自動ドアや内装の設計と聞くと、多くの方は「電動設備や専門業者による作業」と思い浮かべるかもしれません。しかし実際には、意匠設計や設備設計、動線計画、施工監理など多岐にわたる工程が絡んでおり、これらを部分的でも「社内で担う」動きが増えてきています。
本記事では、「店舗設計担当を社内で採用すべきか?」という疑問に、メリット・デメリット、判断軸、他社事例など多角的に答えます。現場に強く、長期的にコストメリットも見込める「設計力の内製化」が、本当に自社にフィットするのか。その検討に、確かな材料を提供することが目的です。
目次(このページの内容)
店舗設計を社内で担うべきか?まず考えるべき3つの視点
**要点:**設計担当の社内採用は「業務の安定化」「コスト最適化」「ブランディング一貫性」に寄与しますが、全ての企業に適しているとは限りません。以下3つの視点で検討することが重要です。
視点1:出店・改装の頻度とスピード
出店が年間で複数回ある、あるいは定期的に改装プロジェクトが走る企業では、外注依存ではスピード感が出にくく、設計仕様の一貫性も崩れがちです。社内に設計担当がいることで、PDCAが高速化し、空間の質も安定します。
視点2:コスト管理とVE(バリューエンジニアリング)
外注設計では、図面通りの実行に注力されがちで、「予算にあわせた調整提案」は後回しになりがちです。社内の設計担当者なら、事業部や経理と直接連携しながら、適切なコスト調整と妥協点を探ることができます。
視点3:ブランドや世界観の反映力
設計者がブランドの理解者であるかどうかは、空間の完成度に大きな差を生みます。社内に担当者がいることで、ブランドの世界観や顧客体験の軸が空間設計にも浸透しやすくなります。
店舗設計の採用で、よくある3つの誤解
**要点:**多くの企業が「設計職採用」に際して誤解しやすいポイントは次の3つです。
誤解1:「CADが使える=即戦力」
CAD操作はあくまで図面化の手段です。現場との調整やVE提案、法規対応など、店舗設計に求められるスキルはもっと多岐にわたります。CADだけで評価するのは危険です。
誤解2:「建築士資格があれば安心」
確かに二級建築士・一級建築士は基礎能力の証明にはなりますが、実務経験が少なければ現場対応力には限界があります。特に商業施設や狭小店舗、複数拠点のスピード開発には慣れが必要です。
誤解3:「内製化すれば外注費が減ってコストダウンになる」
長期的には正しいこともありますが、設計者を採用・教育し、社内で業務フローを確立するには相応の時間とリソースが必要です。即効性のあるコストダウン策ではありません。
設計人材に任せられる範囲はどこまで?役割と限界を明確に
**要点:**店舗設計担当の役割を曖昧にすると、入社後のミスマッチや現場混乱の原因になります。採用前に「どこまで社内でやり、どこからを外注とするか」を明確にしておくことが重要です。
任せられる業務範囲のレイヤー分解
| 業務レイヤー | 社内で担う | 外注が適切 |
|---|---|---|
| 空間コンセプトの策定 | ◯(ブランド理解が重要) | △(デザイン事務所と連携可) |
| レイアウト・ゾーニング | ◯ | ◯(複雑な施設の場合) |
| 意匠設計(内装デザイン) | ◯ | ◯(高難度・高意匠時) |
| 実施設計(施工図作成) | △ | ◯(建築士が必要) |
| 建築確認・申請書類対応 | × | ◯(建築士必須) |
| 工程管理・施工監理 | △ | ◯(現場管理者が必要) |
| コスト調整(VE提案) | ◯ | △(見積提出ベースでは難しい) |
| 多店舗展開時の仕様共通化設計 | ◯ | △(外注は案件ごとに変化しがち) |
社内担当者は「判断軸を持ち、意思決定に寄与する人材」であり、実務をすべて自分で行う必要はありません。ただし、上記のうち3〜4項目を内製できると、プロジェクト全体の整合性やスピードが大きく向上します。
役割定義のズレによるミスマッチ
設計職採用での失敗の多くは「思っていた仕事と違った」「判断ができないレベルの人だった」というズレです。明確に以下を定義しておく必要があります:
- どこまで自社の設計思想に沿った判断を任せるか?
- どの部分はあくまで「外注設計のチェック役」として求めるのか?
- 実務のどこまでを内製したいのか?
