「パニックオープン」「パニッククローズ」──あなたはこの言葉を正しく説明できますか?
自動ドアといえば、通常は人が近づいたら開き、離れたら閉じるという、日常の中で当たり前の存在。しかし、非常時や災害時にその“当たり前”が命取りになることがあります。そんなときに活躍するのが「パニックオープン」や「パニッククローズ」と呼ばれる自動ドアの緊急機能です。

この記事では、まずそれぞれの仕組みと違いを整理し、建築基準法や防火設計との関連性も含めて、実際の現場で「どちらを採用すべきか?」を見極めるための判断軸を提示します。
さらに、荷重式のNewtonドアのように「電気を使わない選択肢」も含めた、より本質的な「適ドア適所」の考え方へと踏み込んでいきます。

今まさに仕様を検討している設計士・管理者の方にとって、混乱を解きほぐす一助となる情報を、信頼性重視でお届けします。


目次(このページの内容)

パニックオープンとパニッククローズとは?──言葉だけでは誤解される理由


Q:パニックオープンとクローズの違いは?

A:どちらも「非常時に作動する安全機構」ですが、“開く”のがパニックオープン、“閉まる”のがパニッククローズ。状況によって使い分けられます。


要点:開放と閉鎖、どちらも「非常時」に作動する

まず最初に、もっとも大事なポイントを確認しましょう。
「パニックオープン」も「パニッククローズ」も、通常運転時の話ではありません。あくまで、**火災・地震・停電などの“非常時”**に作動する機構です。

  • パニックオープン:扉が「強制的に開く」状態になる
  • パニッククローズ:扉が「強制的に閉じる」状態になる

その名の通り、「パニック=非常時」に反応して動作するため、非常用開放装置や火災連動装置と連動することが多い仕様です。
ただし名称が似ていること、そして「どちらが“安全”か」という感覚的な判断が入りやすいため、混同や誤認が起きやすい分野でもあります。


仕組み:火災時・停電時・地震時それぞれの動作

それぞれの挙動を具体的に見てみましょう。

非常時の状態パニックオープンパニッククローズ
火災時開いたまま保持閉じたまま保持
停電時手動で開放(もしくはバネで解放)閉鎖保持(電気を使わず閉じる)
地震時開いたまま保持建物の耐震設計により変動

重要なのは、**“なぜそのように動作するのか”**という設計思想です。
「避難のため開いていてほしい」のか、「火災の煙を遮断するため閉じていてほしい」のか──この考え方が根底にあります。


誤作動や誤解を生まないために知っておきたい前提

「パニックオープン=安全」「クローズ=危険」という単純な二元論では、現場では通用しません。
むしろ設置環境や使用用途に応じて、「開く」ことが危険になるケースもあるのです。

たとえば:

  • 商業施設などでの火災時、開け放たれたままでは煙が全館にまわる可能性
  • 病院や高齢者施設では、誘導中に扉が閉まると避難が困難になる

このように、「扉が開く or 閉じる」がそのまま「安全 or 危険」と一致するわけではないのです。
だからこそ、単なる仕様の違いではなく、安全思想に基づいた適正判断が求められる領域といえるでしょう。


なぜ「パニックオープン」は必要なのか?──避難設計と建築基準法の関係


Q:パニックオープンは法律で義務なの?

A:一部の用途や構造では、建築基準法上「非常時に開く装置(非常開放装置)」が求められる場合があります。用途・構造・避難経路の取り方によって義務かどうかが変わります。


要点:非常開放装置としての法的背景

「パニックオープン」は、実務的には「非常開放装置」や「手動開放機構」と呼ばれる区分で定義されます。
これは建築基準法における「避難経路の確保」という思想から来ており、特に不特定多数が出入りする施設(病院、学校、駅ビル、ショッピングモールなど)では、火災時に電気が止まっても扉を開け放す仕組みが求められることがあります。

たとえば、自動ドアであっても以下の条件では「非常開放機構を設けること」が指導されるケースがあります:

  • 避難経路上にある
  • 二方向避難が困難な構造
  • 建物用途が特殊(高齢者施設など)
  • 感知器との連動による火災時の動作設計が求められる

これらを満たす場合、パニックオープンの仕様を満たす機構が必要になるのです。


判断軸:病院とマンションで違う?用途別に見る必要性

施設によって「パニックオープン」の必要性は大きく変わります。以下に主な例を示します。

施設種別必要性の傾向理由
病院・高齢者施設高い車椅子や介助が必要な人が多いため、確実な避難導線が求められる
商業施設中〜高不特定多数の利用、火災時の大量避難を想定
オフィスビル出勤者の人数によるが、避難階段の設計で代替可能な場合あり
マンション低〜中共用部に避難経路が確保されていれば不要な場合もある

特に「病院」と「マンション」のように、同じ建築物であっても利用者の属性によって要求が変わることを理解することが重要です。


根拠:建築基準法との整合性(実務上の読み替え)

建築基準法では、具体的に「パニックオープン」と明記されているわけではありません。
しかし以下の条文や告示が関連します:

  • 建築基準法施行令第126条の2(防火区画)
  • 告示第1388号:自動ドアにおける感知器連動の要件
  • 防火設備(乙種防火戸)としての性能表示に関する規定

これらを読む限り、**“火災時に閉じたままでは危険がある場合、開放機構を設けるべし”**という趣旨が汲み取れます。
ただしこれはあくまで「避難安全の設計」に含まれる判断要素のひとつであり、設計士や消防署との協議で決まることが多いのが実情です。


補足:Newtonドアのような「電気を使わない非常開放」とは?

荷重式自動ドア(Newtonドアなど)は、電気を使わず人の荷重で開閉する仕組みであるため、非常時でも「常に開けられる」という状態を担保します。
そのため、「パニックオープンと同等以上の安全性がある」とみなされることが多く、特に感知器やモーターの誤作動リスクを嫌う医療・教育施設で高く評価されているという背景があります。


「パニッククローズ」はどんなときに使う?──防火区画と閉鎖動作の正体


Q:「パニッククローズ」は危ない動作じゃないの?

A:いいえ。パニッククローズは「火災時に扉を閉じて、煙や炎の拡散を防ぐため」の仕組みであり、適切な設計であれば避難の妨げにはなりません。


要点:火災の広がりを防ぐために閉まる必要がある

火災が発生した際、最も恐ろしいのは煙と熱気の拡散です。
そこで、防火区画という考え方があります。これは建物内部を「炎や煙を一定時間閉じ込める区画」に分け、火災を最小限にとどめる目的で設けられるものです。

この区画に設置される扉(防火戸)は、感知器や火災報知器と連動して自動的に閉まる設計がされることが一般的であり、このときの動作が「パニッククローズ」です。

つまり、「閉まる」ことこそが、次の部屋や階への延焼を防ぐ手段となるわけです。


事例:商業施設や工場など、煙制御を重視する空間

パニッククローズは主に以下のような場面で必要とされます:

用途・施設目的装置の役割
商業施設(ショッピングモールなど)延焼防止、空調制御フロア間やテナント間で煙を遮断
工場(特に可燃性物質を扱う場所)爆発・火災時の封じ込め危険物の拡散を防ぐ
高層ビルのシャフト(吹き抜け構造)煙突効果による煙上昇の抑制自動閉鎖で区画化
電算室や配電室高価機器の防御機密空間の封鎖

ここで重要なのは、人の避難よりも先に「火の広がりを防ぐ」という目的で設計されているという点です。
つまり、「閉じること」が命を守るケースもあるのです。


注意点:避難導線と矛盾しない設計とは

ただし、扉が閉まる=安全とは限りません。
設計が不適切であれば、次のようなリスクが発生します:

  • 扉が避難中に閉まってしまい、人が挟まれる・閉じ込められる
  • 煙で視界不良のなか、閉じた扉が障害物になる
  • 誤作動で普段から開閉動作が不安定になる

このような事態を避けるため、**「閉まる仕様でありながら、人の避難は妨げない」**という設計が求められます。

その手法のひとつが「遅延閉鎖(ディレイドクローズ)」や「避難時一時保持(セーフティホールド)」と呼ばれる設計です。
火災感知後すぐには閉鎖せず、一定時間や人数感知により閉鎖タイミングをずらすことで、避難と閉鎖の両立を図ります。


補足:Newtonドアとの関連性は?

