自動ドアといえば、センサーで反応して開く「電動式」を思い浮かべる方が多いかもしれません。ですが、実はそれだけではありません。「人の動きで開閉する」「電源がいらない」自動ドアも、現場では確実に活用されており、提案の選択肢として非常に有効です。
とくに“設計の意図”が問われる店舗設計コンペにおいては、「ドアをどう選ぶか」が提案の質を左右するケースも少なくありません。
本記事では、店舗設計のコンペで評価されるために必要な「ドア選びの視点」を、設計者目線で深掘りしていきます。
・コンペにおけるドアの位置づけとは?
・電動式以外の自動ドアとはどんなもの?
・空間に応じた“適ドア適所”とは?
・施主に「なるほど!」と思わせる提案視点とは?
これらを明確に整理することで、あなたの提案に設計的深みと差別化要素を加えられるはずです。
目次(このページの内容)
店舗設計コンペでは「ドア」も提案要素になる?
要点:
「ドア」は単なる出入口ではなく、空間体験や安全性、導線計画に関わる重要な設備。店舗設計コンペでは、内装材や照明と同様に、選定理由を問われることがある。
手がかり1:提案書に盛り込むべき“建材や設備”の扱い
店舗設計のコンペでは、単なるレイアウトだけでなく、使用する素材・設備・什器の提案理由まで説明を求められることが一般的です。とくに審査の中では「なぜそれを選んだか」「どう機能的に空間づくりに寄与するか」が焦点になります。
ドアは、図面上では出入口の線としてしか表現されないことも多いですが、実際の運用では以下のような機能を担っています:
- 導線の起点/終点
- 人の流れのコントロール(特に混雑時)
- 開放感/プライバシーの演出
- 防犯性・安全性・バリアフリー対応
- 静音・断熱などの環境性能
これらを踏まえると、ドアもまた「空間演出×機能」の重要な構成要素であることがわかります。
手がかり2:施主が重視する「快適性・安心感」の正体
施主が店舗設計に期待することは、見た目だけではありません。
たとえば、以下のようなポイントが提案書で評価されやすい要素です:
- 「お客様にストレスなく過ごしてもらいたい」
- 「誰でも安全に利用できるようにしたい」
- 「コストは抑えたいが、防災性には配慮したい」
これらのニーズを汲んで、設備を“機能性のある選定”として提案できると、施主から「ちゃんと考えてくれている」と信頼を得やすくなります。
とくにドアに関しては、次のような観点が含まれます:
| 検討観点 | 設計的視点の具体例 |
|---|---|
| 快適性 | 開閉音の有無、動線の妨げにならないか |
| 安全性 | 手挟みリスクの低減、停電時の対応 |
| バリアフリー | 車椅子でも通りやすい幅か、手を使わずに開けられるか |
| コスト | 初期費用・電気代・保守費用のバランス |
このように、ドアは“空間機能のスイッチ”としての役割を担っているため、設計提案でも明確に意図を持って語るべきパーツなのです。
「自動ドア=電動式」の思い込みが、提案力を下げている?