採用市場での「店舗設計人材」の実態とスキル相場
**要点:**設計人材の中でも「商業施設・店舗設計経験者」は限られており、そのスキルや給与水準は想像以上にばらつきがあります。業界の相場観を持つことは、採用成功の鍵です。
主な出身母体と特徴
| 出身母体 | 特徴 |
|---|---|
| 内装・設計事務所 | 意匠や空間演出に強く、図面も描ける。ただし企業文化や事業理解が弱い場合も |
| デベロッパー設計部門 | 法規・申請・現場経験あり。多店舗・標準設計に慣れていることが多い |
| メーカー設計部門(厨房・什器など) | 専門設備に強いが、空間全体設計への視野は狭いことも |
| フリーランス設計士 | 自走力あり、臨機応変。ただし組織内での協働経験は要確認 |
年収相場の目安(東京近郊・2025年時点)
| 経験年数 | スキルレベル例 | 想定年収 |
|---|---|---|
| 3年未満 | CAD操作・簡単なレイアウト対応 | 350〜450万 |
| 3〜7年 | 複数案件の設計管理経験あり | 450〜600万 |
| 7年以上 | 意匠〜VE〜現場調整まで一貫対応可能 | 600〜800万 |
※マネジメント・標準化設計対応ができると800万以上も
【判断軸】外注と社内設計のすみ分けポイント
要点:「すべて社内で完結させる」ことが正解ではありません。適切な判断軸をもとに、外注と社内設計の役割分担を明確にすることで、コストと品質のバランスが取れた運用が可能になります。
判断軸1:プロジェクトの頻度と規模
- 頻度が高く、小規模な案件が多い場合:
社内に設計リソースがあれば、スピーディに意思決定ができ、外注費も削減しやすい。 - プロジェクト単価が高く、複雑な法規対応が求められる場合:
専門事務所や建築士との連携が不可欠。社内はディレクション役に留めるのが現実的。
判断軸2:ブランドの世界観をどれだけ空間に反映させたいか
ブランド価値を空間で表現したい企業ほど、社内にブランド理解のある設計担当がいた方が望ましいです。逆に、汎用的な仕様や業態であれば、標準化図面を外注する方が効率的。
判断軸3:社内に蓄積したい「設計のナレッジ」の有無
- 複数店舗を展開する企業では、設計標準や成功ノウハウを蓄積できる体制が強みになります。
- 外注のみでは、この知見が業者ごとに分断され、社内に残らないというデメリットがあります。
判断軸4:社内コミュニケーションのしやすさ
営業・商品企画・施工管理との連携が密な企業では、社内に設計担当がいることでプロジェクト進行が格段にスムーズになります。
他社の設計内製化:成功している企業の共通点
**要点:**設計内製化が成功している企業には、組織文化や業務フローにいくつかの共通パターンがあります。
成功パターン1:「決裁の早さ」と「現場裁量」のバランスがある
- 内製設計者が、経営層や事業部との信頼関係のもと、裁量をもって動けること。
- 現場調整での判断権限があると、スピードと柔軟性が大幅に向上します。
成功パターン2:標準仕様とカスタマイズのルールが明確
- たとえば「標準寸法の什器は社内仕様」「特殊な演出照明は外注デザイン」など、境界線が明確。
- これにより、社内設計の再現性と外注コントロールが両立できます。
成功パターン3:設計担当が「社内翻訳者」的役割を担っている
- 空間づくりは、営業・商品・施工など複数部門の意見が交錯します。
- 成功企業では、設計者が「その意図を空間に翻訳する」役割を担っており、調整力・提案力に優れています。
設計採用でミスマッチを防ぐための3つのチェックリスト
**要点:**設計職の採用は「技術力」だけでなく、「社内との相性」や「役割のすり合わせ」が非常に重要です。以下の3つの視点を事前に確認することで、入社後のギャップを防ぎやすくなります。
チェック1:過去の設計経験と“その背景”を聞く
- どんな案件を、どの立場で、どのような目的のもとで担当してきたか?
- デザインだけでなく「なぜその設計になったのか?」を語れるか?
→ 設計のプロセスや判断基準が明確な人材は、社内調整にも対応しやすい傾向があります。
チェック2:「自社のプロジェクト」で何を任せたいかを明文化して伝える
- たとえば「複数店舗の標準図作成」「改装における内装提案」「動線設計からの参加」など、業務範囲を事前に提示。
- 曖昧な期待ではなく、具体的な職務範囲を共有することで、誤解を防げます。
チェック3:コミュニケーション力と“社内翻訳者”としての適性
- 複数部署の要望をどう整理し、図面や仕様に落とし込むか?
- 衝突や現場変更にどう対応してきたか?過去の経験を確認します。
→ 設計職=職人的ではなく、「社内の調整者」としての能力が重要です。
【適ドア適所】にそった「まとめ」
「店舗設計を社内で担うべきか?」という問いに対して、本記事では「頻度・コスト・ブランド・ナレッジ蓄積」という観点から、内製化のメリットとリスクを整理してきました。
特に、自動ドアや店舗什器の設計では、以下のような“適ドア適所”の視点が重要です。
- 頻繁なレイアウト変更がある業態(例:ドラッグストアや学習塾)では、荷重式などの柔軟な設計に強い人材が必要
- 高級業態やブランド性が重視される店舗(例:化粧品、アパレル)では、空間演出と設備との一貫性が問われる
- 小規模店舗・省スペース設計が多い業種(例:クリニック、調剤薬局)では、動線設計のスキルが重視される
したがって、単に「設計ができる人」ではなく、自社業態と空間運用方針にフィットした人材像を描くことが、採用成功の第一歩です。
【出典一覧・参考資料】
- 自社ナレッジ「Nドア顧客セグメントと導入事例」「NドアFAQ」
- Newtonドア各種チラシ(自治体・マンション)
- 建築士求人データ(2024年度時点)
- 各種企業の設計職求人要項より整理(Indeed, マイナビ等)