店舗の設計といえば、什器の配置や客導線、バックヤードの広さなどに意識が向きがちですが、「入口の設計」がもたらす影響は意外と大きいのです。とくに限られたスペースで設計をする際には、入口の方式や開閉の仕組みが、店全体の快適性や安全性に大きく関わってきます。
この記事では、そんな**“見落とされがちな入口スペースの最適化”**について、設計段階からの考え方や判断軸を丁寧に解説していきます。
目次(このページの内容)
なぜ「店舗入口の設計」が見落とされやすいのか?
答え: 入口は「人が通るだけの場所」として、スペース設計の中心から外れがちだからです。
背景:
多くの設計プランでは、入口まわりは「必要最低限」で済ませることが前提になっています。ところが、入口は実際には来店の第一印象や人の流れを決定づける重要ポイントでもあります。
「スムーズに入れるか?」「中が見えるか?」「安心して通れるか?」といった要素が、来店数や滞在時間に無意識に影響してくるのです。
また、限られたスペースで設計する際には、入口の開閉方式によっては余分な可動域を取られてしまうことがあります。これが結果的に「中の面積を削る」ことにもつながるため、本来は最初から意識的に設計に取り込むべきパートです。
省スペースを叶えるために、入口で見直すべき4つのポイント
答え: 開閉方式/可動域/安全性/動線への影響、この4点を整理することが最適化の鍵です。
手順:
- 開閉方式の選定
- 一般的な選択肢には、開き戸(内開き・外開き)、引き戸、自動ドア(電動・非電動)があります。
- 開閉に必要な可動域
- 開き戸は開閉に約60~90cmのスペースを必要とし、狭小空間では動線の邪魔になることも。
- 開閉時の安全性
- 高齢者や子どもが通る店舗では、扉の戻り動作による衝突リスクも考慮が必要です。
- 人の流れへの影響
- 一方通行か、双方向か。待機列ができる店舗かなど、動線設計との整合性も入口方式で左右されます。
「入口方式」でこれだけ変わる?スペース効率の比較
答え: 同じ面積でも入口方式の違いだけで“使える面積”が数%変わることがあります。
| 方式 | 開閉スペース | 導線相性 | 設置コスト | 運用コスト | 停電時対応 | 安全性 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 開き戸 | 大 | △ | ◎ | ◎ | ◎ | △ |
| 引き戸 | 中 | ○ | ○ | ◎ | ◎ | ○ |
| 電動自動ドア | 中 | ◎ | △ | △ | × | ◎ |
| 荷重式自動ドア | 小(最小) | ◎ | ○ | ◎(電気不要) | ◎(電気不要) | ◎(JIS基準準拠) |
ポイント:
- 電動式自動ドアは便利だが、停電時に開閉できないリスクがある。
- 開き戸はもっとも安価だが、スペース効率と安全性の面で劣る。
- 荷重式自動ドアは、電気が不要で省スペース、かつ安全基準もクリアしているという点で、特に狭小空間には理想的な選択肢です。
入口スペースの最適解を決める「判断基準」とは?
答え: 「空間効率」×「安全性」×「設計バランス」の3軸で考えることです。
思考軸:
- 用途別(来店頻度・滞在時間):テイクアウト店、物販、サロンなどで必要な動線や導線のスムーズさは異なります。
- 安全性ニーズ:子どもや高齢者の通行頻度が高い場合は、安全性重視の設計が必要です。
- 店舗全体との整合性:扉の種類が浮いて見えないか、デザインとの親和性も大切な要素です。
注意点:
「省スペースだから必ず引き戸にしよう」という短絡的な判断ではなく、あくまで店舗の性格と来店者の行動を踏まえた選択が最重要となります。
選択肢に入っていないのはもったいない?「荷重式自動ドア」という選択肢
答え: 電気不要で動く、空間効率が高い、かつ高い安全性を実現する自動ドアです。
根拠:
- 人の重みを検知して自動で開く「荷重式自動ドア」は、開閉のための電源が不要
- 閉じるときに「ゆっくり戻る」機構がついており、安全性が高い
- JIS規格に準拠しているものもあり、保育園や介護施設でも使用実績がある
活用例:
- カウンター受渡型のテイクアウト店(通行頻度は高いが設置スペースは限られる)
- 美容室や小規模サロン(開閉音を抑え、静かな環境を保ちたい)
- 古民家を改装したカフェ(電気工事が難しい建物でも設置可能)
【適ドア適所】で考える、省スペースな店舗設計のまとめ
店舗設計における「入口部分」は、スペース設計のなかで意外と後回しにされがちです。
しかし、入口は「第一印象」「導線」「安全性」など、多くの要素を左右する重要なパーツ。
限られた面積のなかで最大限の効果を出すには、入口の方式選びも“適材適所”の考え方が重要です。
どんな方式も万能ではなく、業種や立地、来客の性質によってベストな選択は異なります。
だからこそ、設計段階から入口の設計も含めた全体最適化を意識することで、使いやすく快適な空間をつくることができます。