要点:
自動ドア=電動式という思い込みが、提案の選択肢を狭めている可能性がある。電源不要で機能性が高い「荷重式自動ドア」なども存在し、設計の幅を広げる。
根拠:実は、電源がいらない自動ドアもある
「自動ドア」と聞くと、多くの人が思い浮かべるのは「センサーで反応して電動で開閉するタイプ」でしょう。しかし、世の中にはもう一つの形があります。それが、「荷重式自動ドア」です。
荷重式自動ドアは、以下のような仕組みで動きます:
- ドアの前に設置されたプレートに人が乗る
- プレートがわずかに沈むことで、ドアが機械的に開く
- 人が離れると、バネの力で自然に閉まる
つまり、「人の重さ」を利用してドアが開閉する仕組みで、電気を一切使わずに作動するのが特徴です。
この仕組みを知っている設計者はまだ少なく、それだけに提案書に盛り込むことで「目のつけどころが違う」という印象を与えることができます。
視点:設計者が気づきにくい「ドアの機能性」の盲点
「ドア=通るもの」という視点だけで見ると、つい設計の中で軽視されがちです。しかし、自動ドアには以下のような“設計上の価値”が存在します:
| 観点 | 機能の具体例 |
|---|---|
| 電源の有無 | 停電時にも作動、配線工事が不要、維持費ゼロ |
| 静音性 | 電動音がないので、静かな空間と相性が良い |
| 故障リスク | 機械部分が少なく、メンテナンス頻度が低い |
| 空間の統一感 | 軽やかな開閉が、空間デザインと調和しやすい |
荷重式のような非電動の選択肢は、**「余計な設備が目立たない」「空間に自然に溶け込む」**という視点でも設計者の強い味方になります。
さらに、ユニバーサルデザインの視点や、BCP(事業継続計画)における非常時対応性の観点からも、荷重式は重要な提案材料になります。
導線・ゾーニングと連動する「適ドア適所」という発想
要点:
ドアは導線計画やゾーニングに密接に関わる。空間ごとに求められる役割を理解し、「適ドア適所」で選定することで設計提案の説得力が格段に上がる。
手がかり:人の流れと滞留をどうコントロールするか
導線とは「人がどう移動するか」、ゾーニングとは「空間をどう使い分けるか」という設計の基本です。そして、**ドアはこの2つの設計要素をつなぐ“動的な境界線”**ともいえます。
たとえば以下のようなシーンを考えてみてください:
- 入店時にストレスなく入りやすくする
- 会計後の導線を自然に外へ誘導する
- トイレやスタッフ動線をお客様と分離する
- 騒音や臭いが漏れないように空間を仕切る
これらをスムーズに実現するには、単に「開く」だけでなく、開く速度・音・タイミング・向き・手動か自動かなど、さまざまな設計要素が影響します。
つまり、**ドアは「動線を意識的にデザインできる唯一の装置」**ともいえるのです。
視点:ドアの選び方で変わる「体験価値」
空間の印象は、入口でほぼ決まるといっても過言ではありません。とくに、来店者の第一接点であるファサードのドアは、店舗の“無意識的なブランディング要素”ともなります。
以下のように、ドアの選定は体験価値と直結します:
| 空間タイプ | 適したドアの特性 | 理由 |
|---|---|---|
| 高級物販店 | 静音・開閉が滑らか | 落ち着いた雰囲気を損なわない |
| カフェ・ベーカリー | 非電動・軽やか | 親しみやすさと自然さを演出 |
| 医療施設 | バリアフリー・非接触 | 安全性・衛生面への配慮 |
| 駅ナカのテイクアウト店 | 開閉速度が早い | 回転率と効率重視 |
| 保育施設 | 指はさみ防止・軽操作 | 子どもの安全が最優先 |
設計において、これらを「用途に応じた選定軸」として明示することで、**ドアというパーツが“設計の意図を語る証拠”**となり、コンペでも評価につながります。
荷重式自動ドアという設計的ソリューション
要点:
荷重式自動ドアは、電源不要・静音・安全性などの面で設計的メリットが大きく、店舗空間の性格に応じた“最適解”となりうる。提案書に盛り込む価値がある。
解説:Newtonドアの仕組みと、電動式との違い
Newtonドアは、Newtonプラス株式会社が開発した荷重式自動ドアです。仕組みは非常にシンプルでありながら、設計者目線では非常に奥深い意味を持つソリューションです。
【仕組みの概要】
- 足元のプレートに人が乗る
- その重みで機構が作動し、ドアが自動的に開く
- プレートから離れると、バネの力で自動的に閉まる
【電動式との違い】
| 比較項目 | 電動式自動ドア | 荷重式(Newtonドア) |
|---|---|---|
| 電源 | 必須 | 不要 |
| 音 | モーター音あり | ほぼ無音 |
| 停電時対応 | 要バッテリー or 手動切替 | そのまま使える |
| 設置条件 | 電源確保・配線工事 | 設置のみで即使用可 |
| 故障リスク | モーターやセンサーの故障あり | 構造が単純で故障が少ない |
| 初期費用・維持費 | 高め | 抑えられる |
このように、導線上の静けさ・安全性・環境負荷・運用性の点で、荷重式は強い選択肢となります。
実例:どんな空間で採用されているのか(事例紹介)
Newtonドアはすでにさまざまなシーンで導入されており、「空間性格に合った設計提案」として評価されています。
【導入実績カテゴリー(抜粋)】
| 空間カテゴリ | 代表事例 | 採用理由(設計視点) |
|---|---|---|
| 医療・福祉施設 | 地域医療クリニック | 電源不要・静音・バリアフリー |
| 教育施設 | 小学校・図書室 | 子どもでも開けやすい・安全設計 |
| 公共施設 | 自治体庁舎・公民館 | 防災性・コスト面・メンテ性 |
| 物販店 | 地場産品店・ギャラリー | 雰囲気を壊さず空間に調和 |
| 飲食店 | ベーカリー・個人カフェ | 手を使わずに開閉可能・暖気保持 |
これらはすべて「設計意図を実現するために最適なドアを選ぶ」という思想に基づいています。
提案の根拠として“導入実績があること”は、施主への説得力を大きく高める要素となります。
コンペ資料に活かせる「提案視点」とは?
