設計図や仕様書の中でふと目にする「POG方式」という言葉。
しかし、いざ調べてみても、意味がよくわからない。そんな経験はありませんか?
「POG方式」とは一体何なのか。なぜ、電気を使わずに動くのか。そして、他の自動ドア方式とは何が違うのか――。
この記事では、そんな疑問を持つ方に向けて「POG方式」の全体像をやさしく、でも専門的に解説します。
防災対応やBCP(事業継続計画)を意識した施設選定が進む中、知っておきたい基礎知識と判断軸を、一つずつ丁寧に整理していきます。
読み終えたときには、「なぜこの自動ドアが採用されたのか?」に納得でき、「導入の是非を検討する材料」が自然と揃うように構成しています。
目次(このページの内容)
そもそも「POG方式」とは何か?
「POG方式」は、一般の自動ドアとは一線を画すユニークな構造を持っています。
結論から言えば、「手動操作で開くように見えるが、重力を使って自動的に閉まる」構造を持つ自動ドアです。
ここでよく聞かれるのが、「えっ、手動ドアならそれってただの扉じゃないの?」という疑問です。
実はそこに、「POG」の名称の由来が隠されています。
一般的に、POGとは Push Open Gravity の略称とされます。
- Push Open:手で押して開く
- Gravity:重力によって閉まる
つまり、外から見た印象は完全に「手動ドア」。けれども、一定の条件下では「自動で閉まる」=自動ドアとしての機能も担っているわけです。
日本では「電動で開閉するもの=自動ドア」と思われがちですが、JIS規格(JIS A 4722)では「自動で閉まる機構を持っているか」が自動ドアとしての定義の一部に含まれています。そのため、電源不要でも「自動ドア」としての要件を満たせるのです。
この仕組みが、災害時や停電時にも機能する「防災用自動ドア」として注目される理由にもつながっていきます。
POG方式の特徴とは? 他方式とどう違う?
POG方式の最大の特徴は、電気を一切使用せずに「自動的に閉まる」仕組みを備えていることです。
以下に、他の代表的な自動ドア方式と比較した特徴を整理します。
| 方式名 | 開閉の仕組み | 電源 | 停電時 | メンテナンス | 主な使用場所 |
|---|---|---|---|---|---|
| POG方式 | 手で開き、重力で閉まる | 不要 | 問題なく動作 | 極めて少ない | 公共施設、災害対応施設 |
| POMA方式 | 軽い力で手動開閉し、自動で閉まる | 通常不要(ただし補助的に使う例も) | 機械的に対応 | 少なめ | 小規模施設、住居用 |
| 電動式 | モーター駆動で開閉 | 必須 | 開かない、手動切替要 | 定期点検が必要 | 商業施設、交通機関 |
POG方式では、電源が必要ないため、構造も極めてシンプルです。
その結果、可動部のトラブルが少なく、長期にわたって安定稼働が可能になります。
また、内部にバネやスプリングを使う他の手動ドアと違い、「重力」を利用することで、開閉の動作が極めてなめらか。経年変化の影響を受けにくいという利点もあります。
つまり、POG方式は「電気に頼らず、確実に機能し続けること」を最優先に設計された方式であり、まさに災害対策やBCPに直結する考え方に基づいているのです。
なぜPOG方式が選ばれるのか?——防災・BCPの観点から
POG方式が注目される最も大きな理由は、「電気が止まっても安全に使える」点にあります。
これは、防災計画やBCP(事業継続計画)において極めて重要な視点です。
多くの自動ドアは、電気がなければ動作しません。
災害で停電が発生した際、自動ドアが閉じたまま開かず、逃げ遅れる――そうした事態を想像してみてください。特に、高齢者や障がい者の多い施設では、瞬時の判断と動作が求められるため、「手動切替」の存在を知っていても実行が難しい場面が想定されます。
では、POG方式の場合どうなるか?
