自動ドアの図面を描く場面になると、平面図や仕様書と違って、意外と難しいのが「断面図」です。外からは見えない部分だからこそ、構造や納まり、安全装置の位置などを的確に示す必要があり、建築図面や施工図に落とし込む際には、単なる形状の写しではなく「設計意図」を伝える道具としての役割を果たします。
まず、断面図の基本的な役割を押さえておきましょう。断面図は、製品カタログにあるような概略図ではなく、「この場所に、この機種を、この建物のこの位置に設置したとき、どう納まるのか」を明示するための図です。たとえば、上部の駆動ユニットが天井裏にどう収まるか、下部のガイドレールは床仕上げに対してどの高さになるか、センサーが動線上のどこにあるべきかなど、実務上必要な情報を伝えるためのものです。
次に、断面図に含めるべき基本構成を見ていきましょう。もっとも重要なのは「扉本体」「上部機構」「下部機構」「建築との取り合い」「センサー類」「配線経路」の6つの要素です。
扉本体は、ガラスの厚み、アルミ枠の形状、戸当たり部などを含みます。これは当然ながら、見た目や機能だけでなく、安全性や建築との接続性にも影響します。特に、ガラス扉では飛散防止フィルムの有無や、枠材との接着構造も描写に含めるとより正確です。
上部機構には、モーター、レール、吊り金具、制御ボックスなどが含まれます。ここでは、駆動部の寸法が非常に重要です。たとえば、天井裏に梁が通っていたり、空調設備が走っていたりする場合、それと干渉しない位置にモーターが納まるかを事前に確認しなければなりません。断面図上では、梁や天井下地の位置も描き、モーターとの距離感を明示することが必要です。
下部機構には、ガイドレール、フロアガイド、床との段差、戸当たりなどが含まれます。とくに近年はバリアフリー設計の観点から「下レールなし構造」や「フラット納まり」が求められるケースもあり、扉の安定性と床仕上げの整合性のバランスがポイントになります。
建築との取り合いでは、躯体壁、天井材、床仕上げなどの寸法や仕上げ材を断面図に記載します。ここを曖昧にすると、施工現場で「どこに取付けるの?」「ビスが効かない」などのトラブルにつながるため、コンクリート、軽鉄、木下地などの区別と取付方法を注記しておくと親切です。
センサーや安全装置の位置も忘れてはいけません。たとえば、センサーが扉の正面に出ているタイプの場合は、その出っ張りが躯体や天井と干渉しないか、またセンサーの死角が生まれないかを断面図で確認します。引き込み防止センサーは、特に壁際や戸袋部において重要で、扉が開いたときに人が挟まれないように、視野角や設置高さも図示しておく必要があります。
配線経路もまた、断面図で重要な要素です。天井裏から制御盤へのルート、センサーやスイッチへの分岐配線など、電気設計との整合を取るために、主たる経路だけでも線種を変えて表現するとよいでしょう。
このように、自動ドアの断面図とは、単にドアの形を描く図ではありません。それは、「建築」と「機械」をつなぐインターフェースであり、設計者と施工者が共通認識をもって工事を進めるための“言語”です。
だからこそ、描く際には単なるテンプレートに頼らず、「この建物に、なぜこの構造なのか?」という背景まで読み取れる断面図にすることが求められます。そして、そうした視点があればこそ、仕上がりの品質も、使う人の安全も確保されるのです。
ここまでの内容で「断面図の基本構成と役割」がクリアになった方は、次に進んで、描き方の手順や設計上の注意点をしっかり確認しておきましょう。次の章では、「断面図で絶対に外してはいけない設計ポイント」を具体的に解説していきます。
断面図に必要な基本構成を理解したら、次に意識すべきは「絶対に外してはいけない設計ポイント」です。特に実務でよくあるトラブルや見落としポイントを先回りしておくことが、図面の信頼性や現場でのスムーズな施工につながります。ここでは、建築・設備・自動ドアの三者がぶつかりやすいポイントを中心に解説します。
まず最も重要なのが、躯体との干渉チェックです。自動ドアの断面図にモーターやセンサーの位置を書き込んだとしても、現場で梁やダクトと干渉していたら、取り付けは不可能になります。特にRC造で梁下にモーターを収める場合、梁の張り出しと干渉するケースは非常に多く、断面図上で梁と天井下地のレベルを正確に示すことで回避できます。
また、天井点検口との関係も重要です。制御盤やメンテナンススペースの真上に点検口がなければ、故障時の対応ができず、大掛かりな天井開口が必要になることも。断面図には点検口の位置もあわせて示しておくと、電気設計・内装設計との調整がスムーズになります。