要点:
“ドア選び”を単なる設備選定で終わらせず、「設計的な意図」として語ることで、施主に納得感を与え、提案の差別化につながる。
スキル:差別化になる「設計意図」の伝え方
コンペ資料においてもっとも重要なのは、「選んだ理由」を設計者の言葉で語れるかどうかです。
設備の機能を並べるだけでは、“検索して得られる情報”と同じになってしまい、競争力にはなりません。
そのために大切なのは、「空間全体の設計意図の中で、なぜそのドアを選んだのか」というストーリーを持たせることです。
以下のような構成で、提案書に記載するのが有効です:
- 【課題設定】:「来訪者にストレスを与えない入店導線が求められる」
- 【選定理由】:「音がせず、自然に開閉する荷重式は、静かな空間性に合致する」
- 【設計意図】:「開閉動作が視覚に頼らず自然発生するため、来訪者が“自ら操作した感覚”なく入退店できる」
- 【運用視点】:「スタッフの対応負荷も減り、省電力で維持費もかからない」
このように「機能+設計意図+運用性」で構成すると、施主にとっても腹落ちしやすくなります。
手法:施主が納得する「選定理由」の組み立て方
「なぜこのドアなのか?」に答えるには、空間タイプや目的に応じた“提案ロジック”が必要です。
下記のようなフレームを使うと、資料に説得力をもたせやすくなります:
| 観点 | 質問例 | 設計に活かす切り口 |
|---|---|---|
| 空間の性格 | この空間は静的か動的か? | 静音性・動作感のコントロール |
| ユーザー特性 | 利用者は高齢者か、子どもか? | バリアフリー、安全機能 |
| 環境条件 | 停電時や省エネ対策が必要か? | 電源不要・省エネ設計 |
| 運用面 | スタッフの手が空いているか? | ハンズフリー・非接触導線 |
| デザイン | 雰囲気に合う素材・見た目か? | 建材との親和性、存在感の調整 |
このように、設計的選定=機能美と必然性の融合であるという視点を盛り込むことで、競合との差別化が実現します。
【適ドア適所】にそった「まとめ」
店舗設計のコンペでは、単に美しい空間を提案するだけでは不十分です。空間の使い勝手、安全性、快適性、そして運用面までを見据えた**「設計的な選択理由」があるかどうか**が、提案の評価を分けます。
自動ドアという設備もまた、その空間にとって「どうあるべきか」を考え抜く対象であるべきです。
ドア選定における“適ドア適所”の原則:
- 使う人にとって自然であるか?
- 空間の性格に合っているか?
- 導線の流れを阻害しないか?
- 非常時や環境負荷に配慮できているか?
設計者としての視点を提案に込める
この記事で紹介した荷重式自動ドア(Newtonドア)のように、電気を使わずに静かに開くドアは、静けさを大切にする空間や、省エネや災害対策を考える設計ではとても有効な選択肢になります。
ただし重要なのは、「このドアが良いですよ」と売り込むことではなく、その空間にはそのドアが最適である理由を、設計的に語れるかどうかです。
最後に
ドアは“ただ開け閉めするもの”ではなく、空間体験を大きく左右する「デザインと機能の接点」です。
設計者としての深い視点を持ち、「適ドア適所」の考え方をコンペ提案に組み込むことで、あなたのプランはより“選ばれる提案”に近づくはずです。
【出典・参考】
・Newtonドア.txt
・Newtonドアの安全性検証とJIS規格整合性.txt
・Nドア(チラシ)マンション.txt
・Nドア(チラシ)自治体.txt
・NドアFAQ.txt
・Nドア顧客セグメントと導入事例.txt
・Nドア自社チャネル.txt