匠性 | 店舗の雰囲気に合っているか?主張しすぎていないか? |
| コスト | 本体+工事費だけでなく、維持費・保守費も含めて妥当か? |
| 電源 | 電源は取れるか?無電源でも成立するドアか? |
| 非常時 | 停電・災害時に機能するか? |
特に荷重式自動ドアのような電源不要型は、設計の柔軟性を大きく広げてくれます。
それを知らずに「自動ドア=電源が必要」と思い込んでいると、本来得られたはずの利便性や設計自由度を失ってしまいます。
【適ドア適所】にそった「まとめ」
- ドア選びは設計初期から行うべき重要判断
- 「動線・意匠・コスト・電源」という軸で選定基準を整理する
- 自動ドアには多くの種類があり、荷重式のような電源不要タイプも存在する
- 用途に応じた適材適所のドアを選ぶことが、完成後の使い勝手と満足度を大きく左右する