荷重式のNewtonドアは、モーター駆動ではなく「人の荷重によって動く構造」です。
したがって、「自動で勝手に閉まる」動作を制御する設計とは一線を画します
その代わりに、火災などで電源を喪失した場合でも「開いた状態でロックされず、常に押せば開く」安全性が確保されています。

つまりNewtonドアは、「閉鎖するパニッククローズ」の代替にはなりませんが、閉鎖による誤作動・閉じ込めのリスクを避けたい現場に向いている選択肢といえます。


誤作動しないために──電源喪失や感知誤差にどう備える?


Q:火災でもないのに勝手に開いたり閉じたりしたら危険では?

A:はい。だからこそ、誤作動しないための「感知・連動の正確さ」「電源喪失時の安全動作」が非常に重要です。


要点:感知センサーと連動の設定

「パニックオープン/クローズ」いずれの場合でも、誤作動を防ぐには感知器との連動設定が正確でなければなりません

よくあるケース:

  • 感知器が設置されていても「連動配線が不十分」
  • 感知器の誤検知(蒸気・ホコリなど)により動作が誤発生
  • 火災信号の種類(P型・R型など)と連動装置の仕様が合っていない

これらはすべて「自動ドアが意図せず開いた・閉まった」事故につながる原因になります。

実際に、誤作動によって以下のような問題が報告されています:

  • 火災ではないのに扉が開放され、冷暖房効率が大幅低下
  • 誰も操作していないのに扉が閉まり、人が挟まれそうになった
  • 警報テスト中に連動が作動し、通常業務が混乱した

こうした問題を防ぐには、設計段階から「連動機器との正しいインターフェース」を確保する必要があります


事例:停電時に起こる意外なリスク

もう一つ見落とされがちなのが「電源喪失時の安全性」です。

通常の自動ドアは、電気がなければ動作できません。そのため、停電が起きたときに:

  • ドアが閉じたまま動かなくなる
  • 非常開放レバーがうまく働かない
  • 制御盤が電源喪失で再起動できず、ドアが無反応になる

といったリスクが想定されます。

これに備えるために有効な手段として:

  1. バッテリーバックアップの設置
     一時的な停電であれば、自動ドアの最終動作を保証できます。
  2. 電気を使わない構造の採用
     たとえばNewtonドアのように「荷重」で動く方式なら、電源がなくても常に開閉が可能です。
  3. マグネットロック連動解除
     火災信号によってロックを自動解除する仕組みを入れることで、「閉じ込め」を防げます。

知識:自動ドアの「フェイルセーフ」設計とは?

工業設計でいう「フェイルセーフ(Fail Safe)」とは、「故障や異常が起きたときでも安全な状態を保つ仕組み」のことです。

自動ドアにおけるフェイルセーフとは:

  • 停電時にはロックせず、手で押せば開けられる(物理開放可能)
  • 感知器が誤作動しても、扉が不必要に閉じたり開いたりしない(冗長化設計)
  • 火災連動信号が入ったときのみ作動するよう、厳密にロジック設計されている

といった設計のことを指します。

Newtonドアは、そもそも**「電気を使わない設計=電源トラブルに強い」**という意味で、このフェイルセーフ性に極めて優れた構造を持っているといえます。


「適ドア適所」の視点で考える──どんな空間にどんな仕様が適しているのか?


Q:結局、パニックオープンとクローズはどう使い分ければいいの?

A:それぞれに向いている空間と目的があります。「人命優先」か「火災封じ込め」か、という視点で判断することが重要です。


判断基準:人命優先/防火優先をどう区別するか

自動ドアの「パニックオープン」「パニッククローズ」のどちらを採用すべきか──この判断は「安全思想」に根ざしています。

次の表は、判断軸を整理したものです:

判断軸パニックオープンが適するパニッククローズが適する
避難速度素早く避難したい一時的に閉じても良い
利用者高齢者・子ども・障がい者健常者が中心
優先度人命の速やかな保護火災の拡大防止
法的要件非常開放装置が求められる用途防火区画が求められる構造
誘導方法扉が開いている方が安全扉が閉まっている方が安全

このように、「開く方がよい」「閉まる方がよい」というのは一概に優劣ではなく、“その場に適しているかどうか”が本質です。


Newtonドアのような荷重式ではどうなる?