次に、メンテナンススペースの確保です。断面図は見た目の納まりだけでなく、将来的な保守点検を見据えた設計であるべきです。たとえば、駆動ユニットや電源装置がビルトインされたケースでは、ユニットの脱着やケーブル交換ができるクリアランスを残す必要があります。これは寸法だけでなく、「何をどう外すのか」まで想像して、図面上に表現することが求められます。
そして、安全装置の反映も不可欠です。近年ではJIS A 4722(自動ドア装置の安全要求事項)に基づき、利用者の動線に応じたセンサー配置が求められます。たとえば引き込み防止センサーは、扉の動作中に人が急接近しても反応するよう、壁面との距離や扉の開口幅を考慮した設置が求められます。これを断面図上に反映する際は、単にセンサーの箱を描くだけでなく、感知エリアを破線などで表し、どの範囲をカバーしているかを明示しましょう。
また、クリアランス(すき間)の設計も重要です。扉と枠の間、扉と床の間には、一定の隙間を設けなければ、擦れ・異音・不具合の原因になります。とくにバリアフリー対応の「段差ゼロ設計」では、すき間と扉の動作がトレードオフになるため、1〜2mm単位の調整が必要です。このすき間を図面上でどう描くか、また注記でどう説明するかが設計者の力量に問われるポイントです。
それから、レールの固定方法と下地の対応も断面図に含めるべき情報です。上部レールを軽鉄に固定する場合と、RCに直にアンカー打ちする場合では、納まりも施工方法も異なります。とくにALCやGL工法の壁の場合、ビスが効かないなどの問題が出るため、図面上に「要補強」「インサート位置」などの指示を入れることで、施工者との齟齬を防げます。
また、扉の戸袋納まりに関しても注意が必要です。特に片引きや引分け式の自動ドアで、扉が壁内に引き込まれるタイプでは、壁の厚み、間柱の位置、断熱材の干渉などが断面上に影響します。こうした納まりを図面に正確に表現することで、後施工の修正を防ぎます。
さらに、意外と見落とされるのが床仕上げとの関係です。特に下ガイドレールを床埋め込みにする場合、床の仕上げ厚(タイル、長尺シート、カーペット)によって納まりが変わります。これを断面図に反映せずに設計すると、施工時に段差が生じたり、レールの埋設深さが合わず打設やり直しになるリスクがあります。
最後に、注記と寸法の整備についても述べておきましょう。せっかく断面図を描いても、寸法が記載されていなければ使い物になりません。重要なのは、どの寸法が絶対値なのか、どれが可変なのかを明確にすること。たとえば「モーター天端から天井まで 50mm(最小)」のように、条件付きの寸法や調整範囲も図面内に注記しておくと、現場での判断が格段にスムーズになります。
以上のように、断面図で外してはいけない設計ポイントは、単なる見た目や機能ではなく、「現場で施工できるか」「安全に使えるか」「メンテナンスしやすいか」という実務視点で構成されています。図面を描く前に、これらのポイントを一つずつチェックリストとして整理し、設計意図と納まりの整合性を確かめておくことが、高品質な図面への第一歩となるでしょう。
次章では、これらを踏まえた「断面図を描くための具体的な手順と考え方」を解説します。
断面図の構成や重要ポイントを把握したところで、ここからは実際に「どうやって断面図を描くか」という具体的な手順と、その際に持つべき考え方について整理していきましょう。断面図は、単に部材を積み上げて描けば良いものではありません。設計意図を正確に伝える“建築の言語”として、描き手が意図をもって構成する必要があります。
まず最初のステップは、「断面線の位置を決める」ことです。これは多くの設計者が見落としがちですが、実は図面全体の情報の質を左右する重要な判断です。たとえば、片引きドアであれば、開閉方向に沿った縦断面が基本になりますが、モーターの納まりや壁との取り合いを表現するには、吊り元付近を切る必要があります。逆に、扉そのものの断面を描きたいなら、中央部を切るほうが適しているかもしれません。この「何を見せたいか」を意識して断面線を選ぶことが、良い図面の出発点になります。
次に、「縮尺を設定する」段階に移ります。自動ドアの断面図は、通常1/5〜1/10程度の詳細縮尺で描かれます。細かい寸法が密集するため、縮尺を小さくしすぎると、重要な納まりや寸法が読めなくなります。CADで描く場合でも、縮尺を意識しながら、後で印刷したときに必要な寸法が読めるようにすることが大切です。特にセンサーや吊り金具のような細部は、ハッチングや部分拡大図で補足する場合もあります。