- 普段どおり、手で押すことで扉が開く
- 手を離せば、自重と重力によって自動で閉まる
- 停電中でも、使用感はほぼ変わらない
このように、非常時に意識せず使える「日常と同じ操作性」は、安全性において非常に大きな価値を持ちます。
実際、POG方式は以下のような場面で高く評価されています:
- マンションのエントランス
- 電源遮断時も確実に出入りができる
- オートロックとの組み合わせで防犯面も確保可能
- 自治体の避難所施設(学校、体育館、公民館)
- 避難時に高齢者・子供でも開けられる
- 停電対応型設備として導入が進行中
- 医療・福祉施設
- 電動式との併用で、「日常」と「非常時」の切替が不要に
- 安全通路としての機能確保
とくに注目されるのが、「閉じ込めリスクを回避できる」という点です。
地震や火災時には、自動ドアが歪んだり、停電でロックがかかってしまったりして、出入口が機能しなくなるリスクがあります。POG方式はその構造上、外力に強く、しかも「人力での開閉ができる」ため、避難路の確保という観点で非常に有利なのです。
こうした背景から、POG方式は「防災対応型の入り口設備」として、行政機関や建築設計者の間でも再評価が進んでいます。
「電気を使わない自動ドア」は他にある?——POGとの違いも整理
「電気を使わない=POG方式?」と思いがちですが、実は電源を使わずに開閉できる自動ドアには、いくつか種類があります。
ここでは、その違いを整理してみましょう。
よくある非電源型の自動ドアの種類
| 種類 | 動作原理 | 特徴 | POGとの違い |
|---|---|---|---|
| スプリング式(バネ式) | 扉の上部や床にスプリングを内蔵 | 簡素で安価だが、経年で劣化しやすい | 重力ではなくバネの力で戻るため、戻りが速く、操作感がやや硬い |
| 空気圧式 | 空気の圧力で開閉を補助 | 扉の重さを軽減し、柔らかな動作 | 機構が複雑でコストが高く、メンテが必要 |
| POMA方式 | 人の力で開け、自動で閉まる簡易式 | 荷重式に近いが、設計強度が軽量向け | 重力ではなく、機械式バネなどで閉じる場合がある |
| 荷重式(Newtonドア等) | 扉自体の重さ・傾斜で閉まる | 電源不要、耐久性が高い | POG方式と極めて近く、構造と設計次第で同義に扱われることも |
ここで重要なのは、「POG方式=Newtonドア」ではない点です。
Newtonドアは荷重式を代表する製品であり、POG方式と非常に近いコンセプトを持っていますが、あくまで特定メーカー(Newtonプラス社)の製品です。
つまり、「電気を使わない自動ドアを選びたい」というニーズがあるとき、POG方式や荷重式を含む複数の機構を比較しながら、「その場所に合う方式」を選ぶことが重要になります。
その判断軸として、「使う人の力の強さ」「設置場所の勾配」「出入りの頻度」などが影響してくるのです。
導入の前に確認すべき3つの視点
POG方式のような非電源型自動ドアを導入する際、単に「防災によさそうだから」だけで判断するのは危険です。
設置環境や用途によっては、別の方式のほうが適しているケースもあります。
そこで、ここでは導入前に検討すべき「3つの視点」を整理します。
1. その場所に本当に適しているか?
POG方式や荷重式の自動ドアは、勾配や重力の方向をうまく利用する設計になっています。
したがって、設置場所の傾きや地面との摩擦、ドアの重さとのバランスが非常に重要になります。
チェックすべきポイント:
- 床面が完全に水平になっているか?
- ドアの重量は適正か?
- 利用者の年齢層や力の強さ(高齢者・子供・身体障がい者など)
こうした点を無視すると、「閉まりが悪い」「開けづらい」といった不具合が起きやすくなります。
2. 安全基準との整合性は取れているか?