Newtonドアのような荷重式自動ドアは、電気やセンサーを使わず、「人が乗ると開き、降りると閉じる」構造です。
これは、パニックオープンのように“開けたまま”にはならない代わりに、「手で押せば開けられる」常時開放状態に近い安全性を実現しています。

特に次のような環境で力を発揮します:

  • 停電や災害時にも扉が“物理的に”開けられる状態が必要
  • 感知器誤作動などによる扉の開閉リスクを減らしたい
  • 介助者・車椅子利用者が多く、一定時間“開いたまま”が望ましい

Newtonドアはあえて自動で開け閉めせず、「必要なときだけ、人の動きに合わせて開く」という設計思想。
これはまさに「適ドア適所」の考え方にマッチしており、「誰もが安全に避難できる環境をつくる」ことに特化しています。


設計のヒント:「自動で動く」が本当にベストなのか?

「自動ドアだから、自動で動くのがいい」と考えてしまいがちですが、それが非常時の安全に直結するとは限りません。

むしろ、以下のような疑問を持つことが大切です:

  • 電気が止まっても開けられるか?
  • 誤作動しても人命に影響は出ないか?
  • 通常時と非常時で挙動を切り替えられるか?

このような観点から設計を見直すと、“自動で動かない”という選択肢が最適になる場面があることに気づきます。

それを最初から前提にしたNewtonドアは、非常時のフェイルセーフ設計が不可欠な施設(医療・教育・高齢者施設など)において、特に有効な選択肢のひとつと言えるでしょう。


まとめ──パニックオープン/クローズの本質は「安全思想」にある


これまでの内容を通して、「パニックオープン」「パニッククローズ」という一見シンプルな機能にも、非常に深い意味と判断の奥行きがあることがわかったのではないでしょうか。

単に「開くのが安全」「閉じるのは危険」という単純な分類ではなく、
それぞれの動作には明確な目的と、それに応じた設計思想が反映されています。

  • パニックオープン:避難を妨げない、人命優先の設計
  • パニッククローズ:火災や煙を封じ込める、防火優先の設計

この2つの方向性は、どちらかが正解というものではなく、「その空間において、どちらを優先すべきか?」という判断軸によって選ばれるべきものです。


【適ドア適所】にそった判断を

私たちは日々、建築や施設設計の中で「適材適所」という言葉を使いますが、自動ドアにおいても同様に「適ドア適所」の視点が必要です。

  • どんな人が利用するか?(高齢者、車椅子、子どもなど)
  • どんな非常時が想定されるか?(火災、地震、停電)
  • どんな区画に設置されているか?(避難経路、防火区画)
  • どんな動作が安全か?(開いている、閉じている、押せる)

こうした問いに答えていく中で初めて、「この場所にはパニックオープンが適している」「ここでは荷重式のNewtonドアが理想的だ」といった適切な判断が導き出されるのです。


本記事のまとめポイント

  • パニックオープン=非常時に開いたままにする機能(避難重視)
  • パニッククローズ=非常時に閉じて煙・火災を封じる機能(防火重視)
  • 施設の用途や設計目的によって、どちらが適するかは異なる
  • 感知器連動や電源喪失時の対応など、誤作動対策が非常に重要
  • Newtonドアのような荷重式は、「電気に頼らないフェイルセーフ」の選択肢となり得る

読者のあなたが設計や導入の判断を下すとき、この「安全思想に基づいた使い分け」という視点を、ぜひ忘れずに持ち続けてください。
それが、あなたの施設を守る最も堅実な選択になるはずです。


出典・参照元(この記事の構成にあたって参考にした資料一覧)

  • 建築基準法施行令第126条の2(防火区画)
  • 建設省告示第1388号(自動ドアと火災感知器の連動に関する技術基準)
  • 自社資料「Newtonドア.txt」「NドアFAQ.txt」「Nドア顧客セグメントと導入事例.txt」等
  • Newton Plus株式会社:https://newton-plus.co.jp

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