続いて、「パーツ構成を分解して積み上げる」作業に入ります。ここで注意すべきは、実物の施工手順に近い順番で構成を描くということです。つまり、上から順に「天井材 → モーターカバー → レール → 吊り金具 → 扉本体 → 下部ガイド → 床仕上げ → 躯体」というように、積層構造として考えると自然で、後工程との干渉リスクも可視化しやすくなります。この「描く順番」そのものが設計者の思考を表すことにもなります。
次に、「寸法と注記を加える」段階です。ここでは、ただ数値を並べるのではなく、「現場で施工判断に使える寸法」を意識して入れることがポイントです。たとえば、モーターの上端から天井までの余裕寸法、扉と枠のクリアランス、床からガイドレールまでの高さなどは、実務的な意味を持つ寸法です。逆に、部材の厚みや製品仕様に含まれる寸法は、必要に応じて記載するにとどめ、図面がごちゃごちゃしないよう整理することも大切です。
ここで補足しておきたいのが、「図面の階層性」です。1枚の断面図にすべての情報を詰め込むのではなく、「基本断面図」「詳細断面図」「納まり図」など、図面を階層的に構成し、伝えたい内容を絞っていくことで、閲覧者の理解を助けることができます。たとえば、基本断面図ではレールや扉の位置を示し、詳細断面図では吊り金具やセンサー位置まで細かく描くといった使い分けです。
また、CADで描く際には、「線種の使い分け」が非常に重要です。見える線は実線、隠れた部材は破線、中心線は一点鎖線など、図面の読み手が直感的に理解できるよう配慮しましょう。さらに、配線経路やセンサーの感知範囲などは点線やハッチングで示すことで、設計意図がより明確になります。図面上での表現は“言語”と同じで、伝わらなければ意味がありません。
最後に、「描いた断面図を第三者目線で見直す」ことが非常に大切です。これは自分の描いた図を「初めて見る施工者」や「確認する上司」の立場で見直してみるというプロセスです。情報が足りているか、意味が曖昧な記号はないか、注記は適切かといった観点から見直すことで、図面の完成度は大きく高まります。
断面図は、単なる“技術資料”ではありません。それは「現場との約束」であり、施工者や職人との意思疎通の橋渡しです。だからこそ、「これを見れば迷わず施工できる」「見た人が納得して動ける」図面を目指すことが、設計者としての役割でもあります。
断面図の描き方が整理できたところで、次に取り上げるべきは「安全装置」と「JIS規格」との関係です。自動ドアは人の動きと密接に関わる機械装置であり、構造上・運用上の安全性が強く求められます。断面図にも、そうした「安全を担保する要素」を正確に反映する必要があるのです。
まず、日本の自動ドアにおいて基準となるのが、「JIS A 4722:自動ドア装置の安全要求事項」です。これは、自動ドアに関わる設計者・製造者・施工者が最低限守るべき基準を定めたもので、主に以下の3点が重要です。
1つ目は、「危険領域の把握と制御」です。開閉動作により発生する“挟まれ”や“引き込み”などの危険を、あらかじめ設計段階で特定し、必要なセンサーやガード部材を用いて予防することが求められます。断面図では、こうしたセンサー類の位置を的確に示すことが不可欠です。例えば、開口部上部に設置される人感センサーは、その視野範囲(検知エリア)を破線で表すことで、どこまでカバーしているかを読み手に伝えることができます。
2つ目は、「利用者への視認性の確保」です。自動ドアに近づいた人が、「これはドアである」「どちらに開くか」が直感的にわかるようにすること。これは“構造”と“デザイン”の融合領域とも言えます。断面図では、ドア表面の仕上げ(ガラス/不透明材)、視認帯(赤帯等の目印)、下部の誘導マットなどを記載することで、視覚的安全設計の意図が伝わります。
3つ目が、「メンテナンス性と停止機能の確保」です。万が一のトラブル時に、手動で開閉が可能であること、非常停止装置の存在が明記されていることが、JISに求められています。断面図では、制御盤や非常開閉機構の位置、点検カバーの可動範囲を示しておくことで、実務上の安全にも寄与します。
