自動ドアを設置したい、あるいは更新を検討しているときに、最初に直面するのが「電源と配線はどうすればいいのか?」という問題です。
自動ドアは見た目こそシンプルですが、内部にはモーターやセンサー、制御盤など多くの電気部品があり、これらを安全に動かすためには適切な電源設計が欠かせません。
結論から言うと、自動ドアには専用の電源と正しい配線計画が必要です。
ただし「どんな電源をどう確保するか」「どこまで工事が必要か」「停電時にはどうなるのか」は、設置場所やドアの種類によって大きく変わります。
この記事では、一般的な電動式自動ドアの電源構造から、停電時の安全設計、さらには電源不要の「荷重式(Newtonドア)」まで、体系的に解説していきます。
目次(このページの内容)
自動ドアの「電源」と「配線」にはどんな仕組みがある?
自動ドアの基本構成は、「センサー」「制御装置」「駆動装置(モーター)」「電源装置」です。
これらは全て電気によって動作し、家庭用のコンセント電源(AC100V)ではなく、専用回路から安定した電源を供給するのが一般的です。
電源の種類は、
- 小型自動ドア:AC100V
- 大型・高出力型:AC200V(三相)
という使い分けが多く、ブレーカーから専用回路を分岐して供給します。
配線ルートは、天井裏や壁内を通してセンサーや駆動部へとつながります。配線の中で特に重要なのが制御線と電力線の区別です。制御信号(センサーやスイッチ)は弱電流、モーターは強電流を扱うため、誤って同一管内に通すとノイズや誤作動の原因になります。
また、アース(接地)を取ることは必須です。
感電防止だけでなく、ノイズによる誤作動を防ぎ、装置の寿命を延ばす役割も果たします。
電源や配線はどこから取る?工事の流れと注意点
自動ドアの電源工事は、「新設」と「後付け」で大きく異なります。
**新設時(建築段階)**では、建築設計に合わせて天井内に電源配管を仕込むことができるため、最も効率的で安全な施工が可能です。
一方、既存建物への後付けでは、既存配線や天井構造に合わせてルートを工夫する必要があります。
基本の流れは次の通りです:
- ブレーカー盤から専用回路を確保(100Vまたは200V)
- 天井裏・壁内に配管を通す(PF管またはCD管)
- 制御盤・センサー・駆動モーターへ電源と信号線を結線
- 試験通電・絶縁確認
- 動作試験・安全確認
電気工事士による施工が必須です。
「コンセントから延長コードで電源を取る」といった行為は、感電・火災リスクがあり、法令違反にもなります。
特に既存の施設では、天井裏にスペースがない、あるいは電源盤が遠い場合、電源の確保自体が課題となるケースもあります。
そのため、施工前には必ず以下を確認するチェックリストを活用します。
施工前チェックリスト(抜粋)
- ブレーカー容量に余裕があるか(15A以上が望ましい)
- 既存電源からの距離(5m以上なら別系統推奨)
- 停電時の安全確保(UPS・非常バッテリーの有無)
- アース線の確保
- 周囲配線のノイズ源(空調機・照明機器など)
停電したら自動ドアはどうなる?安全対策と非常対応
停電時、自動ドアが開かなくなるという不安を持つ方は多いでしょう。
しかし、正しく設計された自動ドアは、停電しても安全を確保する構造になっています。
一般的な自動ドアには、2つの動作モードがあります。
- ロックフリー型(常時解放)
→ 停電時、自動的にロックが解除され、手で開けられる。 - セーフロック型(防犯重視)
→ 停電時も閉鎖を維持。ただし内側からは手動で開放可能。
また、UPS(無停電電源装置)を備えたタイプでは、停電後も10〜30分間は自動開閉が継続可能です。
避難経路に設置される自動ドアでは、消防法上、手動開放機構(非常レバーやスイング機構)が義務づけられています。
要するに、「停電=閉じ込められる」ことはありません。
ただし、UPSを定期点検しないと非常時に作動しないという事例も多く、点検体制が安全の鍵となります。
電源トラブルを防ぐ!配線メンテナンスと点検のポイント
自動ドアの電気系統は、日常的には意識されにくい部分ですが、誤作動や故障の多くが**「配線劣化」や「端子の緩み」**によって起こります。
特に注意すべきトラブル要因は次の4つです。
- ケーブル被膜の劣化:紫外線・湿気・経年により絶縁が低下。感電や短絡の危険。
- 端子緩み:振動や温度変化で接点が緩み、接触不良を起こす。
- ノイズ混入:近くの蛍光灯や空調機器が発する電磁ノイズで誤動作。
- アース未接続:ノイズ除去ができず、制御盤が不安定になる。
これらを防ぐには、定期的なメンテナンスが欠かせません。
建築基準法では、自動ドアは「建築設備」として扱われ、年1回以上の定期点検が求められます。