POG方式の自動ドアは、JIS A 4722(建築用自動ドアの安全性)における「閉鎖方式自動ドア」に該当する可能性があります。
ただし、方式によっては厳密な基準適合を必要としないものもあり、選定時に判断を要する場面があります。
特に自治体施設や避難所に導入する場合、設計条件に「自動ドアであること」「防災設備としての証明があること」などが含まれることも多いため、製品仕様書や検証データの確認が欠かせません。
関連資料:
Newtonプラス社による「Newtonドアの安全性検証とJIS規格整合性」では、荷重式自動ドアがどのようにJIS規格と整合性を持つかを詳しく検証しています。
3. メンテナンス性と運用の実情
電動式の自動ドアと比べて、POG方式は「壊れにくい」「保守が少ない」と言われがちですが、それでも定期的な点検と清掃は欠かせません。
特に、ドアの軸受けやスライド部に異物が入ると、動作が重くなることがあります。
また、自治体や管理組合で導入する場合は、利用者が故障や不具合に気づいても、報告しづらいという課題もあるため、「保守の運用ルールづくり」が大切になります。
【適ドア適所】POG方式が真価を発揮する場面とは?
ここまでで、POG方式の基本構造や特徴、注意点を確認してきました。
最後に、POG方式が「最も力を発揮する」シーンをまとめておきましょう。
そしてそれは同時に、「その場所に最も適したドア方式は何か?」という【適ドア適所】の考え方にもつながります。
POG方式が適している主なケース
| 導入場所 | 適している理由 |
|---|---|
| 避難所(学校・体育館・集会所) | 停電時でも使用可能、利用者が子供や高齢者でも安心 |
| 自治体の災害対策本部 | 電源遮断でも出入り口が機能、BCP要件に合致 |
| マンションの非常用出入口 | 防犯と非常時の両立、オートロックと共存可能 |
| 工場や倉庫 | 電源系統の負荷を減らしたい、環境負荷を下げたい |
| 山間部や離島など | 電源が不安定な地域での信頼性が高い |
「電動/荷重/バネ」方式の使い分け基準
- 電動式:普段の利便性とデザイン性を重視。人通りの多い場所に適す。
- 荷重式(POG含む):災害時の信頼性を最優先。公共性の高い施設や避難所向け。
- バネ式:コスト優先。住宅や小規模施設向け(ただし耐久性に注意)。
判断に迷ったら?
もし導入を検討中で、「この施設にどの方式が合うかよくわからない…」という場合は、
・施設の利用者層(高齢者・子供・障がい者など)
・設置予定場所の物理的条件(傾斜、風圧、通行量)
・災害時の利用想定(停電、閉じ込め回避など)
この3点を基準に比較検討してみると、「適ドア適所」の考え方が役立つはずです。
【適ドア適所】にそった「まとめ」
POG方式の自動ドアは、一見するとただの「手動ドア」に見えるかもしれません。
しかしその中身は、**「災害時でも確実に開けられる」**という設計思想と、「電源に頼らず機能する」という確かな技術によって支えられた、**れっきとした“自動ドア”**です。
ポイントは以下の通りです:
- 電源不要でもJIS基準に準拠する安全設計
- 重力を活用したなめらかな開閉で、誰でも使いやすい
- 災害時の「出口の確保」を前提とした構造設計
- 電動・バネ式との比較により「適ドア適所」の判断が可能
特に、「いつものように開けて、自然に閉まる」この一連の流れが、災害時でも変わらないということは、避難における大きな安心材料になります。
POG方式は、利便性よりも「確実性」「安全性」を最優先にした設計思想の表れです。
それが本当に必要とされる場面――避難所、自治体施設、マンションの非常口など――に導入されてこそ、その価値が最大限に活かされます。
ぜひ、他方式としっかり比較しながら、「どの場所に、どんなドアがふさわしいのか?」を考える視点を持ってみてください。
【出典・参考資料】
- 『Newtonドア』製品情報(Newtonプラス社)
- 『Newtonドアの安全性検証とJIS規格整合性』報告資料
- 『NドアFAQ』より「荷重式と他方式の違い」
- 『Nドア顧客セグメントと導入事例』より活用シーン
- 自動ドア業界技術仕様書(各メーカー資料より再構成)