これらの要素を断面図に反映するには、ただ機械のパーツを並べるだけでなく、「なぜそこにその装置があるのか」という背景を知ることが必要です。たとえば、センサーの高さはなぜ1,900mmなのか? それは子どもや車椅子使用者も検知できるようにするためです。視認帯はなぜ床から1,500mmの位置に貼るのか? それは平均的な視線の高さに合わせているからです。こうした「設計の根拠」を図面と注記で伝えることが、安全意識の高い設計として評価されるのです。
また、断面図に反映すべき装置には以下のようなものがあります。
- 人感センサー(開扉用):扉前方に設置、視野角と高さを記載
- 引き込み防止センサー:扉と壁の隙間に設置、死角をカバーするエリアを明示
- 挟まれ防止ゴム:扉エッジ部に装着、断面図ではゴム部の形状と反応機能を記述
- 非常開閉装置(手動操作):通常は上部機構内、点検時の操作性を図示
- 制御盤・安全リレー:点検カバーとの取り合い、配線ルートとあわせて明示
さらに、誘導方向の設計にも注目すべきです。自動ドアは、ただ開閉するだけでなく、「人をどう誘導するか」まで設計対象に含まれます。特に駅や病院、役所などでは、利用者の流れを意識した開閉方向の設定が必要であり、その表示や誘導材が図面に含まれることが望まれます。
Newtonドアのような「荷重式自動ドア」では、電気式センサーが存在しない場合もありますが、JISの視点を取り入れた設計は同様に必要です。扉の動作原理が異なる分、構造的な安全確保(例えば戸当たりやストッパーの設計、扉幅と可動域の関係性)に重点が置かれます。断面図では、そうした「機械がないからこそ必要な物理的安全設計」を強調するのがポイントです。
まとめると、断面図は製品カタログの図とはまったく異なる、設計者の責任が詰まった図面です。JIS規格という客観的な基準に基づき、利用者の安全、施工のしやすさ、メンテナンスの配慮まで含んだ「使う人・作る人・守る人」の視点を統合することで、本当に意味のある断面図が完成します。
次の章では、こうした構造や安全装置の違いが最も顕著に現れる「荷重式自動ドア(Newtonドア)」の断面構造に焦点を当て、従来の電動式との違いや設計上のポイントを比較形式で解説していきます。
自動ドアと聞くと、多くの方が「電気式でモーター駆動の引き戸」を思い浮かべるでしょう。しかし、近年注目されている「荷重式自動ドア(Newtonドア)」は、その構造・動作原理が根本的に異なります。そして、それは断面図にもはっきりと反映される違いです。この章では、Newtonドアの断面構造が電動式とどう異なるのかを、構造的な比較を交えて解説します。
まず、最も大きな違いは「モーターがないこと」です。Newtonドアは、電源を使わず、人の荷重を利用して開閉する構造です。つまり、上部にモーター、駆動ユニット、制御盤、電源ボックスといった装置が一切存在しません。これにより、上部機構の納まりが非常にシンプルになり、断面図においても「吊元の軸受け」「上部ガイド」「戸当たり」程度の構成要素のみで済みます。
この違いを明確に示すには、電動式とNewtonドアの断面構造を対比で見るのが効果的です。以下に、構造要素ごとの比較表を示します。
| 要素 | 電動式自動ドア | 荷重式自動ドア(Newtonドア) |
|---|---|---|
| 駆動方式 | 電動モーター | 人の荷重による自重スライド |
| 電源・配線 | 必要(100V/200V) | 不要 |
| 上部機構 | モーター、ベルト駆動、制御盤 | 軸受け+上部ガイドのみ |
| 下部機構 | ガイドレール、フロアセンサー | 下部ガイドピン+床面プレート |
| センサー・安全装置 | 各種検知センサーを設置 | 不要(構造自体に安全性) |
| メンテナンス | 定期点検・部品交換あり | ほぼ不要(可動部が極めて少ない) |
| 寸法的特徴 | 上部高さ:150〜200mm以上 | 上部高さ:約30mm前後でOK |
| 適応空間 | 商業施設、公共空間 | 福祉施設、集合住宅、避難経路等 |
この表からも分かる通り、Newtonドアは断面構造が非常にスリムで、設備的な自由度が高くなります。たとえば、天井裏のクリアランスが確保できない場合や、電源が引けない場所、メンテナンスが難しい公共住宅などにおいては、荷重式の断面構成が圧倒的に有利となるのです。
断面図に反映する際の注意点としては、電動式では必ず必要だった「モーターと天井の干渉チェック」「配線ルートの確保」といった項目が不要になる一方で、Newtonドア独自の要素である「下部の床プレート納まり」や「軸受けの取り付け方法」が新たに登場します。