消防法上も、避難経路に関わる自動ドアは非常開放機能の作動確認が義務化されています。
点検内容の一例:
- 絶縁抵抗・漏電の測定
- ブレーカー容量の再確認
- UPS(非常電源)のバッテリー電圧測定
- 制御盤・センサーの動作確認
もし定期点検を怠ると、センサー誤動作や開閉異常などのトラブルが発生し、結果的に修理コストが膨らみます。
つまり、「動いているから大丈夫」ではなく、「定期的に確認して初めて安全」が自動ドアの電源まわりの鉄則です。
電源が取れない場所には?「電源不要タイプ(荷重式)」という選択肢
ここまで、一般的な電動式自動ドアを前提に説明してきましたが、すべての場所で電源を確保できるとは限りません。
たとえば、次のような現場では「電源を引くこと自体」が現実的ではありません。
- 避難所・仮設施設・公共トイレ
- 無人出入口や夜間閉鎖の通路
- 歴史的建築物や文化財(電気配線が制限される)
- 小規模マンションや自治体施設の屋外出入口
こうした環境で注目されているのが、**荷重式自動ドア(Newtonドア)**です。
Newtonドアは、電気を一切使わず、「人がドアの上に荷重(体重)をかけることで開閉する」構造になっています。
内部には特殊なリンク機構とダンパーが組み込まれており、
- 通行者が床プレートに乗る
- 荷重を検知して開く
- 離れるとゆっくり閉まる
という一連の動作が、電力なしで実現します。
つまり、電源も配線も不要でありながら、自動で開閉する安全構造なのです。
さらに荷重式には、以下のような特徴があります。
| 項目 | 電動式自動ドア | 荷重式(Newtonドア) |
|---|---|---|
| 電源 | AC100V/200V 必要 | 不要(完全非電源) |
| 停電時 | UPSが必要 | 影響なし |
| 工事 | 電気工事+建具工事 | 建具工事のみ |
| メンテナンス | 制御・電気系の点検必要 | 機構点検のみ |
| 主な用途 | 施設入口・商業施設 | 公共施設・無人通路・避難所など |
| 特徴 | 高機能・高頻度対応 | 無電源・防災対応・低負担 |
この仕組みは、電気トラブルを原理的に排除できるため、**停電時にも確実に開閉できる「安全側設計」**として、多くの自治体やマンションで採用が進んでいます。
【適ドア適所】電源式と荷重式の使い分け判断軸
ここまで見てきたように、自動ドアは「電源式=万能」ではありません。
現場ごとに適した方式を選ぶことで、安全性・コスト・維持性のすべてを最適化できます。
選び方の軸は、**「環境適合性」**です。
どちらが優れているかではなく、どんな環境に適しているか、という視点で整理してみましょう。
| 判断軸 | 電源式自動ドアが適する | 荷重式(Newtonドア)が適する |
|---|---|---|
| 電源確保 | 容易(商業施設・新築) | 困難(仮設・屋外・公共) |
| 利用頻度 | 高い(大型施設・人通り多い) | 低〜中(限定利用・省エネ重視) |
| 停電時対応 | UPS・非常電源で補う | 無電源なので影響なし |
| 保守コスト | 電気点検あり | 機構点検のみで低コスト |
| 安全性 | センサー・制御で高精度 | 構造的に安全(閉じ込めなし) |
| ライフサイクル | 電子部品の交換が必要 | 長期安定・環境依存が少ない |
したがって、
- 電気供給が安定しており、頻繁な利用がある場所 → 電源式
- 停電リスクや工事制約がある場所 → 荷重式
というように、**「適ドア適所」**の考え方で判断することが、最も安全で経済的です。
この視点は、Newtonプラス社の製品開発哲学にも通じています。
つまり、ドアは“万能ではなく最適”であること。
それぞれの環境・利用目的・人の流れに合わせて選ぶことが、本当の意味での「安全設計」につながります。
【適ドア適所】にそった「まとめ」
- 自動ドアは基本的に電源(AC100V/200V)を必要とするが、専用回路と安全配線が不可欠。
- 配線計画には電気工事士の施工が必須で、法令上の安全確認も求められる。
- 停電時にはUPSや非常開放機構により、人が閉じ込められない構造になっている。
- 定期点検を怠ると、配線劣化・漏電・誤作動が発生しやすい。
- 電源確保が難しい場所では、「電源不要型(荷重式)」が有効な選択肢となる。
- 「電源式」も「荷重式」も、どちらが優れているかではなく、「どんな現場に適しているか」で判断する。
出典・参考資料
- 日本自動ドア協会(JADA)「自動ドアの安全設計指針」
- 建築設備協会『建築設備の電気設計入門』
- Newtonプラス社『Newtonドア安全性検証とJIS整合性レポート』
- 消防法施行規則 第32条
- 電気工事士法