特に下部構造は、Newtonドアにおいて安定性と滑らかな開閉動作を実現するための要となる部分です。断面図では、床仕上げ材とのレベル差、固定ビスの位置、滑り材(例:テフロンシート等)の配置などを正確に記載する必要があります。また、床材との取り合いが多様になるため、床がフラットな長尺シートか、目地のあるタイルかによって納まりを変える場合もあり、断面図上での注記が重要になります。
もう一点、Newtonドアの特徴として「常時開放状態から自重で自動復帰する」という動作特性があります。これは、災害時の避難経路や通風確保の観点で非常に有利ですが、断面図上ではこの「可動範囲」や「復帰位置」も明示しておくことが求められます。引き込みスペースや戸袋のサイズも、開閉動作に応じた寸法で設計しておく必要があります。
また、Newtonドアは安全装置の一部を「構造そのもの」で担保しているという点も見逃せません。例えば、開閉速度が人の動きに同期するため急激な開閉が起こらず、物理的な挟まれ事故のリスクが非常に低いという特性があります。断面図では、こうした設計思想を反映するために、機械部品の代わりに「扉の可動原理」を説明する注記を添えることも有効です。
このように、Newtonドアは単に「電源がいらない」という機能面の利点にとどまらず、断面構造としても非常にシンプルで美しく、納まり設計の自由度を大きく広げてくれる選択肢です。設計者としてこの構造を正しく理解し、断面図に正確に表現することで、より高品質な建築納まりを実現することができるでしょう。
ここまで、自動ドアの断面図について、構成要素、描き方、安全装置との関係、さらには荷重式自動ドア(Newtonドア)との比較までを順に確認してきました。最後に改めて、本記事の核心である「適ドア適所」という視点から、自動ドアの断面設計をどう考えるべきかをまとめておきます。
自動ドアの断面図は、建築と機械の境界をつなぐ“翻訳図”のような存在です。ただ製品を配置するだけではなく、その空間における安全性、納まり、機能性、そして使う人の動きや暮らし方までもを視覚化するものです。そしてその構造がどうあるべきかは、「どんな空間に、どんな目的で、どんな人が使うのか」によって決まる——これが【適ドア適所】の考え方です。
たとえば、大型ショッピングモールのメインエントランスであれば、電動式自動ドアが妥当です。高頻度で開閉され、両手がふさがった来客や車椅子利用者にも即座に対応する必要があります。断面図では、上部の駆動ユニットの設置余地、センサーの死角がない配置、天井内の電源ルートなど、稼働性と信頼性に重きを置いた設計が求められます。
一方、特別養護老人ホームや集合住宅の共用部など、静かで省エネ性が求められる空間では、電動式よりも荷重式(Newtonドア)が適しています。利用者が自分のタイミングで自然に開閉できる荷重式は、シンプルな構造であるがゆえに「壊れにくい」「安全に閉じる」「停電にも強い」といった多くのメリットを持ちます。断面図においては、電源やモーターが不要な分、構造的な納まりをより詳細に描写し、「どうやって動くのか」「どこが支点で、どこに荷重がかかるのか」といった力の流れを表現することが大切になります。
このように、断面図は「何の製品を使うか」だけでなく、「どんな目的の空間か」を見極め、その設計意図に合った“自動ドアの使い分け”を表現する手段でもあります。たとえ同じ場所に自動ドアを設置する場合でも、利用者層や使い方、建築仕様が違えば、最適なドアの種類や納まりも異なるのです。
設計者にとっての理想は、「断面図が語ってくれる」状態です。たとえば、断面図を見た施工者が「これは天井裏の配線ルートも想定されているな」「この高さなら、点検口から手が入るな」と自然に理解できる。あるいは、保守点検に来たスタッフが「この構造ならユニット交換が5分で済む」と即座に判断できる。そんな“語る図面”こそが、建築実務の中で本当に信頼される図面なのです。
また、断面図にそのまま描かれていなくても、「ここにNewtonドアを使うべきでは?」と提案できる設計者は、建築の構造と使い方の本質を理解している証拠です。適ドア適所という発想は、単なる知識ではなく、建築に対する“哲学”でもあります。
図面一枚で「構造を見せる」「意図を伝える」「使い方を説明する」ことができるようになれば、あなたの設計はより強く、より深く、現場や利用者の信頼を得ることができるはずです。
それが、自動ドアの断面図を描くことの真の価値であり、【適ドア適所】を体現するということなのです。